今年はお茶摘みに出かけてみよう!

八十八夜へのカウントダウンが始まると、まもなくお茶摘みシーズンが始まります。新茶の収穫は地域や茶の品種にもよりますが、4月中旬から5月中旬が最盛期。一番茶を摘み終わると約45〜50日間ごとに二番茶、三番茶と続き、長いところでは秋冬番茶といわれる秋頃まで茶の収穫と加工が行われます。

そんな日本の風物詩を一般の方にも体感してもらおうとお茶摘み体験を実施している茶園も多く、屋外レジャーとしても話題に。そこで、埼玉県狭山市の茶園「横田園」を訪れ、学生アナウンサーで日本茶ナビゲーターとしても活動する山田璃々子(やまだ りりこ)さんと一緒に一足早くお茶摘み体験をしてきました!

教えていただいたのは、横田園の6代目 横田貴弘さん

横田園は、狭山市で創業100年以上を誇る歴史ある茶園です。狭山茶の栽培から販売までを一貫して行うほか、学生見学の受け入れ、自家製茶スイーツの製造・販売、近隣の茶師や企業と共同した商品開発など、狭山茶を通じて「お茶を楽しむ喜び」を幅広く伝えています。この日、レクチャーしてくれたのは6代目の横田貴弘(よこた たかひろ)さん。

「祖父や父の代から、先手を切って多品種の栽培には取り組んでいました。でも僕がますます増やしています(笑)」
「祖父や父の代から、先手を切って多品種の栽培には取り組んでいました。でも僕がますます増やしています(笑)」

「現在、横田園では15品種の茶を栽培しています。早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて)と収穫時期の異なる品種を扱いながら、ハウス栽培も行うことで、収穫・製造が一度に集中しないよう分散させています。

ただ、その中でもうちは、栽培品種の多い茶園です。実は僕、学生の頃はバーが好きで(笑)、お客さまの『こういうお酒が飲みたい』という声に応えてお酒を作るマスターの仕事に憧れがあったんです。“その人のための1杯”が提供できるって、すごくいい仕事。お茶でもそんなふうに、ひとりひとりの好みに合った品種をお届けしたいと思い、さまざまな品種を扱っています」

横田さんにお茶摘みのポイントを解説していただきながら、山田さんと一緒にやぶきたの新芽のお茶摘みを体験してきました!

合言葉は“一芯二葉”。人の手で摘んだお茶はなぜ美味しいのか

横田さん(以下、横)「ようこそ、横田園へ!」

山田さん(以下、山)「今日はよろしくお願いします! かわいい新芽がピンッと伸びていますね。そばに立つと爽やかなお茶のいい香りがします!」

横)「今日は、120種以上あるといわれる日本茶の品種の中でもシェアNO.1の『やぶきた』を手で摘んでいきます。突然ですが山田さん、ここ埼玉県はお茶の品評会で毎年優秀な成績を収めているって知ってましたか?」

山)「え、そうなんですか?」

横)「“お茶摘み”と聞くと、たくさんの摘み子さんがカゴを背負ってひとつひとつ手摘みをしている風景を思い浮かべるかもしれませんが、現在は機械での収穫が主流です。しかし、品評会で高く評価されたり、数々の名誉ある賞を受賞したりする最高級のお茶は、今でもひとつずつ人の手で摘まれています。とても手が掛かっているんですよ」

山)「手摘みの葉と機械摘みの葉は、何が大きく違うのですか?」

横)「手摘みは、ひとつひとつの新芽を人の目で見て、良い部分だけを摘み取れます。一気に刈ってしまう機械摘みと違って古葉などが混ざり込むことがないですし、長さをそろえて摘むことができるので、製造過程でムラが出にくく見た目も美しくなります」

山)「なるほど。でも、お茶は飲むものなのに、見た目も重要なんですね」

横)「お茶には、飲んで味や香りを楽しむという側面はもちろん、芸術的な要素も求められます。実際に品評会では、茶葉の外観も評価基準になっているんです。摘んだ芽の長さが均一だと、後に蒸したり、揉んだり、乾燥させたりした時にすべての葉が同じように仕上がるため、見た目のいいお茶は結果的にいい品質のお茶になる、というわけ。

とはいっても、茶の木は自然のもの。人間に背が低い人と高い人がいるように、お茶の芽たちもそれぞれ育ち方が違います。だから、僕らが目で見て、ていねいに摘んであげる手摘みのお茶は、機械摘みよりもずっと価値があるものとされるんです」

山)「小さな新芽にも個性があって、それを人が愛情を持って摘んであげるのですね」

横)「そのとおり! お茶摘みには大事な合言葉があります。山田さん、“一芯二葉”という言葉を聞いたことはありませんか?」

山)「あります!」

横)「“芯”とは、中心部分にある葉が開く前の芽の状態の部分、“葉”はその名のとおり葉っぱのことです。ひとつの芯にふたつの葉。これが、美味しいお茶を作るのにいちばんいい部分だといわれています。今日はここを摘んでいきますよ。百聞は一見にしかずです、まずはやってみましょう!」

山)「はい!」

横)「お茶摘みのポイントは、2つです。ひとつは今いった、一芯二葉。ふたつめは、親指と人差し指の腹で折るように摘むこと。これだけ! 簡単でしょう?」

山)「ちょっとドキドキします(笑)。初心者でもできるものでしょうか……?」

横)「もちろん。まずは、一芯二葉の下の茎の部分を親指と人差し指でつまんでください。そして指の腹でポキッと折るように、やさしく摘みます。この時、爪を立てて茎を切るように摘んでしまわないように気をつけて」

山)「切ってしまうと、どうなるのですか?」

横)「茎の部分にダメージを与えてしまうと、できあがったお茶を淹れた時に、赤みを帯びた色のお茶になってしまうんです」

山)「美味しいお茶づくりには、常に細やかな気配りが必要なんですね」

横)「はい。中には、手摘みの際に、葉先から茎までの長さを指定したり、二葉の下の茎の長さは1cmと決めたりしている茶園もあるんですよ」

山)「そんなに細かいところまで! それにはどんな理由が?」

横)「ひとつは手摘みの中でもより統一した長さで摘むことで外観がさらに美しいお茶になります。もうひとつは、やはり味です。お茶は葉にももちろんたくさんの旨みがありますが、実は茎の部分により、旨み成分であるアミノ酸が多く含まれています。茎の方が渋みが少なく、やさしい甘さを感じるんです。良かったら食べ比べてみてください」

山)「え、食べていいんですか?」

横)「ぜひ! 」

山)「本当だ、葉っぱは少しお茶らしい渋みがあるけど、茎の方は甘いですね。茎の方が渋いのかなと思っていたので意外です」

横)「火を入れると甘い香味が出るので、ほうじ茶は特に茎の部分が重宝されています。こんなふうに、ひとつひとつの芽の育ち方や長さを見て摘むということは機械ではできません。

ちなみに、横田園で一番売れる機械摘み・機械製造の茶葉は、1kg1万円ほどですが、最初にお話した品評会で高い評価を獲得した、手摘み・手揉みの茶葉は1kgいくらくらいだと思いますか?」

山)「んー、まったく想像がつきませんが……、30万円くらいでしょうか?」

横)「100万円は下りません」

山)「100万円……!? でも芸術作品のような手間暇を考えると、納得の金額ですね」

横田さんに聞く! お茶摘みQ&A

Q. 手摘みの場合、1日にどれくらいの量の茶葉が摘めるのですか? 機械摘みとの差はどれくらい?
上手な人で、1日8時間、約10kgが限界だといわれています。それに比べて機械摘みの場合、機械の性能や茶園の規模によって違うものの、横田園の工場では1日1tほど。なので、ザッと100倍の差があります。うちの茶園でもごく一部は手摘みをしているのですが、やはり、86歳のベテランの祖父がいちばんスピードが早いです(笑)。昔の人は、摘んだ量の分だけお小遣いをもらっていたみたいですよ!

Q. 一芯二葉よりもっと下から摘むとどうなるのですか?
下の部分から摘むほど、太い茎や大柄な葉が多くなります。これらの部分には上部と比べて旨みが少ないため、さっぱりとしたお茶になります。機械摘みなどで紛れ込んでしまった場合は、仕上げの際に選別されることも多いですね。でも、独特のスッキリ感は、食後やがぶがぶ飲みたいときにぴったりの美味しさですよ。

Q. お茶に加工して飲む以外に、お茶農家さんならではの茶の新芽の味わいはありますか?
うちは、天ぷらにしたりごはんに混ぜたりして食べます。なかなか皆さんのご家庭にあがることはないと思いますが、お茶摘み体験に行って持ち帰ることができたら、ぜひ試してみてください。ごはんに混ぜる場合は一緒に炊くのではなく、炊いたごはんに混ぜ込むのがおすすめ! お好みで塩をふっても美味しいです。

お茶摘み体験は全国の茶園で行われています。“一芯二葉”を合言葉に、今年はぜひ茶摘みにチャレンジしてみませんか? 持ち帰った生の茶の葉は、横田さんイチオシのごはんのお供にするほか、手作り茶を作って楽しむのもおすすめです。

◆埼玉県で開催される新茶のフェスティバル情報
・4月29日(金)
出来たて新茶即売会 @狭山市役所>>

・4月30日(土)
ところざわ新茶まつり@所沢市観光情報・物産館YOT-TOKO >>

・5月2日(月)
八十八夜新茶まつり@入間市役所 >>

・6月4日(土)
狭山茶摘みフェスタ@埼玉県茶業試験場

◆見つけてみよう、お茶摘みスポット
Re:leaf Record ニッポン オチャツミ マップ:https://releafrecord.com/nippon-ochatsumimap

◆山田 璃々子
慶應義塾大学ミスSFC2021グランプリ、「セント・フォースsprout」所属。学生アナウンサー・日本茶ナビゲーター。大学1年生の時にキッチンカーでお茶の販売をしたことをきっかけに日本茶に惹かれ、各種日本茶イベントに参加したり週末には関東近郊の茶畑を巡ったりと日本茶に染まった日々を送る。(インスタグラム:@ririko_yamada

◆横田園

埼玉県狭山市沢12-5
04-2959-6308
https://www.yokotaen.com/

写真・松島星太 文・山本愛理(Re:leaf Record)