とある晩、『みますや』でカレーのルーだけを注文して酒を飲む常連客の姿を見た。思わず真似して試してみれば、また違った味わい深さがあるのだと驚いた。カレーで酒は飲めないよ! なんて人もまだまだ多数だが、実際につまみとしてカレールーを置く居酒屋もけっこう多いのだ。……と編集会議で熱弁したら、「吉岡さん、ちょっといい店調べてきてよ」と編集長。おつまみカレーを求めて奔走の日々が始まった。
松屋
60年余続く地元の名店
まずは清澄白河『松屋』へ。ランチは定食、夜はもつ焼きが自慢のこの店は、新鮮な鶏肉で仕込んだチキンカレーが人気で、おつまみ用にルーのみもある。種々の調味料(内訳は企業秘密!)を混ぜ合わせて毎日仕込むのだとか。店員の長田友梨さんおすすめのお酒は角ハイボール。中辛ルーの絡んだほろほろの鶏肉に、濃いめのハイボールがたまらない!
『松屋』店舗詳細
ブンカ堂
店主こだわりの日本酒は常時30種類近く揃う
続けて、「『カルー』という変わった名前のメニューがある」と聞いて向かったのは立石の『ブンカ堂』。店長の西村浩志さんは「カレーのルーを略してカルー。気になって頼むお客さんも多いです」。ジャガイモなどをとろとろになるまで煮込んだルーは辛さ控えめ。主張しない味なのにねっとりとした食感が不思議と後をひく。おすすめはなんとにごり酒を熱燗で。なるほど、日本酒もお米が原料なのだから、間違いない。
『ブンカ堂 』店舗詳細
里
老若男女が静かに集う憩いの場
最後は高田馬場へ。駅前に店を構える『里』の店主・武田廣市さんはなんと日本最古のインド料理店・ナイルレストラン出身。バラ肉カレールー530円は、タマネギを30個以上も使用し、仕込みに1週間かけるという絶品ルーだ。ナイル仕込みの複雑なスパイスが香り立つ。武田さんおすすめは自家製のレモン酢ドリンク。スパイスの辛味がレモンの酸味と見事に調和して、ついついもう一杯。
『里』店舗詳細
多様なのはカレーだけではなく、お酒との組み合わせもしかり。カレーのルーとは、合わせるお酒で寄り添うように味わいを変える、カメレオン的つまみなのだ!
取材・文・撮影=吉岡百合子(編集部)
『散歩の達人』2020年9月号より