善福寺公園

善福寺川源流となる遅野井の滝の前に立つ。地形図で見ると、ここは谷地のどんづまり。今はポンプの力で地下水を汲く み上げているが、昔は自然と水が湧き出ていた。
「私が小さいころは手が切れるほど冷たい水が、滝の手前の石のくぼみから湧出していたんです」とは今日、善福寺公園を案内してくれる野鳥図鑑画家・谷口高司さん。武蔵野三大湧水池のひとつ、善福寺池周辺は、杉並区で一番野鳥が見られる場所らしい。
「年間で70種以上の鳥が飛来します。これから冬にかけてマガモやキンクロハジロなどの渡り鳥がやってくるので、もっとにぎやかになりますよ」

アシやハスが覆う静かな雰囲気の下の池。
アシやハスが覆う静かな雰囲気の下の池。
23区内で唯一地下水源を地域に配水する杉並浄水場。
23区内で唯一地下水源を地域に配水する杉並浄水場。
石の上にカワセミを発見。
石の上にカワセミを発見。

善福寺池は交通の便がさほどよくないぶん、静かで豊かな自然が残されている。バブル期に地主さんが土地を売らずに頑張ったのも緑地が残った理由だ。
「例えば上の池東側の森にはオオタカの姿を見かけることもあります。善福寺池の上の池には2つ、下の池には1つ中島が浮かんでいますが、ここは普段人や猫が入れません。島は、換羽(古い羽毛が抜け落ち新羽に替わること)の際に鳥が羽を休めやすい、ゆりかごのような役割を果たしてるんです」

左/かつての湧水のかたちを復元した遅野井の滝。右/旧都電杉並線の敷石を敷いた下の池の並木道。
左/かつての湧水のかたちを復元した遅野井の滝。右/旧都電杉並線の敷石を敷いた下の池の並木道。
上の池を飛ぶダイサギ。
上の池を飛ぶダイサギ。
上の池の中島に立つ市杵嶋神社。例祭日の4月8日だけ橋が架かる。
上の池の中島に立つ市杵嶋神社。例祭日の4月8日だけ橋が架かる。

上の池から下の池に下ると、小さな水路が。平成初期までは水路にヘイケボタルも飛んでいたそう。
「60年ほど前、下の池北側にはまだ田んぼが残ってましたね」
下の池の水が善福寺川へあふれ出す池の端っこに来ると、糸を引くように飛ぶ青い野鳥の姿が。
「カワセミです! 上の池と下の池一周すれば、高い確率でカワセミに出合えますよ」

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お話を聞いたのは 谷口高司さん
杉並区善福寺で幼少より過ごす。野鳥図鑑を一冊まるごと描く画家として活躍し、各地で個展や講演会も開催。日本野鳥の会編『新 山野の鳥』『新 水辺の鳥』など著書は46冊。

カフェ・カワセミピプレット~おぎ緑地

あの文士がアユの放流を妄想?

谷口さんとはここでお別れ。ここから約6.5㎞のお散歩だ。川沿いを少し下り、まずは『カフェ・カワセミピプレット』で一服。
「店の前の川底からは水が湧き、カワセミがやってくることからこの店名にしました。善福寺川を里川にカエル会の方々にも、会議でよく店を使ってもらっています」と店主のブランシャー明日香さん。

住所:東京都杉並区善福寺1-30-9/営業時間:11:00~17:00/定休日:水・木・金(木・金はイベントを開催)/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩18分

川面にカルガモやオオサギ、ときにスッポンの姿を見つけながらさらに下流へ。井荻橋から駅通橋までの柵の横には土囊がずらり。今はか細く流れる川だが、昔から豪雨の際は氾濫することも多く、それを防ぐためのものらしい。

川は井荻小学校で一時暗渠に。迂回して歩く。
川は井荻小学校で一時暗渠に。迂回して歩く。
原寺分橋湧水。コンクリートの割れ目から、少し水が湧いているのが見えた。近くに湧水の仕組みを解説する看板も。
原寺分橋湧水。コンクリートの割れ目から、少し水が湧いているのが見えた。近くに湧水の仕組みを解説する看板も。
井荻公園。原寺分橋~原橋の間の斜面を利用して、すべり台を設置。善福寺川が削った谷地の南西側斜面と思われる。
井荻公園。原寺分橋~原橋の間の斜面を利用して、すべり台を設置。善福寺川が削った谷地の南西側斜面と思われる。
左/おぎ緑地。出山橋の手前に立地。地元の人々が整備した花壇と、井戸水の出る手動ポンプがある。飲用不可なのが残念! 右/置田橋。井伏鱒二がハヤ釣りをした辺り。当時は岸の一部がコの字形の浅瀬になっており、水浴びや洗濯をする人々がいたという描写が『荻窪風土記』に。線路付近には昔水車小屋もあった。
左/おぎ緑地。出山橋の手前に立地。地元の人々が整備した花壇と、井戸水の出る手動ポンプがある。飲用不可なのが残念! 右/置田橋。井伏鱒二がハヤ釣りをした辺り。当時は岸の一部がコの字形の浅瀬になっており、水浴びや洗濯をする人々がいたという描写が『荻窪風土記』に。線路付近には昔水車小屋もあった。
橋の下でカワウが決めポーズ!
橋の下でカワウが決めポーズ!

置田橋~吉の湯

中央線ガード下近くの置田橋まで下り、井伏鱒二の『荻窪風土記』のページを開く。井伏は昔、ここで釣りを楽しんでおり、作中ではアユの放流を提案するほど昭和初期の善福寺川はきれいだった。文章内に「稲荷様の祠ほこらがあった」と書かれていたので、川沿いの町工場の男性に祠の有無を聞いたが「まったく知らないね」。

忍川下橋下流で倒木を潜る。木の左に小さな迂回路も。
忍川下橋下流で倒木を潜る。木の左に小さな迂回路も。
松庵川の合流点。暗あん渠きょの中を通ってきた松庵川が松見橋下流で善福寺川に合流。ほぼ水は出てないが大雨の日は巨大なコンクリの板に水が流れるのか。
松庵川の合流点。暗あん渠きょの中を通ってきた松庵川が松見橋下流で善福寺川に合流。ほぼ水は出てないが大雨の日は巨大なコンクリの板に水が流れるのか。
中道寺。松庵川暗渠の近くに立地。天明元年(1781)竣工時の姿をとどめる鐘楼門は杉並区指定有形文化財。境内西側には「享保十七」「宝永三」などと彫られた古い石仏3体が祀られていた。
中道寺。松庵川暗渠の近くに立地。天明元年(1781)竣工時の姿をとどめる鐘楼門は杉並区指定有形文化財。境内西側には「享保十七」「宝永三」などと彫られた古い石仏3体が祀られていた。

環八の歩道橋を越えると桃井第二小学校があり、角のベンチで一息つく。西田端橋下流では、おばあちゃん3人が魚巣ブロックに止まるカワセミを眺めて夕涼み。
「毎日この辺りに2~3羽来るの」
ゴール間近のなかよし広場は、南側が川のカーブに沿っておりきれいな真ん丸の敷地。地下には集中豪雨の際、増水した川の水を貯留する直径60m、深さ27mの調節池が眠っているという。

松渓橋公園。上から見ると不思議な台形。川の氾濫跡か杉並区に聞くと「それは不明だが、公園の場所まで昔は川幅があった」そう。
松渓橋公園。上から見ると不思議な台形。川の氾濫跡か杉並区に聞くと「それは不明だが、公園の場所まで昔は川幅があった」そう。
護岸には魚類へすみかを提供するための魚巣ブロック。
護岸には魚類へすみかを提供するための魚巣ブロック。

遅野井の滝から約6㎞、ロケット公園で感動のGOAL――の予定だったがせっかくなので15分ほど歩いた『吉の湯』でフィニッシュ。疲れた体にジェットバスの刺激が心地よい。時折、湯口から注がれるお湯を見て、遅野井の滝の姿を思い出すのだった。

ここまで来たらゴールは目前!
ここまで来たらゴールは目前!
ロケット公園(善福寺川緑地)。杉並区は国産ロケット発祥の地。園内にはロケットをモチーフとした遊具が。子供たちの目を気にせず、歓喜のロケットポーズ!
ロケット公園(善福寺川緑地)。杉並区は国産ロケット発祥の地。園内にはロケットをモチーフとした遊具が。子供たちの目を気にせず、歓喜のロケットポーズ!
住所:東京都杉並区成田東1-14-7/営業時間:13:30~22:00(土・日は8:00~11:00も営業)/定休日:月/アクセス:JR中央線高円寺駅から永福町駅行き関東バス・京王バス12分の「松ノ木住宅」下車5分

取材・文・撮影=鈴木健太
『散歩の達人』2019年11月号より