藤屋豆腐店[鶯谷]
いい老舗は豆乳や油揚の佃煮も旨い
寺院や古い日本家屋が点在する上野桜木。祖父がこの地で大正3年(1914)に掲げた豆腐屋の暖簾(のれん)を守るのは3代目の孫娘夫婦。毎朝4時に仕込みを始め、7時に店を開ける。できたての豆乳をラジオ体操帰りの人や、近くの職場へ向かう人がテイクアウト。今や豆腐はスーパーで買う人が多いけれど、この店では、日が昇るような満面の笑みを浮かべた女将さんが注文ごとに包丁で切り、パックに詰めて渡してくれるのだ。林家正蔵師匠がひいきにしている。作り立ての豆乳は1杯180ccで190円。
『藤屋豆腐店』店舗詳細
清水製パン所[稲荷町]
シビアな常連が通う街の名店
パンは約70種類。あんぱんの餡もたまごサンドの玉子もマヨネーズも手づくり。「既製品を使おうものなら『味が違う』とお客様に叱られます。」と言う清水裕史さんは、祖父が昭和初期に始めたパン屋の3代目。105kgの大きな体で縦横無尽に動き回り、生地づくりから焼成までの工程を一人でこなす。店を切り盛りするのは女性陣。店内にはいつも明るい声が響く。「味に厳しいお客様に指名買いしていただいているので手が抜けません」。幼稚園や保育園、学校給食にも届けている。
『清水製パン所』店舗詳細
よろずや[湯島]
鮮魚はもちろん、魚の味噌も評判
「昔は近くに肉屋も豆腐屋も八百屋もあったけど、今や商店はうちだけ」とこぼすのは、2代目小山敏雄さん。湯島天神女坂下にある鮮魚店が、いつしか魚の味噌漬も手がけ始めた。注文が入ると2代目が捌(さば)いた魚の切り身に、3代目の徹さんが自家製合わせ味噌を漬けてくれる。刺し身盛り合わせなどの鮮魚だけでなく、アジフライや焼き魚などの総菜も人気だ。「魚屋も時代のニーズに応えなきゃ」が2代目のモットー。近所に住む人や通販で買い求める人が多い。
『よろずや』店舗詳細
まるきん[上野]
韓国食材ならおまかせの専門店
白菜キムチやカクテギキムチなどが並ぶガラスケースの扉を開けると、キムチ特有の食欲をそそる香りが立ち上る。どれを買おうか悩んでいると、店長の国本高志さんが白菜キムチを試食させてくれた。「キムチは創業当初からすべて手づくり。ニンジンやニラも入ったチャンジャキムチがおすすめ。魚の凝縮した味を含んでいるのでコクがあります」。辛いキムチでスタミナをつけて猛暑を乗り切るべし。自家製のキムチや調味料だけでなく、冷麺や豚足、牛肉なども扱う。
『まるきん』店舗詳細
つる瀬[湯島]
喫茶室でお茶ができる和菓子屋
湯島天神のお膝元で、2代目田邊泰治さんの父が喫茶室を併設した和菓子店を昭和5年(1930)に創業。店頭のショーケースに並ぶ色とりどりの和菓子は手づくりで、持ち帰ることもできるが喫茶室で賞味させてくれる。湯島の老舗でまったりと季節感を味わうのも一興である。和菓子は近くの工場で手づくりしている。
『つる瀬』店舗詳細
取材・文=中島茂信 撮影=山出高士