蛇窪神社
躍動する白い神使たちの不思議
こんな神社はほかにない。妙にまんが・アニメ的な白蛇群と白竜、白狐のコンクリート像がいて、その躍動感はハンパなく、夜中に動き出しそうなくらい。単なるヘタウマを超えたこの生命感はなんなのか。宮司さんによれば、この白い神使たちの作者・真鍋勝さんは鳶職で若くして神社番になり、亡くなるまで50 ~ 60年間、この神社にかかりっきりだった。「マーちゃん」と呼ばれた彼の創作活動は、温かく見守られていたようだ。この神社の発案で、昔の地名、蛇窪にちなんだ白蛇のゆるキャラ「くぼっち」が誕生し、“萌え系”七福神巡りも始まった。社務所まわりにも新キャラの絵が散らばり、まんが・アニメ的な不思議世界が湧き出す泉のような場所だ。
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承教寺
大陸から来た人頭牛身の不思議
山門前に狛犬的石像があるが、全然狛犬じゃない。まるで人頭牛身の妖怪「件(くだん)」なので、私は昔から「高輪の件」と勝手に呼んできた。住職の奥さんの話では、100年くらい前、朝鮮で買ってきた人が奉納したらしい。どうやら、中国のカイチまたは朝鮮のヘテという霊獣のようだ(カイチは牛に似るというし)。しかし、こんな人頭牛身っぽい像は見たことない。やはりこれは件と呼びたい。謎の像が護る山門は、車や人の行き交う道をまたいでいて、その先の仁王門までの、街と寺が融合した不思議な空間がいい。仁王門の鬼瓦たちが、鬼の首がグーンと伸びてちょんまげを結っているように見えてきた。
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願行寺
しばり地蔵の首が増えていく不思議
たとえば日光の輪王寺観音堂には将棋の香車の駒がたくさんあって、香車のようにスッと出産できるようにとひとつ持ち帰り、産後に新しい駒と一緒に返すシステムがあるが、ここはなんと、病気平癒などの願を掛けるときお地蔵さまの首をひとつ持ち帰り、願いが叶ったら2つ戻すという首の倍返しシステム。個性豊かな首がたくさん並び、首のアンデパンダン展の様相。昔、見に来たときと首の数があまり変わらず、もう廃れたのかと思ったら、ご住職によると、お地蔵さまの下の戸棚に古い首がしまってあり、紙粘土製などで壊れたものは埋葬する。今も年に5首くらい増えることもあるらしい。
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品川神社
お狐さまが護る闇の不思議
竜が巻き付くカッコいい双龍鳥居、素晴らしい高度感の富士塚など見どころの多い神社だが、不思議度が最も高いのは阿那稲荷下社の狐穴。なんの穴でどこまで続いているのかわからず、富士山や江の島岩屋とつながっているという伝説もあり、宮司さんによれば近くの権現山に通じているという話もある。御嶽神社は溶岩を配した塚状で、背後の斜面に密かな登路があり、富士塚同様、台地の地形を利用した御嶽塚なのかもしれない。
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高山稲荷神社
おしゃもじさまの不思議
なぜか切支丹灯籠が「おしゃもじさま」と呼ばれて、覆屋に守られて祀られている。ご神体の全身がこれほどクリアに見える状態の切支丹灯籠は珍しい。マリアさまと思しきそのおかたのバレエ立ちがなんとも愛らしく、後ろ姿のようにも見えてきておもしろい。「おしゃもじ」は石神の転訛だともいうが、それだけはない気がする。ここを管理する高輪神社には、聖徳太子を祀る太子宮があり、扉が開いた状態で石化したような石門がいい。
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光福寺
あまりに幽霊すぎる不思議
昔から「お化寺」と呼ばれ、幽霊みたいなお地蔵さまがいる。野晒しの石仏が風化して幽霊っぽくなっているのはよくあるが、ここのはすごい。本物(?)の幽霊みたいにちゃんと下半身が先細っているしスケルトンっぽくて、見事なまでに幽霊なのだ。そういう目で見ると、背後の板壁にもいろいろ見えてくる。なぜこんなにまで幽霊なのか。この像はもしかしたら何代目かで、いかにも幽霊っぽくしたものではとご住職は推測する。
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東光寺
大勢の便器に囲まれてまたぐ不思議
この感動をどう伝えたらいいのか。庫裏と合体した本堂もいいが、なによりトイレ(東司)と合体した烏瑟沙摩大明王のお堂に驚いた。下の病や不浄を火の力で除く烏瑟沙摩明王を祀る寺は各地にあるがしかし、この東司の何気なさと気高さの融合ぶりには息を呑む。ふつうに使用されている小便器3つと洋式便器1つ、和式便器3つが、明王の両側に侍るように整然と並び、トイレの床もお堂の床も同じでまったく分け隔てがない。小便器自体が、すっくと立ったなにか白い神使のように見えてくる。一面六臂の明王の前には木製の便器状の「おまたぎ」があり、線香を炷いてまたいだ状態で大明王を拝むという作法。30年以上前に先代の住職が祀ったという。
『東光寺』詳細
構成=フラップネクスト 取材・文=中野 純 撮影=加藤昌人
『散歩の達人』2015年9月号より