2016年後編/なぜサルがあんなところにいるのか?
2015年11月27日。寒風吹きすさぶ中、私はひとり静岡県の菊川駅に降り立った。賢明な読者の皆さんは「あれ、ライダーなのにバイクで来てないの?」と疑問に思われたことであろう。実は私は極度の寒がりなので、11月に入ると「十二支ライダー」撮影時に着ているような革のライダースジャケットでは遠出ができないのだ。ちなみに私の冬のバイク装束は米軍御用達のN-3Bである。極寒地アラスカの作業用コートで大変あたたかい。
菊川の和田公園にサルの遊具があることも、市役所に電話をして確認済みであった。職員さんはわざわざ昼休みを利用して確認しに行ってくれたのである。感謝しかない。
公園は駅から2.5㎞ほど離れた場所にある。前年、極寒の中を伊勢崎駅から2㎞歩いた経験から、今年はタクシーに乗ろうと思って駅を出た。しかし駅前にはタクシーどころか車の一台すらいない。日本の大半の駅では、呼ばなければタクシーなんぞ来ないのである。
私は再び、寒風の中を三脚を背負って歩き始めた。30分ほど歩いて着いた和田公園は、春は桜、夏はプールで賑わうという話であったが、この時には人っ子一人いなかった。まあ一人でヘルメットをかぶってサルにまたがり写真を撮る姿など、逆に誰にも見られない方が好都合である。
園内の「ピクニック広場」には、キリンやゾウ、コアラの遊具が設置されていた。しかしサルはどこを探してもいない。確かにいるという話だったのに。周辺を探すと……えぇ?
サルは確かにいた。鬱蒼と茂った植え込みの外側、急斜面の崖の頂上に。
なぜそんなところに設置を……?と考えても仕方がない。私は植え込みを掻き分け、斜面に三脚を設置して、クモの巣の張ったサルに跨った。
その時である。斜面に立てていた三脚がズル、ズルと動き始めた。慌てて駆け寄ろうとした私の足も、同時に滑った。
「ああっ!」
数秒の間に、色々なことが頭をよぎった。ここで転落したら、きっと数日は発見されないに違いない。そして数日後の新聞に「公園でライダー怪死 バイクは見当たらず」という記事が掲載されて、見た人は首をかしげるだろう。
……今ここで呑気(のんき)に回想録が書けているのは、滑った三脚も私も、途中の木の枝に引っかかって止まったからである。年賀状撮影も命がけだ。
再び30分歩いて菊川駅へ戻ると、体はすっかり冷え切ってしまっていた。救いを求めて熱海で途中下車し、日帰り入浴もやっているという老舗旅館を訪れた。革ライダースを着てヘルメットを片手に持った私に、宿の主人は「あれあれ、今日はバイクじゃ寒かったでしょう」と親切に迎えてくれた。私はただ苦笑いするしかなかった。
2017年と2021年/連取中央公園の古い写真を使用
その後のことを述べたいと思う。酉年(とりどし)には前回も書いたように、伊勢崎の連取(つなとり)中央公園で撮影した写真を使った。
2021年の丑年(うしどし)もその予定である。見た目がちょっと若いことは気にしないでほしい。本来は直前に撮るべきであろうが、そうはいかない事情が出てきたのである。ここ数年で、急激に公園の動物遊具が姿を消しているのだ。
2018年~2019年/イヌの撮影後にイノシシを探すが……
戌年(いぬどし)を前にした2017年12月、実に犬らしいセントバーナードの遊具がある駒沢の東根公園で撮影を終えて満足した私は、その足で渋谷の神泉児童遊園地に寄ってイノシシ遊具の撮影も済ませてしまおうと考えた。早く撮っておかないとなくなってしまうかも知れない、という危機感からだ。
しかし時すでに遅し。神泉児童遊園地の遊具は全て撤去されていた。工事中の壁に貼られた説明書きを見ると、民間企業が参入してオシャレなスペースに生まれ変わるらしい。「寂しい公園をリノベーション」「周辺エリアの価値向上」という言葉が私の頭の中を虚しく通り過ぎた。
いいからイノシシを、イノシシを返してくれないか。
結局その1年後、神泉児童遊園地にあったイノシシと同型の遊具を浦和の大崎公園で発見し、イノシシ年の年賀状は事なきを得た。
2020年の年賀状に採用したのは表参道・北青山三丁目児童遊園のネズミ遊具である。果たしてこれはネズミか……?と疑問が生じるデザインな上、頭部しかないのでまたがることもできなかったが、これで良しとしたい。ネズミの遊具は意外に少ないからだ。
2022年以降に向けての問題点
現在、私がまだ撮影できていないのはトラの遊具である(ウサギは吉祥寺の、その名も「うさぎ山公園」で撮影した)。目星をつけていた早稲田の戸山公園のトラがいたのだが、寅年(とらどし)が巡ってくる前に姿を消してしまった。動物遊具は、塗料がはげたり傷んだりして維持が難しいだろうことは理解できる。しかし、この味のある動物たちが、今後一匹でも多く公園に残っていてくれることを願わずにはいられない。
絵・取材・文=オギリマサホ