日本じゃない、「アジアのどこか」感。ディープな市場にイン
もともとは乾物などを扱う市場だったという「大一市場」。現在はフードコートとなっており、カレーなどのエスニック料理からアジア料理、はたまたラーメンに居酒屋などと大衆的な店が軒を連ねる無国籍な状態だ。
一歩足を踏み入れると、うす暗くそれでいてカラフルなライトや看板。どこだかわからないけどアジアの夜市という感じ。その中に、スパイスだったり鶏ガラだったり、とにかくいろんなおいしい匂いが漂っている。高円寺駅からたったの2分で海外旅行気分が味わえる、隠れたグルメスポットとして人気だ。
丁寧に手作りしたこだわりの具材を贅沢にたっぷりと
こちらのバインミーは2種類。約35cmのバゲットを丸々1本使ったダブルサイズと、その半分のレギュラーサイズだ。2〜3人でシェアするならダブルサイズを、一人ならばレギュラーサイズで十分満足できる。
切れ目にバターを塗り、たっぷり具材を挟みこむ。基本の具材は、キュウリ、大根とニンジンのなます、パクチー、チリソース。選べる具材は、オムレツ、レバーパテ、ティットヌンというベトナムの焼豚、ベトナムハムで、レギュラーはここから2種類をセレクトする。ダブルは全部の具材が入るのがうれしい。
店長の伊藤さんが特にこだわるのは焼豚のティットヌンとレバーパテだ。
ティットヌンは、ベトナムの屋台でもよく食べられており、バインミーの具材としてもポピュラーだ。下処理した豚バラ肉を、八角やパクチーの根と調味料で約3時間煮込んだ後、油で揚げて仕上げる手間のかかったもの。
レバーパテも手作りで、ゴロゴロ感を残しているのが特徴。フランス料理のパテであれば、きめ細かいなめらかさが重視されるが、バインミーに入れる具としては、ある程度食感を残したほうが食べごたえがあっておいしいから、という。
長さはどどーんと35cm!ボリュームたっぷりのダブルサイズ
いかがだろうか、このビジュアル。このまま丸かじりというのはさすがにハードルが高いので、人数に合わせて切ってもらうのがオススメだ。パクチー好きの人は、レギュラーサイズならプラス150円、ダブルサイズならプラス200円で特盛りにできるので、オーダー時に伝えよう。
バリッとしたバゲットにかぶりつくと、パクチーがふわりと香った。甘辛いティットヌンのこってりとした味わいと、大根とニンジンのなますのシャキシャキ感が抜群!
「なます?」と不思議に思うかもしれないが、バインミーにはなますが必須。食感もいいし、強い味付けに甘酸っぱいさわやかさがぴったりなのだ。「バインミーのなますはちょっと甘めがおいしい」と伊藤さん。酸っぱすぎない味付けが抜群だった。
レバーペーストもまったく臭みを感じなかった。ねっとりとしたソースのように他の食材とからみ、複雑な旨味を感じた。そして、この濃厚さにパクチーの風味の合うこと!
ヌクマムで少しだけ味をつけたオムレツが全体を包み込み、たっぷりかかった甘さのあるチリソースがいいアクセントになる。大きくかぶりついて、甘さ・辛さ・酸っぱさなど、さまざまな味覚が刺激される快感を楽しもう。
バインミーのおともには、練乳の入ったカップにコーヒーをドリップするベトナムコーヒーで決まりだ。コーヒー牛乳とはまったく別物の、強い苦味とどすんとコクのある練乳の甘さ。バインミーと混じり合うと、まさに「湿度が高くて暑い国の味わい」の完成だ。
「素材の味を生かす」ベトナム料理のおもしろさ
伊藤さんはもともと、10年以上の経験があるフレンチのシェフだ。フランスの三ツ星レストランに研修に行ったこともある。料理の幅を広げたいと考え始めたのは数年前。今までとは大きく違う料理をやりたい、という気持ちから、ほとんど知識のなかったベトナム料理の道に入った。
ベトナム料理は、食材にあまり手を加えず、そのものの味を生かすという考え方があるようで、和食と似ていると伊藤さんはいう。南北に長い国土を持つ日本とベトナムは、案外親和性が高いのかもしれない。
スタッフにはベトナム人も多く、どうしたらベトナムの本場感を出していけるかを相談することも。日本人の好みに偏るのではなく、「ベトナム人の思うベトナムっぽさ」を大切にしていきたいと語った。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ