こんな感じになっちゃったか

ホテルの格など私にはわからないが、確かに綺麗なでかいホテルだった。2階にあるちょっと値が張りそうな飲食店には、バスツアーに参加している50〜80代の氏子さんたちが20人ほど集まって歓談しており、私たちが着くと「お太夫さん(神主)のとこの息子さんな! 大きくなったなあ〜」と温かく迎え入れてくれた。

勧められるまま友人たちと席に着き、父親やバスツアー参加者の横でご飯を食べたり、ビールを飲んだりした。いろんな大人たちが「久しぶりやなあ〜、わしのこと覚えとるな?」と話しかけてくれるが、こちらはほとんどの人を覚えていない。というか子供の頃から神社関係の大人の顔を個別に認識したことなどなかった。

昔私を可愛がってくれていた老人たちは、歳を重ねたにもかかわらず子供の頃と同じように曖昧なニヤケ顔でボソボソ喋るだけの私をどう扱えばいいのか困惑しているように見えた。ああ、あの子こんな感じになっちゃったか、と失望されているようで、美味いはずの飯の味がいまいち頭に入ってこなかった。通り一遍の挨拶をした後は、居心地が悪そうにみんな向こうへと去っていった。

しばらくすると、向こうの卓で先ほど私が上手く話せなかった老人たちに囲まれ、場の中心となっている一人の若者の姿が視界に飛び込んできた。彼は私と同年代だと周りの人に聞いたが、そうとは思えないほど堂々とした話し方をしていて、明らかに有能で仕事ができそうな男だった。小泉進次郎風の精悍な男前でスーツもビシッと決まっており、老人に好かれそうな若者の条件を完全に満たしていると思った。

昔私をチヤホヤしてくれたおばちゃんたちも、父親の手前神社の息子に触れてやらないといけないと思いつつ、進次郎風の若者の魅力に抗えなくなってしまっている様子が伝わってきた。明らかに彼と話しているときの方が楽しそうだ。子供の頃から少しずつ蓄積してきたはずのマスコットキャラクター的存在感が、圧倒的な実力差により一瞬で覆されるのを感じた。

進次郎の方を意識しないように友人たちと喋っていたところ、お節介な大人が「あの子、○○さんとこの息子さんやで」と彼のことを紹介してきて、それに気付いた進次郎は爽やかな笑顔を浮かべこちらへ歩いてきた。

「初めまして! ○○と言います。いつも神社さんにはお世話になってます」と自信にあふれた態度で堂々と挨拶をする彼と、中腰でモジモジしながら「あ、ああ……神社の息子の吉田です」と目も合わせられない私には、人としての明らかな格の差があった。

それはどうやら私の思い過ごしではなかったようで、帰り道、友人たちから「お前、明らかにあいつに負けてたな」とうれしそうにいじられた。周りにいた氏子さんたちも口には出さずともきっと同じことを感じていたことだろう。

それ以来、時々実家に帰って神社の関係者と道ですれ違う際の私は、以前にも増して伏し目がちになってしまったのである。

今回は新虎通り『KEY'S CAFÉ』にて撮影。アイスモカL430円が「思っていた味と違っていておいしかった」そう。
今回は新虎通り『KEY'S CAFÉ』にて撮影。アイスモカL430円が「思っていた味と違っていておいしかった」そう。

文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2021年12月号より