前日からパン作りがはじまる理由

吉祥寺駅南口から三鷹方面に伸びる井の頭通りを脇に入った南二条通り。その角に『エペ』がある。レシピを開発したのは神林慎吾さん。メディアにも登場するなど業界でも名高いシェフだ。前日に生地を仕込み5℃の冷蔵庫の中で一晩寝かせ、翌日に焼くオーバーナイト製法で作るパンを得意としている。この作り方だと発酵がゆっくり進み、粉本来の甘みや旨味をたっぷり引き出せるそうだ。

昭和20年代の商店を丸ごとリノベした建物。『エペ』は1階北側のスペース。
職人さんの手元を覗いたら、こちらの扉からどうぞ。

中に入ると、コンパクトなスペースの正面・左右にパンがぎっしり。天然酵母のずっしりとしたパンから、かわいさをまとったスイーツのようなパン、トマトやウインナーがのったお食事系のパンまで、さまざまな顔ぶれが迎えてくれる。

所せましとパンが並ぶ。
おいしさはもちろん、ルックスの良さにも定評あり。

まんまるすぎるパンの正体

気になったのはお行儀よく並ぶまんまるなパン。完璧な球体に心が躍る。店長の大森武さんに聞いてみれば、中には自家製のカスタードクリームがたっぷり入っているとのこと。ふんわりとしたブリオッシュの生地が、密度の高いカスタードを包み込み、口の中でひとつになる。丸くてかわいい、甘い幸福。

ブリオッシュ パティシエール240円。中身はカスタードクリーム・ブリオッシュ生地・カスタードクリームと3層になっている。
四角いブリオッシュも発見。5㎝角のキューブ型。1つ240円。
マロングラッセとホワイトチョコ(手前)、ミルクチョコ(左奥)、フランボワーズとクリームチーズ(右奥)。中身もかわいい。
三角のスコーンはしっとりホロリ。左上から時計回りに、紅茶、プレーン、かぼちゃ、くるみといちじく、紫いもとホワイトチョコ。1つ300円。

技巧を凝らしたレシピで吉祥寺の人々をとりこにする

「角食パンが人気です。とにかくもっちりとした食感を味わってほしいですね」と大森さん。1日に80~100個ほど売れるそう。「それくらいが作れる限界です」。この日はすでに売れてしまい、手に入れることができなかったが、「角食パンと全く同じ生地のミニサイズの食パンもありますよ」とのこと。

手のひらにすっぽり収まるミニサイズ。ちぎって食べよう。160円。

北海道産の小麦粉「ゆめちから」を使用。超強力粉と称されるだけあって、引きちぎる手先の感覚ですでに分かるもっちり感。口の中でももっちもち!  強いもち感がだんだん溶けていく食感にもうっとりする。

トーストせずに、そのままでいただくのがおすすめだとか。『エペ』の食パンは小麦粉に熱湯を加えて糊状にして寝かせる湯種製法で作る。だから時間が経っても、もちもちしっとり。1日に何度も焼き上げるものの、売り切れるので予約がおすすめ。

こちらはライ麦にイチジクを入れたパン。香ばしさと甘酸っぱさが相性◎。1つ700円、350円の2分の1サイズも。
いかにもずっしりとした全粒粉のパン。写真はプレーンなタイプのコンプレ。2分の1サイズで570円。

『エペ』では全粒粉100%のパン・コンプレも豊富。全粒粉のみのプレーンなパンはもちろん、餡バターを挟んだり、ゴマをまぶしたり、さつまいもを練りこんだりと種類もたくさん。全粒粉のパンと聞くと体に良さそうだけど、ちょっとパサつく固いパンを想像する。しかし『エペ』では粉を石臼で細かくひくから、生地はたっぷりと水分を含み、フワっとなめらかな仕上がり。とても食べやすい。

粉と同じ量の水をたっぷりと使用して練っていく。全粒粉とは思えないほどフワフワ!  つるんと喉を通る。
「『エペ(EPEE)』はフランス語でフェンシングの剣という意味です」

店の正式名称は『ブーランジェリー ビストロ エペ(Boulangerie Bistro EPEE)』。「尖ったことをやりたい」ということでビストロとブーランジェリーが1つになった珍しい形態のお店。

ブーランジェリーのオープンは9:30から。開店前からすでにお客さんが待っている。対してビストロは10:30にオープン。こちらも時間ちょうどに数組のお客さんが一度にご入店、その後もすぐに席が埋まっていった。2021年で10年目を迎えた『エペ』はすっかり吉祥寺の街に根付いている。

住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-10-4 1F/営業時間:ブーランジェリー 9:30~18:30、ビストロ 10:30〜LO22:00/定休日:無/アクセス:JR中央線・総武線、京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩3分

構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子