ニンジンは都内生産量1位!清瀬野菜の魅力とは?
農地が全体の約2割を占め、農業産出額が都内第4位(※1)の清瀬市。点在する農家の軒先や畑の片隅に設けられた直売所には、採れたての野菜が並び、近隣の人たちが自転車でふらりと立ち寄って購入していく。清瀬では日常の光景だ。また、生でもおいしいミニ大根「葉つきサラダ大根」、トウモロコシの「ピュアホワイト」、ニンジン特有の匂いが少なくフルーティな甘さが特徴の新品種「ベータキャロット」など、生産野菜のブランド化も進められている。
小寺正明さんとその息子・良治さん、宏侑さん兄弟を中心に営む『ヤマヨシ』は、作付面積850aの大きな農園だ。戦前から農業に携わり、現在はカブやニンジン、ホウレン草を主に生産。真心を込めて育てた野菜を「ハートベジ®」と名付け、多くのファンを獲得中だ。
正明さんは「特別なことはしていないんですよ」と謙遜するが、高品質を保つ環境づくりのため「農薬散布軽減型ハウス」を考案したり、定期的に土壌診断を実施したりするなど、手間隙を惜しまない。「東京都エコ農産物」(※2)の認証を取得し、東京都品評会では1位常連なのだ。
今回、農園を案内してくれたのは「広い敷地を歩きまわるには機動力が大事」と颯爽と地下足袋を履きこなす、長男の良治さん。商工会青年部部長を務め、顔も広い。『イカバル×肉バル Haru』のオーナーとも名前で呼び合う仲だ。この社会性と行動力がカギなのだろうか?でもやはり「普通のことを続けています」と親子共々にこやかに笑う。その姿に、この農園の底力を見た気がする。
ニンジン都内生産量ダントツトップの秘密
清瀬の農業の代表格といえばニンジンだ。生産量は東京都内で1133tとダントツ1位(2位は八王子市の265t※1)。『ヤマヨシ』でもベータキャロットを栽培している。清瀬のニンジン事情を良治さんに尋ねてみた。
「清瀬は野菜作りに適した肥沃(ひよく)な黒土が多い。東久留米や東村山などと似ていますが、清瀬は周辺より高台にあり層が厚いので、土深くまで成長する根菜類が育つ条件が整っています。また、どの作物に力を入れるかは各地域で方針を決めており、清瀬では特にニンジン栽培に注力してきたという背景もありますね」
清瀬を代表するニンジンは、今まさに最盛期を迎えている。
※1 参照:「令和3年度東京都の地域・区市町村別農業データブック」
※2 化学合成農薬と化学肥料を削減して作られる農産物を都が認証する制度
愛情野菜専業農家® ヤマヨシ
にんじんジュース・にんじんジャム「赤い魔法®」は『みらい清瀬新鮮館』ほかで購入可能。
・HP:yamayoshitokyo.com
[2〜4月の収穫野菜]
3月中旬まではニンジン(ベータキャロット)を収穫。そのあとに『ヤマヨシ』の看板・カブだ。サトイモは3月中旬。ホウレン草、水菜は通年出荷。
イカバル×肉バル Haru[清瀬]
付け合わせやドリンクにも!その愛、本物です
新鮮なイカや国産牛、アンガス牛などの肉料理をメインとした創作イタリアンバル。野菜の6~7割が清瀬産と地元愛あふれるこの店は、いち早く地産地消を取り入れた『旬菜魚hiro』の姉妹店だ。「身近にこんなおいしい野菜があるのに使わないなんてもったいない!」と熱く語るのはオーナーの木本修弘さん。ドリンクにも地元農家が生産するニンジンやトマトのジュース、イチゴなどを使用している。
手打ちそば 松庵[清瀬]
天ぷらの野菜は農家から直接仕入れ
北海道から茨城、福井など、時季によって厳選するそば粉を碾きたて、打ちたて、ゆでたての“三たて”で味わう二八そば。「2022年秋頃から地産地消に取り組んでいます」と店主の松村清和さん。農家の軒先直売所から野菜を購入することも多いそう。ニンジンやカボチャ、ナスなど、天ぷらに欠かせない素材はもちろん、薬味のネギ、お新香などにもできるだけ地元野菜を使用。野菜天丼1050円もぜひ味わいたい。
カジュアルフレンチレストラン Arbre[清瀬]
個性的な野菜を五感で楽しむフレンチ
オーナー夫妻をはじめ、スタッフも皆、清瀬在住。メイン料理の付け合わせや前菜に、四季折々の地元野菜を多く取り入れたコース料理は彩りも美しい。「最近は若い農家さんも多く、紫ニンジンやサラダ大根、スティックセニョールなど、ユニークな野菜を栽培する方が増えてきました。珍しい野菜が手に入ると、この素材をどんな風に活かそうかとワクワクします」と、オーナーシェフ・古川ヒロキさん。
Pizzeria Ken Buono[清瀬]
トマトソースで味わう旬の清瀬野菜
注文を受けてから生地を伸ばし、ウッドチップを敷き詰めた石窯で1枚ずつ焼き上げるピザが自慢。「農業を営む友人の畑からよく野菜を買っています」と清瀬出身の店主・並木健次さん。横のつながりが深いこの町ならではのエピソードだ。その名も「清瀬野菜のトマトパスタ」には、ニンジンやホウレン草、カリフラワーなど、旬の野菜がふんだんに。また、トリッパやチキンのトマト煮込みにも地元野菜を取り入れる。
取材・文=篠原美帆 撮影=山田ミユキ、新谷敏司
『散歩の達人』2023年3月号より