インテリアショップ勤務で学んだドイツのシンプルデザインを取り入れた店
古いビルの2階。ビルの脇にある細い階段を上がるとドアにはめられたガラス越しに明るい店内が見える。それだけで期待に心が躍る。
『wellk』がオープンしたのは2019年。店主の石原寛史(いしはらひろふみ)さんは、製菓専門学校で学び、フレンチやイタリアンのレストランで修業した後、カフェに勤務。さらにインテリアショップで働き、カフェ店主として独立したという異色の経歴の持ち主だ。石原さんのストーリーに、インテリアという要素が入ったことは現在のカフェ『wellk』に大きく影響している。
『wellk』の内装は、フランスのアンティーク、ドイツのデザイン家具、日本の銭湯で使われる脱衣カゴや古い棚、そして現代のステンレス製什器など時代、ルーツが異なるものを組み合わせられ、それぞれがなじんでいる。
石原さんはインテリアショップ勤務中に、ヨーロッパの高品質なアンティーク家具、さらに20世紀初頭にあったバウハウスなどのドイツが生んだ機能的で削ぎ落とされたデザインに惹きつけられた。
「きらびやかなイメージのあるフランスのアンティークの中でも装飾をあえて削ぎ落としたもの、ドイツのプレーンなデザインのものを選んでいます。同じようにお菓子も料理も、盛りつけすぎず、必要な要素だけ入れています」
スタッフも訪れる人も。みんなで作るライブ感のある空間
最初に開いた10席ほどの小さなカフェ「フィルトピエール」はフランス語由来の店名だったが、移転先となった『wellk』では店名もコンセプトも大きく変更。『wellk』はワークショップを意味するドイツ語のWerkstatt(ウエルクシュタット)に由来し、英語のWellを掛け合わせた造語だ。
「妻と2人だけでやっていた以前の店では僕の好きなものだけで固めていましたが、店が広くなり、スタッフも増えることになり、同じやり方を続けることは難しいと考えました。それなら、ワークショップのように、スタッフもお客様も含めたみんなで一緒に空間を作って楽しみましょう、というのが『wellk』のコンセプトです。お客様にもこの空間をライブのように楽しんでもらえたらいいなと思います」。
『wellk』ではスイーツはもちろん、食事も1日中提供している。アラカルトでも楽しめるリヨン風サラダやラザニアをメインに、パンや飲み物を組み合わせたセットメニューも用意されている。
おすすめは自家製ミートソースを使ったラザニア。口の中でベシャメルソースとミートソースが交わる濃厚な仕上がりでボリュームもしっかり。セットメニューに組み込まれたプチパンにはコクのある自家製のキャラメルソースが添えられているところには、フランスらしさがある。
レモンチーズタルトは、クリームチーズとレモンスプレッドの2層がサクサクしたタルトの中に。爽やかな酸味で甘さも控えめ。添えられたバニラアイスがうれしい。
そしてもうひとつ『wellk』の楽しみはビオワイン。平日の明るいうちからワインを楽しむ人は珍しくないそう。「美容師さんとかアパレル関係の方とかが多いです。僕も平日休みで、休みの日には昼間から飲みたいタイプです」と石原さん。
日曜日の朝は8時30分から。気持ちのいい空間を共有したい
水曜日から土曜日までは11時30分から営業しているが、日曜日だけは朝8時半オープン。その理由を聞いてみると、「朝、この空間が気持ちいいんですよ」という答えが返ってきた。
それというのも、お菓子の仕込みをする午前の早い時間、周辺は一層静か。朝早くこの場所で、食事やお茶をしたらきっと気持ちよく過ごせるはずだと考えて、日曜日だけモーニング営業をすることにしたという。東向きに大きな窓があって、その向こうには街路樹。この場所で朝食やブランチからスタートする休日はそれだけで充足感があるに違いない。
その代わり、日曜日の閉店時間は15時。スタッフの皆さんは、その後片付けや掃除をし、月・火の定休日と繋がっている。
「残業しないことも店のテーマです。時間通りに帰るために、お客様の対応をしながら、明日の準備もしてと、スタッフ全員自ずとテキパキ動いています」
だからいつもスタッフの動きは機敏。インテリアや空間だけでなく、働く人の動きのよさも気分がいい『wellk』なら、店の雰囲気に参加するライブ感が味わうことができそうだ。
取材・撮影・文=野崎さおり