向島・曳舟の基礎知識
隅田川左岸に位置する向島と東向島は、江戸時代より風光明媚な場所として栄えた。その一つ『向島百花園』は、派手な花園があるわけではないが、通人好みの四季の花が咲く名所として、多くの人が訪れる。鳩の街通り商店街は、東向島5丁目付近にあった玉の井と並ぶ元赤線エリア。その頃の面影を見つけるのは難しいが、レトロな店舗や住居が立ち並ぶ街は風情がある。
向島は、明治期に入ると料理屋が置かれ、今でも芸妓文化が健在だ。隅田川沿いは桜の名所であり、隅田川七福神巡りの寺社も点在し、ウォーキングを楽しむ絶好コースとなっている。
1 東武博物館
12車両もの実物の保存車両が圧巻
東武鉄道の歴史や車両について学べる。実物車両や貴重な鉄道文化財資料の展示は見ごたえある。実際の走行車を見られる駅ホーム下に設置した見学スペースが人気。
向島 松むら
いなり寿司の具材は彼岸で変わる
創業50年のいなり寿司とのり巻の専門店。昔ながらの手法で作ったいなり寿司は、羽釜で炊き上げた酢飯と甘辛い油揚げがマッチする。いなり4個とのり巻き4切の折り詰め690円。
2 向島百花園
唯一現代に残る江戸時代の花園
骨董商・佐原鞠塢(きくう)が、文化元年(1804)頃に開園。庶民的で文人趣味豊かな庭として、大名庭園とは異なった美しさが魅力の庭園。ウメやハギの名所として知られる。
3 鳩の街通り商店街
90年以上の歴史を誇る
水戸街道から墨堤通りまで約300m続く、昭和風情が残る商店街。鳩の街はかつての赤線地帯で、吉行淳之介や永井荷風の作品の舞台にもなった。商店街には往時の面影を残す建物もある。
古民家カフェ こぐま
東向島の人気古民家カフェ
昭和2年(1927)築の薬局を改装した店は、薬棚や柱時計に昔の面影を残す。焼きオムライスや、焼きカレー各1050円が人気。コーヒーとともに自家製のキャラメルチャイシフォン500円を。
4 長命寺
隅田川七福神の弁財天を祀る
徳川3代将軍家光が鷹狩りに訪れた際、腹痛をおこし、境内の井戸水で薬を服用したところ痛みが治ったことから「長命水」の名を授かり、寺号もあらためた。復元された井戸もある。
5 弘福寺
風外禅師作の像で風邪退散
日本三禅宗の一つ黄檗宗の古刹で、延宝元年(1673)創建。黄檗宗特有の唐風建築の本堂や山門を見ることができる。「咳の爺婆尊」と呼ばれる像を安置し、風邪除けの信仰を集める。
6 三囲神社
三井家ゆかりの古社
創建は定かではないが、南北朝時代と伝わる。享保年間(1716〜1736)に、江戸へ出てきた三井家が守護者と定め信仰してきた。三越池袋店にあったライオン像が移転されている。
7 すみだ郷土文化資料館
東京都墨田区の今昔をテーマ別で学ぶ
東京都墨田区の歴史や文化、伝統を実物資料や写真などを通して紹介。2階展示室は、隅田川レガッタの資料と東京空襲の体験画のほか、明治時代の墨堤を再現したジオラマ模型もある。
8 牛嶋神社
ケガや病気治癒を願い牛を撫でる
慈覚大師が神託を受け、貞観2年(860)に創建といわれる。境内にある「撫で牛」は、自分の身体の悪い部分と同じ部位を撫でると治癒すると伝わり、多くの人の願いで黒光りしている。
9 すみだリバーウォーク
隅田川の新散策スポット
2020年6月に開通した東武伊勢崎線隅田川橋梁沿いの歩道橋。水上バスが行き交う様子をガラス床から見下ろす。向島側は複合商業施設「東京ミズマチ」。
【街探検】ハト屋パン店
新店主によって復活した、コッペパン専門店「ポチも喜ぶハト屋のパン」とは
墨田区京島にある、昭和の下町風情が色濃く残るキラキラ橘商店街。昔ながらの商店が軒を連ね、今も昔もにぎやかさは健在だ。中でも注目は、『ハト屋パン店』。大正元年(1912)に創業の老舗だが、数年前に惜しまれつつも閉店。だが、ご近所さんだった現店主の紙田和代さんにより復活した。「このまま取り壊されてしまうのはもったいない」と思い、建物ごと買い取ったという。
パンは旧ハト屋と同じコッペパンのみ。プレーン150円と、いちごジャム、ピーナツクリーム(ともに180円)、あんバター200円の4種を販売。店内ではコッペパンのアレンジメニューをコーヒーや紅茶などドリンク付き350円でイートインも可能。紙田さんは、現在会社員との二足のワラジで、平日の営業時間は朝6時半から8時半のみ。散歩前の腹ごしらえに立ち寄ってみたい。
取材・⽂・撮影=アド・グリーン
『街がわかる 東京散歩地図』より