明治元年創業の老舗和菓子屋『二葉屋』
11月某日、さんたつ編集部がやってきたのは月島駅。1回目の実踏の際に比べると少し肌寒くなったが、まだまだ散歩日和。意気揚々と歩きだした。
今回は柳谷ナオさん考案の散歩コースを歩く。
「個人的に気になるポイント」を丁寧にあげていただき、ルートもわかりやすく、何より内容に惹かれた。
月島駅4番出口から佃大通りに入る。昔ながらの味わい深い建物が並んでいて、早速その雰囲気にテンションが上がる。
佃大通りを歩いているとほどなくして、最初の目的地である和菓子屋『二葉屋』が姿を現す。
明治元年(1868)に洲崎(現・江東区東陽)で創業した『二葉屋』は、大正7年(1918)に現在の佃に移転し、4代目店主の手で2020年の年末にリニューアルオープンした。
ザ・和菓子屋さんというたたずまいに期待が高まる。
店内を覗いてみると、楽しみにしていた「佃もち」が見当たらない。もう品切れてしまっただろうか……店内に足を踏み入れ、お店の方に伺ってみると、ちょうど出すところだったとのこと。よかった!
人数分購入し、お店の方との交流に心も温まり、ほくほく気分でお店を後にした。
住吉神社で運試し
続いての目的地へ向けて歩いていると、佃小橋にたどり着いた。
「佃住吉講」によると、佃小橋の下(川底)には、江戸時代後期・寛政10年(1798)、徳川幕府より建立を許された大幟の柱・抱(住吉神社の例大祭に用いられる)が埋設されているそう。
佃の路地はレトロな風情があり、時間の流れが変わったような印象を受ける。
気持ちも緩やかに散歩していると、柳谷ナオさんが気になるポイントとしてあげていた、手動のくみ上げ水ポンプを発見することができた。
路地をめぐり、足を運んだのは住吉神社。
住吉神社は、徳川家康の江戸入府に伴って摂津国(現大阪)から佃島に移住した漁師たちが、故郷の住吉大社の分神霊を勧請して正保3年(1646)に創建された。
まずはしっかりご挨拶。
境内に「だるまみくじ」があったので、さんたつ編集部で引いてみた。
だるまの色によって占える内容が異なり、それぞれに緑色(身体安全)、黄色(金運招来)、紫色(道中安全)のだるまを手にした。
さて、結果は……2人は大吉だったが、筆者だけ小吉だった。
「願事、あせらず騒がずゆるゆる進めばよし」とのこと。
よし、ゆるゆる行こう!
佃煮の老舗『天安本店』
過去の記憶をたどり、ふと足を向けた先は佃天台地蔵尊。
細い路地を進んでいった先に佃天台地蔵尊はあり、天井を突き抜けているイチョウの木に目を瞠(みは)る。
小さい祠もあり、お花などが供えられ、寄進された提灯がずらりと並んでいた。
当初の目的地にはなかったが、こんな出会いも散歩の醍醐味(だいごみ)の1つ。
さらに周辺をてくてく歩いていると、昔ながらの酒店に目が留まり、立ち寄ってみることに。
入店して驚いたことに、店内の陳列をほとんど占めているのは駄菓子!予想していなかった光景だが、懐かしさが心を潤した。
さくら大根やビッグカツを購入し、ふとカバンの中を確かめると、お土産でいっぱいいっぱいになりつつある。楽しい思い出が詰まっていく証拠だ。
寄り道した後で、次の目的地へ。
老舗の佃煮屋さん『天安本店』だ。
お店の顔貌(がんぼう)に引き寄せられ、そっと足を踏み入れると、佃煮のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
ここで、『天安本店』の由来について。「天安」の商号誕生は、天保8年(1837)に創業した初代が安吉という名で、天保年間の「天」と安吉の「安」をとって「天安」と命名したのだという。
『天安本店』の佃煮は長持ちするため、遠方の方への進物にも重宝されるそうだ。
佃煮はすぐ食べられ、一方で保存がきき、栄養の点ではタンパク質、カルシウム、鉄分など人体に必要なものが多種多様に含まれている。
いいこと尽くしだ。
めいめい、好きな佃煮をお土産に購入。柳谷ナオさんがおすすめしていた「たら子」と「生姜」はもちろんゲットした。
帰宅後、早速食べてみたところ、いくらでもご飯が進む味わい深さ……。晩酌のおつまみにもうってつけで、虜(とりこ)になりそうだ。
『天安本店』でもお店の方の温かさに触れ、再訪を誓うのだった。
佃公園の青いベンチで、『二葉屋』の佃もちを頬張る
『天安本店』を後にし、続いての目的地は住吉小橋を渡った先、佃公園。
余談だが、筆者は住吉神社や佃公園の辺りを歩きながら、以前ここに漫画『3月のライオン』(作:羽海野チカ/白泉社)の聖地巡りで訪れたことがあったことを思い出していた。
隅田川沿いの佃公園もまた落ち着いた時間が流れ、園内で最初に目を引いたのは石川島灯台を復元した建物。
石川島の灯台は慶応2年(1866)に築かれた六角二層の堂々たる灯台だった。
立派な外観に、昔日の面影をなぞる。
佃公園内でお土産として購入した『二葉屋』の「佃もち」を頬張ろうとしたが、柳谷ナオさんが気になるスポットとしてあげていた「縁の青いベンチ」がなかなか見つからない。「君は来るだろうか~♪」と心の中で口ずさみながら探し、ようやく見つけることができた。
隅田川を一望できる位置に、青いベンチ。なんだか青春感があっていいじゃない。
ここでお待ちかね、佃もちの実食タイム! 紙の包装からかわいらしい見た目の和菓子が現れる。
ひと口頬張ると……うまい! 思わず頬を緩めてしまうおいしさ。求肥の柔らかい食感の中に、細かく刻んだ干し杏が練り込まれていて、これがすごくいいアクセントになっている。
とろけるように柔らかい生地と、ほのかな甘さと爽やかな酸味がほどよく調和した、優しい味わいだ。月島に立ち寄った際は、ぜひご賞味あれ。
舌も満足したところで、隅田川沿いを歩いていき「パリ広場」へ向かった。
周辺を遮るものが少ない開けた場所で、両手を思い切り伸ばしたくなるような開放感に包まれる。
中央大橋を渡り、和菓子店『翠江堂』へ
開放感を味わったところで、先ほどから存在感を放っていた中央大橋を渡る。
「橋の右側を歩いてください」、との柳谷さんの指示があったので、右側を進んだ。
すると中心部で姿を見せるのは、「メッセンジャー像」。フランス・パリを流れるセーヌ川と隅田川が友好河川であることから、友好締結の際に当時のパリ市長から寄贈されたものだという。
鍛え上げられた下半身と背中は見えるが、お顔は拝見できない。
橋を渡り切り、八重洲通りを直進。次なる目的地は『翠江堂』だ。
『翠江堂』は隅田川のほとりにある、創業80年の和菓子店。翠(みどり)の江(かわ)のほとりにあるお店、というのが店名の由来だ。
色とりどりの和菓子から真心がこもっていることを感じられる。
人気の苺大福も惹かれたが、ここは柳谷さんがおすすめしてくれた「そがの里」を購入。
甘さと酸っぱさのハーモニーがたまらなくおいしい一品だ。
こちらのお店の方も温かく……と、書いていて気がついたが、今回の散歩コースエリアのみなさんは本当にいい方ばかりで、街の雰囲気はこうして作られているのだと改めて感じた。
『2F coffee』でとっておきのスコーンとプリンをいただく
まもなく今回の散歩も終わりを迎える。名残惜しさを感じつつ、小さな橋を越えた先に『本の森ちゅうおう』という建物が現れた。
『本の森ちゅうおう』は2022年12月4日にオープン。図書館と郷土資料館が併設され、さらに多目的ホールやカフェを備えた複合施設だ。
この施設も柳谷ナオさんが気になるスポットとしてあげてくれたものだ。また訪れてみたくなるスポットが増えた。
そして、いよいよ最後の目的地である『2F coffee』へ。
隠れ家風の外観に早速心を惹かれる。
『2F coffee』という店名は、2階(2F)にあることに由来している。階段を上っていった先には小さいスペースながら、心和むような空間が広がっていた。ウッディなテーブルと椅子が、居心地のいい空間の創出に一役買っている。
『2F coffee』はQグレーダー(コーヒーの専門技能の国際資格)の店主がセレクトしたスペシャルティコーヒーと、毎日店内で焼いているオリジナルマフィン、さらにスコーンやプリンを楽しめるお店だ。
目の前の通りを見渡せる窓際の席に案内していただく。ホットコーヒーとともにオーダーしたのは焼きたてのスコーンと、アイスクリームがのせられたプリン。
まずは、スコーンをいただく。焼きたてがうれしい。この日はりんごジャムとクリームチーズとともに、パクリ。う~ん、おいしい! 優しい味わいで心が満たされる。
ジャムは季節によって変わるため、季節ごとに訪れる楽しみが尽きないだろう。
続いて、プリン。アイスクリームが添えられていることで贅沢さが増す。
こちらもおいしい。かためで滑らか、ほどよく苦味の効いたカラメルが深い味わいで、アイスクリームと一緒にいただくと格別だ。
このプリンを目当てに来店されるお客さんも多いそうで、頷ける。
焼きたてのスコーンやコーヒーの香りに鼻腔をくすぐられ、お腹も満たされた。
店主の笑顔に見送られて、最終目的地である『2F coffee』をこの上ない心持ちで後にした。
※『2F coffee』は定員2名まで。
人情に触れ、川沿いの景観に心和み、佃煮や甘味の味わい深さに心を打たれた。いつかまた、このエリアに足を運ぼうという思いが、胸中に自然と宿っていた。
改めまして、魅力溢れる散歩コースをお寄せくださった柳谷ナオさん、さんたつサポーターのみなさま、ありがとうございました!
取材・文・撮影=さんたつ編集部