ご近所同士の心地よい関係が広がる
店で出すなら、普段から好きで食べている『Petersen』さんの上食パンがよくて」と『ちったっち』の店主・長戸功太郎さん。「飛び込みでお願いしたらOKしてくれました」と、うれしそう。ひれかつサンドは、齧(かじ)り付くたび広がるパンの旨味がとんかつに負けない存在感。これぞパン好きが喜ぶ一品!
「すごいのは『Petersen』さんのパン。何を挟んでも負けてくれない(笑)」。
ちなみに、たまごサンドは柚子胡椒が隠し味の個性派だが、これもまた不思議とパンに合う。
その『Petersen』に寄ると、「いつものですか?」「うん、ハードトースト」と、レジにいた志保石江都子(しぼいしえつこ)さんと男性客によるツーカーのやりとりを目撃。食パンだけで4種類、そしてバラエティに富んだ総菜パン、菓子パンも並んでいるが、常連客にはそれぞれお気に入りがある。
「スタッフもみんなパンが好きで、新作のヒントをくれるんです」
増え続けるバリエーションを守るため、期待に応えるため、志保石睦(むつみ)さんは毎朝2時から動き出し、閉店すぎまで翌日の仕込みに励む。聞けば聞くほどどのパンも気になり、う〜ん、選べない。迷うのも楽しいとは、まさにこのこと。
膨大なラインナップをほぼ制覇するほど通い詰めているのが、「元々いちファンだった」という『倍音』の白井啓介さん。バー『オルガ』を間借りして夕方まで営む喫茶店で、やはり『Petersen』の上食パンを出す。トーストに添えるのは蒸気で湯煎したふわとろのスクランブルエッグと、「邪魔をしないように」と無塩バター。食後はコーヒーの余韻に癒やされ、つい長居したくなる。
『YOUR DAILY COFFEE』の店主・中村謙太さんは、開業時、地元でパン屋を探したそう。そこで出合ったのが、同じ上町の『サンセリテ 北の小麦』。
「自分たちの少し前にできた店で、同期みたいな気がしています」
やっぱり、パンとコーヒーは切っても切れない関係なのだ。
道中の店で購入したパンを持って『包丁と砥石 ひとひら』に行くと、試し切りさせてもらえ、きれいな断面に感動。ああそうだ、うちの錆びついた包丁もここで研いでもらおう。沿線にはさらに、ワインやハチミツ、総菜、食卓を彩ってくれる食器が手に入る店もあり、帰る頃には両手がいっぱい! 明日からのパン生活に向けて、期待が高まるね。
【沿線に根付くパンを楽しむ暮らし】
バリスタが生むコーヒーとパンの逢瀬『倍音』
ミルク越しに感じる苦味、コーヒーの果実味がふわり。
まろやかなラテと、耳も存分に楽しめるトーストは相性がいい。ふわとろスクランブルエッグを添えて。モーニングセット800円。
・8:00~16:30(土・日・祝は9:00~)、不定休
・Instagram:@baioncoffee
パンと具材の味わいが互いに支え合う『こーひーあんどびーる ちったっち』
隠れた名品は週末限定のサンドイッチ。旨味、甘みのあるヒレカツはそれ自身も主張しつつ、パンの甘みを引き立て、見事にマリアージュ。ひれかつサンド(豚汁付き)800円。コーヒー450円。
・10:00~18:00(ランチは11:30~15:00)、日・第3木休
・☎080-7022-2321
お気に入りに出合える豊富な品揃え『Petersen』
上食パン、ハードトーストなど食パンだけで4タイプあり、総菜パン、菓子パンもかなり豊富。新作のかわりに何かやめると「あれは?」と常連客に聞かれるので種類を減らせず、「結果、こんなに増えました」と笑う志保石江都子さん。
・8:00~18:00、水・木休
・☎03-5787-6872
おすすめはコレ
クリームパン 220円。
バニラビーンズとグランマニエが香る自家製カスタードが潜む。
ベイクドポテト 300円。
ポテト、タルタル、ミートソース、チーズでボリューミーに。
「愛用品」が暮らしを豊かにする『GOOD LIFE STORE』
こぢんまりした店内に食器や植物がずらり。いち押しの食器ブランド「amai」はベトナムで人気があり、淡い色や個体差のある形状が味わい深い。店主の齊藤由紀乃さんも愛用し、使い勝手のよさは保証済み。
営業日、時間はInstagram:@gdls_tokyo_で確認。
・☎090-9825-6554
ピンクのセラーで出合う好みの1本『UPOPO by touta inc.』
実家の町工場を改装し、酵素ジュースや料理を楽しめるカフェ兼角打ちできる酒屋を始めたユーゴさん。2022年7月には、なんと庭にワインセラーを増築した。3000円台のものが多く、用途や予算に合わせておすすめを教えてくれる。
・12:00~18:00、日・月休
・Instagram:@upopo.by.touta.inc
購入前に包丁の試し切りもできます『包丁と砥石 ひとひら』
店内にある包丁はプロ仕様から家庭用まで、実に数1000種。パン切り包丁も扱うが、「デニッシュはしっかり研いだ三徳包丁の方がきれいにカットできます」と代表の相澤北斗さん。研ぎ800円~。
・13:30~18:30、日休
・☎03-6413-6904
自家焙煎コーヒー店が作る本気のホットサンド『YOUR DAILY COFFEE』
メニューの白眉はカナダ産ハイライフポークのプルドポークサンドイッチセット1200円。圧力鍋で煮込んだソースが甘みのあるパンと合う。カフェラテは季節で豆を変え、冬は深く、夏はさっぱりと。
・9:00~18:00(土・日・祝は8:00~19:00)、無休
・Isntagram:@yourdaily_coffee
客足が途切れない「町のパン屋さん」。『サンセリテ 北の小麦』
子供からお年寄りまで幅広い層に愛され、開店して10年にも満たないのに、不思議と昔からある町のパン屋さんのような雰囲気。看板商品の天熟食パンは、天然酵母で15時間以上かけて熟成させ、湯種製法でしっかり、もっちり仕上げている。
・9:00~19:00、月休
・☎03-6413-6880
おすすめはコレ
天熟食パン 十勝 432円。
小麦粉は北海道十勝産。旨味があり、全粒粉入りでミネラルが豊富。
ゴールデンメロンパン 216円。
フレッシュ&焦がしバターが芳しい。卵は那須御養卵の卵黄のみ使用。
天然酵母のカレーパン 259円。
売り場に随時、揚げたてを追加。表面はサクッとし、中はもっちり。
住宅地に現れる、緑に埋もれた城跡「世田谷城阯公園」
南北朝時代、初代吉良氏が戦で手柄を立てたことにより武蔵国世田谷領をもらい受け、この地に築城したとされる。公園化された今は土塁、空堀が残り、木漏れ日と葉擦れの音が心地よい。
暮らしに色を添える一瓶のハチミツ『山とハチミツ』
目当ては、養蜂家でもある店主・田中央枝(たかえ)さん自ら採ったハチミツ。採取する花によって味や香り、舌触りが違い、「塩気のあるシュレットチーズのトーストには栗を、青カビやゴルゴンゾーラなら菩提樹はいかがでしょう」。どれも試食可能。
・11:00~18:00、月・火休
・☎03-6804-4333
ベーカリーカフェならではの力作『コトリベーカリー』
一晩卵に漬けた食パンを注文後にフライパンで焼き、トースターで仕上げるフレンチトースト700円が秀逸。ふわっとした弾力と耳の食感が保たれ、パンの持ち味が生きている! コーヒー370円。
・12:00~17:30(イートインは~17:00LO)、日休
・Instagram:@kotori.bakery
おすすめはコレ
ほうれん草とベーコン 270円。
ベーコンの塩味が、ソフトなパンの素朴な味わいを引き出す。
ゴマ金時 240円。
サツマイモとクリームチーズ、異なる甘みをゴマパンで一つに。
店主夫妻の人柄が表れた穏やかな味わい『kotona』
ナポリタンが人気の定食屋は持ち帰りの総菜も評判。ご近所さんのリクエストに応えているうちに、種類が増えた。3種の木の子のイタリアンマリネ330円、焼きサバとポテトのレモンハーブマリネ600円。ポテトサラダ360円。
・12:00~20:00、火休(不定休あり)
・☎050-1477-8753
背景にはのんびり走る路面電車「赤松公園」
世田谷線沿いにあり、ベンチでぼんやり電車を眺めながらパンを食べるのにうってつけ。休日ともなれば近所の子供たちが集まり、明るい笑い声が響き渡る。周りに高い建物がないので空が広く、すがすがしい気分に。
果実味あふれる台湾コーヒーをどうぞ『美麗MEILI』
台湾産コーヒー豆を店主の小山立(りゅう)さんが焙煎。阿里山コーヒー800円はとろっとした舌触りで、黒糖に似た甘みも。「ミルクとも相性がいいんです」と副店長の洸美(ひろみ)さん。台湾産カカオで作るメイリカカオサンド350円。
取材・文=信藤舞子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2023年2月号より