当世サロンを形づくる浅蒸し茶と自家製あん『Chatoan 茶とあん』
路地裏の小さな店に、手押し車の年配者、赤ん坊連れなどの地元民が次々と顔を出す。岡山出身の店主・増田玲子さんが朗らかに迎え、世間話をしながらお茶を淹れる。もともとが大の日本茶好きで、 「東京には日本茶の店がいっぱい。週末ごとにハシゴしました」 。さらに、 和菓子の基礎を学び、 「お茶を飲みながら地域とふれあえる場に」 と2017年に開業。 「茶葉の旨味がしっかりした浅蒸しが好きで、その甘みを楽しんでほしくて」 と、1煎めは湯出しもあるが、水出しをぜひ。その後、湯を足し、茶菓子とともに3煎ほど、のんびり煎を重ねる。北海道無農薬小豆の自家炊きつぶあんがすっきり甘く、茶の渋みとあいまって、脱力。みな、にんまりと打ち解けていく。
『Chatoan 茶とあん』店舗詳細
目を閉じて五感すべてで味わう『伍』
靴を脱ぎ階段を上がると、正面に小さな茶花。店内はほのかに緊張感があるも、店主・玉井大介さんの温もりある接客に和らぐ。玉露、抹茶、煎茶、萎凋(いちょう)煎茶に分類される品書きは10数種類と、実にシンプルだ。「抹茶は通常、合組(ごうぐみ。様々な茶葉のブレンド)ですが、珍しい単一品種を体験いただけます」今日は、宇治の『五香』。まず、抹茶に挽く前の香り高い碾茶(てんちゃ)を。やがて、シュウシュウと湯が沸く音、茶筅(ちゃせん)の音が響く。
『伍』店舗詳細
ハンドドリップの煎茶を飲み比べ『東京茶寮』
ちゃぶ台がテーブルに変化したように、急須がドリッパーになっても!? そんな新しい煎茶の淹れ方を提案。おいしいだけでなく、熱い思いで取り組む生産者のお茶を発掘し、開店以来、43種のお茶を紹介してきた。「10度の味の違いを楽しんで」と、店長の井原優花さんは、しなやかな所作でドリップする。70度で抽出する1煎目は、丸い茶碗で甘みと旨味を。80度を注ぐ2煎目は、渋みと香りをじっくりと。3煎目は香ばしい玄米を入れて。
『東京茶寮』店舗詳細
煎茶と洋菓子を、香りで楽しむ『表参道 茶茶の間』
「2005年の開店当時はシングルオリジンの日本茶を揃えるカフェは少なかった」と振り返る店主の和多田喜さん。生産者と交流し、選び抜いたお茶を提供し続ける中、特に香りを重視するように。「その土地の、その農園の、その人にしか作れない香りを伝えたい」。考案した煎茶と洋菓子のマリアージュは、まさに、香りを楽しむ手法だ。抹茶のスイーツに、静岡県産「流星」を。深い甘みの余韻にチョコをひと口。茶の香りが、さらに立つ。
『茶茶の間』店舗詳細
台湾茶文化に浸る魅惑のひととき『台湾茶藝館 桜樺苑』
台湾にルーツのある店主・何宛樺(かえんか)さんが、「本物のおいしい烏龍茶を味わって」と、2018年春に開店。有名な凍頂烏龍茶や東方美人も揃うが、標高1600mの小さな茶園で、温暖差と川霧に恵まれて育つ良質な茶葉「冷香」が看板だ。何さんが伝統的な手法で淹れる1煎目は、聞香杯(もうこうはい)を使って、豊かな香りに心を澄まそう。2煎目からは見様見真似、お客が自ら湯を注ぎ、煎ごとに変わる風味を感じたい。異国情緒のサロン席や個室もあり、旅心地に。
『台湾茶藝館 桜樺苑』店舗詳細
取材・文=松井一恵 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2019年12月号より