ご飯がすすむ甘辛なポーク・ジンジャーとキリっと爽やかなジンジャーエール
『Cafe GINGER.TOKYO』は、清澄通りに立ち並ぶ長屋群の向いビルの2階にある。ビルの横から階段を上がったところが入り口だ。
人気のポーク・ジンジャーとジンジャーエールをさっそくいただくことに。
手作りのジンジャーソースはしっかり炒めた玉ねぎのおかげでコクのある甘みがほんのり広がり、徐々にショウガの風味を感じる。マイルドな甘辛い味。肉のうま味と相まってご飯がすすむ。大ぶりのポークはたっぷり6枚もあって大満足。
お肉とお米の幸福感にしばらく浸ったあとは、自家製ジンジャーエールでリフレッシュ。こちらはピリリとしたジンジャーの風味が活きるすっきりとした味。
音楽好きにはたまらない! 懐かしの洋楽レコードに囲まれた空間
『Cafe GINGER.TOKYO』は入り口のドアを開けると左右にスペースが分かれている。右手のほうはゆったりとしたテーブル席のスペースで、壁際にはたくさんのレコードが並ぶ。『Cafe GINGER.TOKYO』の店内には7インチレコード専門店『45rpm(フォーティーファイブ アールピーエム)』がショップ・イン・ショップ形式で存在する。高山さんがコレクションにしているレコードも合わせると約4000枚がずらり。
高山さんは特に1960年代から80年代にかけての洋楽に造詣が深い。カルチャーセンターでその分野の講師を任されたり、FMラジオの音楽番組のパーソナリティを務めたりと知識は本物だ。2021年4月にはレコード専門誌で6ページにわたるインタビューにも登場した。
本が並ぶスペースには読書好きが集まる
入り口のドアから左手は、たくさんの本に囲まれたブックカフェのようなスペースになっている。カウンター側は高山さんが読んだ本が置かれ、気になる本は自由に手に取ることができる。
ボックスに並ぶのは常設する古本市。近隣の古書店がセレクトした古本が並ぶ。
左右のスペースの間の壁はギャラリーになっている。取材時(2021年6月時点)は、吉村生(なま)さん、髙山英男さんの共著『まち歩きが楽しくなる 水路上観察入門』の刊行記念の展示があった。
店の名前は巨大猫ジンジャー君から
ジンジャーを使ったメニューがウリだから『Cafe GINGER.TOKYO』という店名なのかと思いきや、そうではない。高山さんが飼っていた愛猫の名前が由来だ。
高山さんは「看板メニューはお客さんが作るものですから」と言う。口コミで“パスタがおいしい”と評判になったことも、いっときは“ハンバーグがおいしい”という話が広がったこともあった。今はポーク・ジンジャーとジンジャーエールがおいしいというお客さんが多い。「ハンバーグはやめちゃった。評判になったらなったで、“焼きすぎだ”とか“焼きが足りない”とかいう声があって、もう面倒で」。
深川の街の過去・今・未来を受け継いでいく箱として
高山さんは大学を卒業して以来、江東区役所に勤めていた。しかし責任とストレスの大きな仕事が幾度と重なり、ついに体調を崩す。2014年に早期退職を選択。
「区の職員を辞めてからは、この地域の歴史を残す活動をやっていきたいと思っていました」
歴史とともに語られることの多い深川だが、江戸時代の水害や大正時代の震災、昭和の大戦被害でこのあたりの庶民の生活は何度も“空っぽ”になったと高山さんはいう。
「お寺や神社は早々に復興されますが、戦前の人々の暮らしぶりがわかるものはほとんど残っていません。きちんと保存をしていかないと、どんどん散逸してしまいます」。
役所勤めならこの深川のことをなんでも知っていて当然だと思われていた。区民からはガイドブックには載っていないようなことを多く聞かれ、この地の情報を手繰り寄せることを繰り返すうちにいつしか深川の歴史の保存と継承がライフワークになった。現在は庶民の生活を知り、共有できる貴重な資料として、各家庭に残る古写真の保存を呼びかける。
高山さんは『Cafe GINGER.TOKYO』という箱を通してこの街の過去・今・未来を見据えている。ユニークなスペースにたくさんの人が集まり交差する『Cafe GINGER.TOKYO』で、深川の街に思いを馳せるひとときを過ごしてみてはいかがだろう。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子