善福寺公園
善福寺川源流となる遅野井の滝の前に立つ。地形図で見ると、ここは谷地のどんづまり。今はポンプの力で地下水を汲く み上げているが、昔は自然と水が湧き出ていた。
「私が小さいころは手が切れるほど冷たい水が、滝の手前の石のくぼみから湧出していたんです」とは今日、善福寺公園を案内してくれる野鳥図鑑画家・谷口高司さん。武蔵野三大湧水池のひとつ、善福寺池周辺は、杉並区で一番野鳥が見られる場所らしい。
「年間で70種以上の鳥が飛来します。これから冬にかけてマガモやキンクロハジロなどの渡り鳥がやってくるので、もっとにぎやかになりますよ」
善福寺池は交通の便がさほどよくないぶん、静かで豊かな自然が残されている。バブル期に地主さんが土地を売らずに頑張ったのも緑地が残った理由だ。
「例えば上の池東側の森にはオオタカの姿を見かけることもあります。善福寺池の上の池には2つ、下の池には1つ中島が浮かんでいますが、ここは普段人や猫が入れません。島は、換羽(古い羽毛が抜け落ち新羽に替わること)の際に鳥が羽を休めやすい、ゆりかごのような役割を果たしてるんです」
上の池から下の池に下ると、小さな水路が。平成初期までは水路にヘイケボタルも飛んでいたそう。
「60年ほど前、下の池北側にはまだ田んぼが残ってましたね」
下の池の水が善福寺川へあふれ出す池の端っこに来ると、糸を引くように飛ぶ青い野鳥の姿が。
「カワセミです! 上の池と下の池一周すれば、高い確率でカワセミに出合えますよ」
カフェ・カワセミピプレット~おぎ緑地
あの文士がアユの放流を妄想?
谷口さんとはここでお別れ。ここから約6.5㎞のお散歩だ。川沿いを少し下り、まずは『カフェ・カワセミピプレット』で一服。
「店の前の川底からは水が湧き、カワセミがやってくることからこの店名にしました。善福寺川を里川にカエル会の方々にも、会議でよく店を使ってもらっています」と店主のブランシャー明日香さん。
川面にカルガモやオオサギ、ときにスッポンの姿を見つけながらさらに下流へ。井荻橋から駅通橋までの柵の横には土囊がずらり。今はか細く流れる川だが、昔から豪雨の際は氾濫することも多く、それを防ぐためのものらしい。
置田橋~吉の湯
中央線ガード下近くの置田橋まで下り、井伏鱒二の『荻窪風土記』のページを開く。井伏は昔、ここで釣りを楽しんでおり、作中ではアユの放流を提案するほど昭和初期の善福寺川はきれいだった。文章内に「稲荷様の祠ほこらがあった」と書かれていたので、川沿いの町工場の男性に祠の有無を聞いたが「まったく知らないね」。
環八の歩道橋を越えると桃井第二小学校があり、角のベンチで一息つく。西田端橋下流では、おばあちゃん3人が魚巣ブロックに止まるカワセミを眺めて夕涼み。
「毎日この辺りに2~3羽来るの」
ゴール間近のなかよし広場は、南側が川のカーブに沿っておりきれいな真ん丸の敷地。地下には集中豪雨の際、増水した川の水を貯留する直径60m、深さ27mの調節池が眠っているという。
遅野井の滝から約6㎞、ロケット公園で感動のGOAL――の予定だったがせっかくなので15分ほど歩いた『吉の湯』でフィニッシュ。疲れた体にジェットバスの刺激が心地よい。時折、湯口から注がれるお湯を見て、遅野井の滝の姿を思い出すのだった。
取材・文・撮影=鈴木健太
『散歩の達人』2019年11月号より