同時進行する様々な種目と、支える審判員たちのパフォーマンス

跳躍競技は三段跳びや走り幅跳びなど男女8種目。棒高跳びは選手が数本の棒を使い分け、バーも位置を動かせる。
跳躍競技は三段跳びや走り幅跳びなど男女8種目。棒高跳びは選手が数本の棒を使い分け、バーも位置を動かせる。
投てき競技は円盤投げ、やり投げなど男女8種目。
投てき競技は円盤投げ、やり投げなど男女8種目。

先日初めて国立競技場で陸上競技を観た。面白い!

幕の内弁当みたいだ。楕円形の会場にはトラック競技が周回し、その内外でハンマー投げや棒高跳びなど、さまざまな競技が同時進行するのだ。

「一度に4~5種目が行われることも」というのは日本陸上競技連盟の石井朗生(あきお)さん。ご自身も十種競技選手だったので「最近はハンマー投げのように回転して投げる砲丸投げ選手も増えて」など、どの競技も詳しい。

日本陸上連盟経営企画部長の石井朗生さん。学生時代は十種競技選手だった。「陸上は人間が持つ根源的な力を競うことが醍醐味です」。
日本陸上連盟経営企画部長の石井朗生さん。学生時代は十種競技選手だった。「陸上は人間が持つ根源的な力を競うことが醍醐味です」。

何より驚いたのはスタッフの動きだ。投てき競技の着地点を確認する姿、短距離走後にすぐハードルが整然と並べられる様。背筋を伸ばし次々にピシッと仕事をしてゆくのだ。

「彼らは審判員といいます。外国ではそれ自体をパフォーマンスのように見せる大会もありますよ」と石井さん。へえ、俄然(がぜん)興味を抱いた。

審判員になるには経験や実績、推薦と試験が必要だからか、出会った審判員の方々は真面目で誠実な印象だ。競技の審判のほか、選手の誘導や報道対応など、1大会に約300人もの審判員がテキパキと働くのだ。

短距離走者がスターターの合図でスタート。トラック競技はハードルなど男女25種目。
短距離走者がスターターの合図でスタート。トラック競技はハードルなど男女25種目。

静寂の1.6秒の後、号砲が鳴り響いた

1964年大会を経験した審判員・野崎忠信さんにお話をうかがった。スターターという花形の任務だ。

母校・東京学芸大学の恩師、佐々木吉蔵氏の下、高校教師の野崎さんは大会1年前にスターターの補助役員となった。その仕事を野崎さんは「各地の陸上大会でストップウォッチを握り、号砲のタイミングを計り続けました」。それまでの大会で目立ったスタート時のフライングを「東京大会では絶対に出さない」と、佐々木氏は決意、その研究に携わったのだ。

奥様と笑顔の野崎さん。スターター一筋で研究に励み、競技用スターター装置など特許も取得。明星大学名誉教授で東京オリンピックコレクターだ。
奥様と笑顔の野崎さん。スターター一筋で研究に励み、競技用スターター装置など特許も取得。明星大学名誉教授で東京オリンピックコレクターだ。

1年がかりの成果は「『位置について』は大きな声で、『よーい』はむしろ声を落とす。そしてその後1.8~2.0秒でピストルを撃つ。これが最も美しくスタートできる形だとわかりました」と野崎さんは振り返る。

当時の「よーいどん」は開催国の言語が用いられ、外国人選手は事前に練習した。そして予選から決勝までは同じスターターが担当、選手との間に信頼関係が生まれるという。

当日、男子100m走の号砲は1.6秒で撃たれた。選手たちの体がピタッと止まった瞬間を狙ったのだ。

成功! 「これで俺の仕事は終わった」という佐々木氏の満足げなつぶやきを野崎さんは胸に刻んだ。大会に向け、下支えの人たちも努力を重ねていることに私も思いをはせた。

任務を終えて退場するスターター。右から2番目が野崎氏。補助審判員として号砲のタイミングを計った。
任務を終えて退場するスターター。右から2番目が野崎氏。補助審判員として号砲のタイミングを計った。

国立競技場

1964年大会 審判員の研究成果も花開いた大会の舞台

競馬などに使われた写真判定がオリンピック初登場。
競馬などに使われた写真判定がオリンピック初登場。

1952年、東京オリンピックとアジア大会招致を契機に国立競技場を建築。神宮競技場跡地に33年完成。64年、東京オリンピックでは観客席増など拡張工事。この大会からトラックが6レーンから8レーンとなり、選手とスターターに距離が生じ、号砲音の時間差解消にスピーカー導入など工夫。当時の号砲は警視庁から借りた本物のニュー南部銃の空砲で、野崎さんは最適な音への火薬の分量調整や手入れも担当した。

2020年大会 大正・昭和・平成と3代目の大競技場へ

中央の赤い投てき競技用フェンス柵が目立つフィールド。
中央の赤い投てき競技用フェンス柵が目立つフィールド。

江戸時代には幕府の火薬庫などがあった渋谷川沿いの傾斜地。明治時代の陸軍練兵場を経て、明治天皇崩御後の大正13年(1924)に明治神宮外苑競技場を建築。斜面を利用し観客席が造られた。第二次世界大戦時には学徒出陣の舞台に。現在の国立競技場は2019年竣工。設計は隈研吾。座席は森の木漏れ日風に5色を配し空席が目立たない。前競技場の絵画や銅像も各所に飾られる。

木材を多用し外観にも植栽を配した建築。敷地内の樹木も美しく育った。
木材を多用し外観にも植栽を配した建築。敷地内の樹木も美しく育った。

取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則
『散歩の達人』2021年8月号より

6月1日、ついにオーストラリアのソフトボールチームが群馬県太田市にやってきた。総勢約30人のチームで、全員がワクチンを接種済みだという。それはそれでいいのだが、どうもこれから続々とやってくるらしい。一説によれば900ものチームと選手が! しかも数百規模の自治体が事前合宿を受け入れる……って聞いてないよ!と思ったあなたは正直でよろしい。私はここ数カ月間、「バブル方式」「ホストタウン」「事前合宿」、この知ってるようで意外と知らない3つの言葉について、関係各所に取材してきた。結果わかったのは、なかなか衝撃的な事実だったのだ。
3月25日に福島県で聖火リレーがスタートして3週間。これまでに福島県から栃木県、群馬県、長野県、岐阜県、愛知県、三重県、和歌山県、大阪府、そして四国へと走っているので、地元の方々はもうご存知だと思うが、一応、第一日目に見た聖火リレーをご紹介する。全国各地、あなたの街にもいずれこのご一行、走ります!
聖火リレーが3月25日に福島県をスタートして、ひと月以上。7月23日まで粛々と全国を網羅するらしい。コロナ禍なので当初とは形を変える自治体も増えてきたが、聖火リレーの原型はこんな感じ、というのは前編で書いた。で、私たちがなぜ第1日目の福島県での取材に訪れたのかと言うと、もうひとつ取材しておきたいことがあったからだ。それは「復興五輪」。今更ながら、これは一体どういう意味なのだろう?