布袋戲(ポテヒ)人形劇団「著微(チョビ)」代表 チャンチンホイさん

中学時代、邦画『喜劇 駅前飯店』に魅入られ芸の道を志す。台北で吳榮昌に師事、日本本土唯一の布袋劇団「著微」を旗揚げ。伝統にこだわらない芝居を展開。動画で芸の一端も公開中。

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布袋戲とは本来、台湾の祭り時に開かれる見世物のこと。派手な音楽とせりふを付けてにぎやかに演じられる。子供や年寄りが集まって観賞する、庶民の楽しみだった。1970年代には「霹靂布袋戲」と呼ばれるテレビ布袋戲も登場。端正な造形のイケメン人形が若い世代のハートをもつかみ、専門チャンネルまでできている。そんな台湾ならではのディープな人形劇を、日本でも定期的に観賞できる場所があるのだ。横浜中華街の『悟空茶荘』2階の茶館である。

人形劇に魅せられた日本人団長

演じるのは日本唯一の布袋戲人形劇団「著微(チョビ)」。人形を操り、舞台の全てを一人でこなすチャンチンホイ氏が劇団員にして主宰である。団長も人形なのでは?と錯覚しそうな(大袈裟)、目鼻立ちはっきりの福々しい風貌の氏は、実は生粋の日本人。

北京で京劇を本格的に学んだのち、台湾で布袋戲に出合い、名門「弘宛然古典布袋戯団」に入門。そこで芸を磨き、2009年に劇団を旗揚げした。劇団名「著微」は師匠の命名で、“微”かな人形劇なれど“著”名なものに育ててくれよという願いがこめらている。

チャン氏の演じる人形劇は、古くから親しまれてきた伝統的布袋戲である。新潮流の「霹靂布袋戲」と違って衰退しつつあり、ことに北部で著しい。そんな伝統芝居の一端を日本で観られるのは、希少な機会といえよう。

芝居は毎回20分ほど。始まるとお客さんは珍しい布袋戲の妙に見入ってしまう。
芝居は毎回20分ほど。始まるとお客さんは珍しい布袋戲の妙に見入ってしまう。

『悟空茶荘』での上演は、原則毎週木曜。茶館で喫茶を利用しつつの観賞で、お代は舞台脇の壺への御祝儀のみ。雰囲気あるレトロな店内でおいしい中国茶を賞味、芝居見物にまったり興じるのは格別である。元々チャン氏はこの店の常連で、しばしば茶を飲みに来るうちに店主と親しくなり、定期的に芝居を打つようになったという。なんとも粋なご縁である。

軽やかでダイナミック。初めて見ても感激必至!

店内2階の一角に常設された簞笥サイズの台が、チャン氏の舞台となる。演者は舞台の裏側に身を潜め、下から人形を出して操る。人形は高さ28㎝ほど。頭部と手が木製、胴体は袋状の布製で「布袋戲」の名称はこれに由来している。胴体に片手をさし入れ、指と空いた手で操作し、演目は中国文化圏ではおなじみの時代劇ものが普通。だが師匠の「おまえのものを作れ」という教えを受けて、チャン氏は初めて観る日本人向けに芝居を仕立てている。

繊細かつ大胆な布袋戲の世界。縁起のいい獅子舞からスタート。獅子に翻弄される使い手使とのやり取りがユーモラス。
繊細かつ大胆な布袋戲の世界。縁起のいい獅子舞からスタート。獅子に翻弄される使い手使とのやり取りがユーモラス。
自分と同じ大きさの大皿を人形が何度もしくじりつつ、実際に皿回ししてみせる大技!
自分と同じ大きさの大皿を人形が何度もしくじりつつ、実際に皿回ししてみせる大技!
最後はカンフー。武器を手に舞台一杯に所狭しと暴れ回る2体の人形の激しい動きが見事。
最後はカンフー。武器を手に舞台一杯に所狭しと暴れ回る2体の人形の激しい動きが見事。

数々の物語から派手なシーンをかいつまみ、雑伎団の見立てで日本語で上演。軽妙で細やか、かつ思いのほかダイナミックな人形の動きは新鮮で、最初は適当に眺めていたお客さんも、いつしか見入ってしまう。クライマックスの皿回しは拍手喝采である。演目時間は約20分。時に一人で2体の人形も操る芝居はかなりハードで、その時間で手一杯だという。

近くには『民生炒飯』はじめ台湾料理店もあちこちに隠れている。中華街の合わせ技で、台湾の魅力をたっぷり堪能できますぜ。

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公演を見るならココ!『悟空茶荘』[元町・中華街]

台湾茶も味わえる。写真は丁寧に淹れた上四季春1150円。
台湾茶も味わえる。写真は丁寧に淹れた上四季春1150円。

中国茶の老舗販売専門店「悟空」の2号店として2001年開店。1階は茶葉から雑貨類まで幅広く揃え、2階が茶館。オーナーお気に入りのカンフー映画『酔拳2』に登場するレトロな店をイメージしたとか。布袋戲の他に中国琵琶(毎週水曜)の無料イベントも開催。

・10:30(2階は平日11:00~)~19:30、第3火休。☎045-681-7776

関帝廟のすぐ近くのロケーション。
関帝廟のすぐ近くのロケーション。
オーナー曾峰英さんと芝居の合間の歓談もしばしば。
オーナー曾峰英さんと芝居の合間の歓談もしばしば。

取材・文=奥谷道草 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2023年6月号より