中央線の“スキマ”に息づく幸せな循環。『古書 音羽館』[西荻窪]
いつ行っても、お店が呼吸している。棚の前では、お客さんがくつろぎつつも真剣に本を選び、 毎日本が入れ替わっていく。店主の広瀬洋一さんは、 「野菜や日用品みたいに、本を毎日買いに来るものにしたい」 という思いが強い。ものをつくっている人が多い土地柄が、お店の活気につながってもいる。多様な本を、きちんとした価格で売ることは、本を買う人ばかりでなく、売る人をも呼び込むのだ。幸せな循環がここにある。
『古書 音羽館』店舗詳細
時代を映す本を次世代へと受け継ぐ。『よみた屋』[吉祥寺]
店主の澄田喜広さん曰く「本屋さんは、本が通る通路をつくる仕事」 。本を選ばず、できるだけ多くの本を通したいという思いから、 思想、 歴史、 数学、 科学、環境、精神医学、芸術、演劇とあらゆる分野を網羅した品揃えになっている。その分類も店内の眺めも、まるで図書館のようだ。 「地域の本を受け継いで、次の世代へと伝えるのも、古書店の大事な役目です」 という言葉を聞いて、古本は歴史の資料のひとつであることに気づく。
『よみた屋』店舗詳細
大学街で長年生き抜く安心の目利き。『古書現世』[早稲田]
高田馬場から早稲田にかけて、古書店が点在している。かつては 40軒ほど、現在は半分くらいになったとはいえ、大学のお膝元として脈々と続く古本街だ。 『古書現世』 の向井透史さんは二代目。古本業に就いて20年を超える。「大学の先生を中心に、大量の買い取りが多いです。お客さんも大学関係者が主ですね」 。とはいえ敷居が高いわけではない。ジャンルでなく価格で本が分けてある一角があったり、現代史が充実していたり、探究心に火が付く店である。
『古書現世』店舗詳細
愛と笑いの不思議な古書店。『古書往来座』[池袋]
明治通り沿い。この大きな赤い看板が目印。なんとも不思議な店である。店に入ってすぐの正面は、たいてい何らかの企画棚になっていて、取材時は新聞連載の切り抜きを束にして綴じた本がいくつも積まれていた。これは実にめずらしく、ユニークだ。他の古書店でこういうものを見る機会はほとんどない。かと思うといきなり服(!)が並んでいたりする。「『ノマド雑貨店めずらしいことり』という屋号を持つ方の出張販売スペースなんです。毎週続々と納品してもらって、ちゃんと売れていきます」(代表の瀬戸雄史さん)
そして極めつけが名物店員・のむみちさん。東京都内の名画座の上映プログラムをポケットサイズにまとめた『名画座かんぺ』(持ち帰り自由)は、今や名画座に通う熱心な映画ファンの必須アイテム。そこから発展した「名画座手帳」も毎年発行・販売している。次はいったいどんな手で驚かせてくれるのか。常に目が離せない古書店である。
『古書往来座』店舗詳細
古書店は入りにくい? いや、ここなら大丈夫。『古本遊戯 流浪堂』[学芸大学]
東急東横線学芸大学の西口を出て、西口商店街を左へ。線路沿いの道を3分ほど進んで、有名な洋菓子屋さんの『マッターホルン』が見えたらその路地を右折。すぐ右側に『古本遊戯 流浪堂』がある。「新刊書店と違って、古書店というとどうしてもまだ入りにくいという方もいらっしゃいます。それを少しでも緩和させたくて、手に取りやすい雑誌を外に置いたり、女性もスッと入れるように店内の最前列に絵本を置いたりしています」と語るのは店主の二見彰さん。
およそ18坪の店内には約2万冊がビッシリ。それぞれの棚の見せ方に工夫があり、なにやら天井のほうもにぎやかで楽しい。そしてジャンル、というよりキーワードといったほうがいいだろうか、「ここは猫の本」「パリやフランスの本」「お酒の本」といった感じできめ細かく棚が編集されていることがよくわかる。さらにめずらしいのは、レジ横に「謎の小部屋?」というたたずまいでギャラリーがあること。一人でフラリと訪ねても、小さな子連れでも満足できるうれしいお店だ。
『古本遊戯 流浪堂』店舗詳細
気軽な本から趣味の本まで美本ぞろい『古書むしくい堂』[八王子]
古書店好きな高橋良算さんが2017年3月に開店。ラジオ番組に投稿し赤江珠緒に名付けてもらったという店名に反して、美本ぞろいなのが特徴だ。絵本や音楽書、暮らしの本など、女性も気軽に手に取れる本が並ぶ一方、鉄道本の棚の豊富さにも興奮する。新刊やリトルプレス、絵葉書、切手なども扱い実に見ごたえあり。
『古書むしくい堂』店舗詳細
重厚かつ柔軟なシモキタの新しい顔。『CLARISBOOKS』[下北沢]
商店街の一角に店を構える。2013年12月に開店した店内は明るくたいそう居心地がよい。文学・哲学・思想など「字を読む本」と、「写真集」に力を入れていて、新旧、硬軟とり混ぜた品揃えに知識欲をくすぐられる。幅広いラインナップの本に触れることで、人とのつながりも生まれる場所だ。
『CLARISBOOKS』店舗詳細
いつ行っても陽気で愉快なワンダーランド。『古書ビビビ』[下北沢]
ちょっと薄暗くて、あちこち冒険してみたくなる店内。正面の平台には古本と合わせて新刊書やリトルプレスが並び、“本日のビビビ”的に新鮮な熱気を発している。児童書、文庫、写真集なども取り揃える。店外の均一本棚(扉付き)には掘り出し物があるので見過ごしてはならない。そして何より驚きなのは、この濃密な品揃えが、お客さんからの買い取りだけで成り立っていることだ。
『古書ビビビ』店舗詳細
本から始まる人とのつながり。『百年』[吉祥寺]
2006年8月の開店以来「本を売る場」ではなく「本を通して人とやりとりをする場」を目指してきた。本を大切に扱い、誠実な値付けをし、必要としている人のところへ本を届けることを繰り返してきた『百年』の古本は、お客さんからの買い取りが8割も占める。磁石のように、良書は良書を呼ぶのだ。本を読む行為は孤独だが、そこから始まる対話があることを、この店は教えてくれる。
『百年』店舗詳細
雑念を払ってひたすら本を選ぶ空間。『水中書店』[三鷹]
開店時から力をそそぐ詩、短歌、俳句の品揃えは今や棚7本分。詩集や句集は装丁も美しい。「他のジャンルにはないエネルギーがあります」と店主の今野真さんは話す。とはいえ詩歌専門というわけではなく、文芸、芸術から絵本や漫画まで、日々の生活に寄り添う本が程よく並ぶ。どの書棚も本の背がぴしっと揃い、抜き差ししやすいように余裕があり、選ぶことに集中できる。本を大切に扱う店主の思いが随所に光っている。
『水中書店』店舗詳細
取材・文=屋敷直子、北條一浩 撮影=木村心保、金井塚太郎、北條一浩、丸毛 透、本野克佳