穏やかな空気の中、旧中山道歩きスタート

中山道を清水町から旧中山道に入ると、マンションや新しい店が増えても、旧街道独特の穏やかな空気が流れている。

見上げた人だけが気づく真っ白キリン。旧街道の見張り番?
見上げた人だけが気づく真っ白キリン。旧街道の見張り番?

『御菓子司 喜屋(きや)』に並ぶ季節の和菓子や羊羹の変わらぬ味。法事や茶席、町会の寄り合いや祭礼など、夫婦二人三脚で作る和菓子への注文は、多くの顧客からの信頼をつないでいる。

『御菓子司 喜屋』。「串だんご(100円)は旅のお供に最適!」。
『御菓子司 喜屋』。「串だんご(100円)は旅のお供に最適!」。

環七に分断されても、歩行者専用道路の細い糸が陸橋の真下に続く。
坂の途中に突如現れる縁切榎と小さな社。江戸の昔から男女の悪縁を断つパワースポットなのに、いつしかそこに良縁を結ぶ力が加わったとか。そのアバウトさがまたほほえましい。

環七通りにかかる陸橋の下、手が届きそうな自動車用信号機。
環七通りにかかる陸橋の下、手が届きそうな自動車用信号機。
江戸時代より、男女や全ての悪縁を断つパワースポット。現在の榎は3代目。良縁も生むとか。
江戸時代より、男女や全ての悪縁を断つパワースポット。現在の榎は3代目。良縁も生むとか。
板橋区本町に「関東最恐」と言われている縁切りスポットがあるという話を聞きました。その名も縁切榎(えんきりえのき)。縁切りと言うとなんだか物騒な感じですが、飲酒などの悪癖を断つことや、悪縁を断ち切り良縁を繋ぐといった開運の意味で現在は人気の様子。縁切榎は一体いつから関東最恐の縁切りスポットとして知られるようになったのでしょうか。今回はその由来や歴史を探るため、実際にこの木のある場所を訪れてみることにしました。

地名の由来にもなった板橋を渡り、石神井川沿いを少し遡(さかのぼ)って中山道を越えた新板橋のたもと、『氷川つり堀公園』ののどかさに、さらに頬が緩む。

石神井川に架かる、地名の由来にもなった正真正銘の板橋。川沿いには八重桜の並木が続く。「江戸時代には船が行き来してたんだろうなぁ」。
石神井川に架かる、地名の由来にもなった正真正銘の板橋。川沿いには八重桜の並木が続く。「江戸時代には船が行き来してたんだろうなぁ」。
手すりには結ばれたおみくじが。
手すりには結ばれたおみくじが。
中山道近くとは思えない、まったりムード満載の氷川つり堀公園。
中山道近くとは思えない、まったりムード満載の氷川つり堀公園。

宿場町の歴史と現代の暮らしをつなぐ道

室町時代創建の氷川神社。本殿裏に並ぶ5つの神輿倉の扉は、いつもニコニコ顔。
室町時代創建の氷川神社。本殿裏に並ぶ5つの神輿倉の扉は、いつもニコニコ顔。
王子新道が横切る上宿と仲宿の境目は、活気と趣ある交差点。
王子新道が横切る上宿と仲宿の境目は、活気と趣ある交差点。

旧街道に戻れば、ひょいと本陣跡の碑、小さなお寺の馬頭観音、江戸の面影が顔を出す。中山道の宿場町が書かれた板橋三丁目縁宿広場や、斜め前の立派な庚申堂を見ると、脳細胞は完全に江戸時代とリンク。

板橋三丁目縁宿広場には、日本橋から京都まで中山道67宿の名前が。
板橋三丁目縁宿広場には、日本橋から京都まで中山道67宿の名前が。
往時の豊かな経済力を示す、観明寺境内にある大きな庚申塔。
往時の豊かな経済力を示す、観明寺境内にある大きな庚申塔。

そんな時は『パンを楽しむ店 ぱーね』でパンと生ビール。うん、現代だっておいしいぞ。

『パンを楽しむ店 ぱーね』。オーナーシェフの末次さん「この生フォカッチャが、ビールに合うんですよ」。
『パンを楽しむ店 ぱーね』。オーナーシェフの末次さん「この生フォカッチャが、ビールに合うんですよ」。

繋がりは海外までも。縦横無尽のリンク網

もう一度中山道を渡って、JR板橋駅に続く商店街へと入る。右に逸れると、板橋区とカナダ・バーリントン市の姉妹都市提携を記念して贈られた赤石などを設置した板橋駅前公園。旧街道のリンク先は海外へも広がっている。

友好関係を結ぶカナダのバーリントン市から寄贈された古代の石。
友好関係を結ぶカナダのバーリントン市から寄贈された古代の石。
高速道路と中山道の真下にぽっかり開いた新板橋駅入り口。
高速道路と中山道の真下にぽっかり開いた新板橋駅入り口。

そしてJR板橋駅前にそびえるケヤキの巨木は、むすびのけやきとか。縁切榎の負をここで帳消しにする魂胆にクスクス……。

縁切榎で悪縁切ったら、板橋駅前のむすびのけやきで良縁を?
縁切榎で悪縁切ったら、板橋駅前のむすびのけやきで良縁を?

埼京線の踏切を渡ると『松月』の「大衆割烹とイタリアン」という看板が気になるけど、近藤勇の墓所で新選組との濃厚なつながりを確認し、狐塚商店街から住宅地の路地に突入。

埼京線踏切に寄り添う呑兵衛路地では、新旧の店が手ぐすね引いてお客を待ち受ける。
埼京線踏切に寄り添う呑兵衛路地では、新旧の店が手ぐすね引いてお客を待ち受ける。
板橋宿で処刑された近藤勇と土方歳三が、板橋駅前に眠るという意外性。
板橋宿で処刑された近藤勇と土方歳三が、板橋駅前に眠るという意外性。

真っ平らに開ける画期的なノートで、文具ファンやメーカー、はては海外までつなぐ『中村印刷所』。中村社長のポジティブパワーをしっかり受け止めた。

『中村印刷所』の中村社長「水平開きノートは全てここで製本しています」。
『中村印刷所』の中村社長「水平開きノートは全てここで製本しています」。
滝野川は入り組んだ路地の迷路地帯。行き止まりだったらゴメンナサイ。
滝野川は入り組んだ路地の迷路地帯。行き止まりだったらゴメンナサイ。

さぁ、ここまできたら当然『稲荷湯』の磨き上げた美しいお風呂に一番乗りしたい。お隣の長屋は週末のお楽しみ。なにしろ『松月』と赤い糸で結ばれてるからね。

差し込む光も美しい『滝野川稲荷湯』。
差し込む光も美しい『滝野川稲荷湯』。
『大衆居酒屋とイタリアン 松月』。生ビール630円、煮込み450円、ピザマルゲリータ550円、トロタク550円。
『大衆居酒屋とイタリアン 松月』。生ビール630円、煮込み450円、ピザマルゲリータ550円、トロタク550円。

縦横無尽に張ったリンク網に絡まれて、旧中山道歩きもお開き間近。
いや、これからが本番かな?

【旧中山道でつながる“良縁”店舗紹介】

御菓子司 喜屋

すだれ羊羹など、ひと口サイズの和菓子各60円にも手間を惜しまず。
すだれ羊羹など、ひと口サイズの和菓子各60円にも手間を惜しまず。

「味に邪魔なものは全部取って、丁寧に作っているからね」と、ご主人・橋本雅夫さん入魂の自家製餡を使った和菓子を妻・光江さんと販売する1975年創業の老舗菓子舗。折々変わる季節の味は見逃せない。

●10:30~18:00、火休。
☎03-3962-2997

パンを楽しむ店 ぱーね

14時からはグラスワイン500円やバタートースト600円などメニューも多彩に。
14時からはグラスワイン500円やバタートースト600円などメニューも多彩に。

ベーカリーとイタリアンレストランで修業したオーナーシェフの末次正樹さん。「ちょこっとパンを食べながら飲みたいじゃないですか」と始めた店は、開店直後の昼間からパン&ビールができる。生ビール660円~。

●11:00~21:00LO、月・火休。
☎03-5944-1781

中村印刷所

父親の代から85年続く町の印刷所は、独自開発の水平開きノートで文具界に新風を起こした。「リクエストは断りません」という中村輝雄社長が努力と工夫で生み出したアイテムは、今や50種を数える。

●8:30~18:30、土・日・祝休。
☎03-3916-1444

滝野川稲荷湯

創業1世紀を超える老舗銭湯。昭和初期の建物を5代目の土本公子さん俊司さん夫妻が守る。隣接の築100年超え長屋は、リノベしてイベントスペースに。週末はカフェにもなり、人の輪を広げる。入湯料大人500円。

●15:00~24:30、水休。
☎03-3916-0523

多彩な用途の築100年超え長屋。
多彩な用途の築100年超え長屋。
ご主人の親類が造る日本酒もあり。
ご主人の親類が造る日本酒もあり。

大衆居酒屋とイタリアン 松月

「息子が来てから、若いお客さんが増えたよ」と、2代目店主の渋谷さん。
「息子が来てから、若いお客さんが増えたよ」と、2代目店主の渋谷さん。

創業57年、父親が築いた味を守りつつ、2代目店主・渋谷正雄さんが作る居酒屋料理に、イタリアンの修業を経た息子・健太さんが加わり、メニューの幅も客層も一気に拡大。店内に並ぶお品書きの楽しいこと!

●16:00~23:00LO、日休。
☎03-3916-1572

取材・文=高野ひろし 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年6月号より