パラ唯一のぶつかっていい競技。でも実は障がいは重めだ
金属製の車いすがガツンッ! とぶつかり合う。これがタックル。ハラハラするがパラ競技唯一の「ぶつかっていい競技」が車いすラグビーの醍醐味なのだとか。
日本車いすラグビー連盟広報担当の佐藤裕さんによれば「車いすがスカートみたいに裾広がりで守られるので、体はぶつからず安全です」。
ただタックルなどで転倒した場合はスタッフが起こしに行くのがルールだ。腹筋や背筋がきかず自力で起きられない重度の選手が多いからだ。なのにあの激しさ! 選手たちはスカッとするらしい。
障がいの度合いが違う4名の選手でプレイ。ボールを投げられない選手は体を張るディフェンス担当。タイヤを手のひらを使って回せなくても手の甲で押せば車いすを操作できる。「各選手、できないことを工夫して補うのです」と佐藤さんは語る。
選手同士やコーチとの情報交換や努力で、不自由な体でもその先に進める喜び、そんな仲間がいることが選手たちには何よりなのだ。
重力から解放される水中競技の幸せ
一方、パラ水泳ではもっと繊細なクラス分けが行われる。肢体不自由のほかに視覚障がいや知的障がい選手とそれぞれクラス分けされるのだ。「だから金メダルが10個以上の種目も」と、日本パラリンピック水泳連盟理事の杉内周作さんは笑う。ご自身も元選手で現在は後進の指導に力を注ぐ。今大会ではNHKのパラ水泳競技中継で解説を担当する。
パラでの指導法を教えてもらった。全盲選手にはまず言葉でイメージさせ、手取り足取り体の動かし方を教える。コース確認のためどちらかの手はロープに触れるように泳ぐ。ターンやゴールの位置を知らせるため、スタッフが手作りの棒で水中の選手の体の一部に触れるタッピングなど、独自の方法が編み出されてきた。
肢体不自由でも最も重度の選手は、介助スタッフに水中に降ろしてもらう。自力で浮いていられることが第一条件だ。それでも水泳に魅了されるのは、「水の中では重力に邪魔されず自由になれる。ケガも少ないし」という。
「残された機能を最大限にどう生かせるかがパラリンピックの面白さです」と杉内さん。選手を支えるスタッフも大所帯で苦労も多いとは思うけれど、お話を伺うにつけ、みんなの笑顔と歓声が思い浮かぶ。
東京パラリンピック成功を祈る!
車いすラグビー
国立代々木競技場で開催される車いすラグビーは、車いすバスケに比べて障がいが重い選手が多いが、その激しさから「マーダーボール(殺人球技)」と呼ばれた歴史もある。アメリカ生まれで2000年シドニー大会から正式種目となり、日本では1997年連盟を設立。2018年世界選手権優勝。きっかけはリハビリ病院で紹介されることもあり、手足不自由で体幹機能がない選手も活躍できる。
水泳
2020年大会に向けて完成した東京アクアティクスセンターが舞台。国際基準のメインプールやダイビングプールを備える。この土地は7号地と呼ばれた埋め立て地で、1966~67年に江東区に編入、辰巳の地名に。肢体不自由と視覚障がい選手が所属する日本パラ水泳連盟の参加会員数は約600名以上。ほかに日本知的障がい水泳連盟も。
取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則
『散歩の達人』2021年9月号より