Profile:山内聖子
呑む文筆家・唎酒師
岩手県盛岡市生まれ。公私ともに17年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)

宅飲みではいつも以上に「味」が浮き彫りになる

外飲みができなくなった5月の某日。大好きな酒場や酒に関わる業界の方々の行く末を案じるとともに、外飲みができない日々がこんなに味気ないものなのかと、酒場を求める切なさがボディブローのように日ごと募るばかりです。

その一方で、前にも増して日本酒を自宅で飲むようになったのですが、私の舌はますます肥えていくような気がしています。

『いつも、日本酒のことばかり』でも書きましたが、私が日本酒を選ぶ基準は、一にも二にも三にも酒質であり「味」です。酒蔵や蔵元(つくり手)の魅力は必ず「味」に付随すると信じている私は、飲んでおいしいと感じないお酒は、興味の対象外です。というように、私は常に「呑み意地」を張っているので、ときに蔵元に煙たがれるくらい味にはうるさいほうです。

ところが、最近、外飲みを禁止されたことがきっかけで、そのうるささに拍車がかかるようになりました。なぜならば、酒場という場の雰囲気や、料理人がつくる料理、うつくしい酒器など、日本酒を引き立てるあらゆるフィルターがなくなる普段の宅飲みでは、日本酒の「味」がダイレクトに伝わるからです。つまり、フィルターがなくなった宅飲みでは、いつも以上に味蕾(みらい)が敏感に反応するようになってしまったんです。

酒場ではおいしく飲めたのに、自宅だと「あれっ」と落胆したり、逆に見えていなかったおいしさが浮き彫りになったりと、日本酒に対して新しい発見をすることが増えました。というわけで、今までもそうでしたが、引き続き、この連載では自分がおいしいと感じた日本酒を、偽りなく紹介していこうと改めて強く思っています。

今回紹介するのは島根県の「天穏(てんおん)」という日本酒です。このお酒は以前から酒場でよく飲んでいましたが、宅飲みでさらに好きになった一本です。派手な味ではありませんが、質実な優しいお酒と言ったらいいでしょうか。どこまでもやわらかい味なのに、芯がしっかりしていてキレもいい。「名は体を表す」とはこのことで、飲むと気持ちがふわっと穏やかになるんです。常温や燗酒がおすすめですよ。

骨つき鶏と新玉ねぎのくたくた煮をつくる

優しくてやわらかい「天穏」には、それに寄り添うような、くったりした煮物を合わせたいと思いました。ちょうど知人から淡路島の新玉ねぎをもらったので、それを使った煮込みをつくりたいと思います。暑くなってきたので、酸っぱ辛いパクチーのつけダレも添えて、さっぱりと食べますよ。

新玉ねぎ3〜4個、骨つき鶏250g、おいしい日本酒(天穏)コップ半分くらい、塩を適宜。つけダレにパクチーひと束、ポン酢、穀物酢、豆板醤。

この料理の肝は多めに入れるおいしい日本酒です。日本酒を入れることで玉ねぎの甘みがぐっと引き出され、出汁まで旨くなります。

玉ねぎを大きめに切ったら骨つき鶏とともに鍋に入れ、日本酒をひとくち飲み、おいしくなあれと念じながら注ぎます。あとは材料がしっかり浸るほど水を入れて火をつけます。

蓋をして中火でコトコト、というよりもグツグツ煮ます。吹きこぼれそうになったら火を弱めるなどして火力を調整しながら、じっくり煮ていきます。

煮ている間はつけダレをつくります。パクチーをみじん切りにし、穀物酢(酸味を控えたい人はポン酢を混ぜてください)を3まわしくらいと、豆板醤を小さじ2加えてよく混ぜましょう。完成したらタッパーに入れて冷蔵庫で冷やします。余談ですが、このタレは豆腐にかけたり、野菜や肉に和えたりしてもおいしいので、多めにつくって保存すると、何かと料理に使えるので便利ですよ。

40分くらい経つとこのように新玉ねぎがくったりして、汁が白濁してきます。そして、ここからがポイントなのですが、このくらい煮えたら火を止めて蓋をしたまま20分くらい蒸らします。

蒸らしたら完成。しっかり蒸らすことで、さらに新玉ねぎがとろとろになりますよ。

深めの皿に汁もたっぷり入れて盛りつけ、塩を適宜、全体に振ります。冷蔵庫で冷やしたパクチーダレも添えていただきましょう。

新玉ねぎは箸で崩れるほどやわらかい。そして、目尻が下がるほど甘い! 新玉ねぎと日本酒がいい仕事しています。ピリッと酸っぱ辛いパクチーダレが後を引いて、箸が止まりません。

常温で飲む「天穏」は、ほんとうに穏やかな味で、飲むとス〜ッと気持ちよく体に浸透していきますね。とろとろの甘い新玉ねぎと溶け合い、なんとも言えない幸福感で心が満たされます。優しい気持ちになれる日本酒なので、先行きが見えない不安定な今こそ飲んでほしい一本ですね。

そして、一人前にしては多めにつくったのは、このためでした。残ったら鶏肉の骨を外し(骨が気にならなければそのままでも)、ホールトマト1缶とルーを入れてカレーに。ごはんにかけてもいいのですが、日本酒(天穏)にも合いますよ。ただじっくり煮る簡単な煮込みですが、一度で二度おいしいつまみなのでした。

写真・文=山内聖子

こんばんは、山内聖子です。私は、趣味が日本酒、仕事も日本酒の物書きです。長い間、日本酒のことばかりを考えて毎日を過ごしているのですが、このコラムは、そんな私が偏愛するあらゆる日本酒の話と、日本酒を飲みたくなるつまみの簡単なレシピを、毎回ひとりごとのように紹介する記事です。どうぞ、体を楽にして読んでいただけたらうれしいです。
こんばんは、山内聖子です。私は、趣味が日本酒、仕事も日本酒の物書きです。長い間、日本酒のことばかりを考えて毎日を過ごしているのですが、このコラムは、そんな私が偏愛するあらゆる日本酒の話と、日本酒を飲みたくなるつまみの簡単なレシピを、毎回ひとりごとのように紹介する記事です。今回は、寒い季節にはたまらない汁物をつまみにする話です。しばし、ひとりごとにおつきあいいただけたらうれしいです。