小さかった女
重奏スパイスの余韻に浸る
個性的な店名由来を尋ねると「今は大きく育ちました」と、小助川麻里耶さん。勤めた居酒屋で、小柄をキープする田尻紡さんと意気投合し、独立した。当初はビストロ的だったが、名物作りに励むなかで誕生したのがチキンカレー。「スパイスは試行錯誤した独自の使い方」と笑うが、トマトだけの水分に、スパイス13種を加えたルーは、香りと辛みが重層的。カレーに合う特注焙煎のコーヒーと味わうべし。
『小さかった女』店舗詳細
ぎょぎょ
魚好きにはたまらん、日替わり旬魚の味と質
「引退して魚屋を閉めたけど、暇を持て余してさ」と、伊藤功さんは2016年に居酒屋を開店。「魚屋はあくまで併設」と笑いつつ、昔なじみの料理店にも卸す。豊洲市場で目利きした旬魚揃いゆえ、ランチは基本、日替わりだ。淡白な白身魚は鍋に大量に入れ、酒と水だけでじっくりことこと。ふっくらしっとりの煮魚は上品な味わい。また、生アジのフライは衣が軽く、香味が鼻を抜ける名品。リピーター続出に納得しきり。
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手打ち蕎麦 ほかげ
昼から飲みたくさせる酒肴も見逃せない
料亭や割烹などで腕を磨いた店主の手塚さん。「修業中に締めのそばを打っていたので」と独立し、石川県産を中心に福井、山形などのそば粉を仕入れて手打ち。厚削りのかつお出汁が効いた濃いめのつゆに付けると、そばは清冽な香りがふわり。また、「つい、酒に合うよう肴を仕込んでしまいます」と日本酒好きを自任し、昼飲みセットも用意。旬菜や〆サバの旨味が酒で花開き、とても1杯じゃ終えられない。
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三陽楼
辛みと甘みが渦巻く革新的担々麺
90年続く中華料理店を、3代目の亀田正己さんが受け継いだ店。V字カウンターで老若男女がすするのは、正己さん考案の担々麺だ。丸鶏、ガラ、モミジで炊き出すスープの甘みが深い。そこに、ピーナッツやゴマを通常の倍以上使う芝チーマージャン麻醬、八角や花山椒が香るラー油を加え、辛甘の大波小波を醸し出す。麺は、中細平打ち。北海道産小麦粉とモンゴルの天然かんすい由来のもっちりとした食感も、後を引く。
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志げる寿司
一見客も気軽に入店、あったかい“町寿司”
冷凍ものは仕入れず、夜と同じネタを惜しげもなく使う。「今はサワラがいいねっ。春の魚だよ」。会話も旬満載で、カウンター席ならではのプチ贅沢が味わえる。魚介を背負うのは人肌のシャリ。その酢加減のまろやかなこと! 「シャリ酢が自慢で」と若大将・高田正光さんの言葉に、大将の正親さんが静かにうなずく。赤酢や吟醸酢などを合わせ、地下室で半年寝かせているのだ。家族連れはお座敷へご案内。
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RECIPE DINING
体に元気を与えるオーガニックな一皿
書棚に並ぶのは世界の料理本の数々。そのレシピを、料理研究家の深澤大輝さんがアレンジしたものが品書きだ。「体に負担がかからない料理を!」と、野菜は無農薬にこだわる。人気は、定番の豆腐ハンバーグ。豆腐と野菜、豚ひき肉を練り込み、低温でじっくり焼きあげ、フワフワの食感と酒粕ソースの風味が口中で躍る。ビーツドレッシングのサラダやロマネスコのポタージュなど、付け合わせにも抜かりなし。
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SHANGO
メニューも雰囲気も魅惑の南米テイスト
さらりと炊き上げたジャスミンライスに、今日は「豚肉のトマトソース煮込み」と「白いんげんのポタージュ」を添える。日替わりはいつも、オーナーシェフのアリアムさんの故郷、キューバの家庭料理が登場する。スパイスは控えめでやさしい味にまとめるのが特徴だが、「僕の技を少し入れて」、チリを効かせピリ辛になることも。「ぜーんぶ混ぜてどうぞ」。流れるラテン音楽にのって、皿上で進化する味を楽しもう。
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La TRIPLETTA
食べ進めるほど味わい深さにハマる
歯切れがいいのに弾力があり、トマトソースの酸味がパッと口中ではじける。ピッツァを一枚、もう一枚と手を伸ばすうち、今度は素朴でふくよかな生地の香りがじわじわ。薪窯を操るのは、ナポリで研鑽した太田賢二さんだ。「最後に余韻を残したくて」と、30時間以上も熟成発酵させる生地や、品種や生産ルートで異なるトマト缶の特徴も研究。窯焼きオムレツ、岩のりフリッターなど、ナポリの伝統つまみも心憎い。
『La TRIPLETTA』店舗詳細
ストン
ピリリと辛み十分のスパイスカレーに舌鼓
都内各所の店舗を間借りしてカレー屋を開いていた店主の鹿島冬生さんが、戸越に店を構えたのは2017年。定番数種が日替わりでローテーションするなか、特に人気は、ブラックペッパービーフカレー。たっぷり火を通したタマネギと、ローストした8種のスパイスで、ルーが真っ黒。口中に含んだ瞬間、辛さと香味が広がる。「昼飲みする人もいまして」と、すすめられたスパイスハイボールとも相性バッチリだ。
『ストン』店舗詳細
取材・文=佐藤さゆり・松井一恵・高橋健太(teamまめ) 撮影=オカダタカオ、加藤熊三、山出高士
『散歩の達人』2020年3月号より