2012年/はたして龍の公園遊具があるのか?

そのアイデアを思いついたのは2011年。迎える翌年は辰年(たつどし)である。12年がかりのプロジェクトを始めるにしてはキリが悪い気もしたが、私は辰年生まれ、年女でいいじゃないかと自らを納得させた。12年後、公園遊具にまたがり写真を撮る48歳の自分が一瞬頭に浮かんだが、それは極力考えないことにした。

問題は「龍の公園遊具があるのか?」ということだ。現在は便利なインターネット時代、「龍 公園遊具」というキーワードで検索をかけると、いくつかの公園がヒットする。龍という動物(?)の特性上、巨大すべり台などになっているようである。福岡や沖縄の公園にいいデザインの龍の遊具があったが、東京在住の私は、最も行きやすいというただその一点で、昭和記念公園の龍を選んだ。

さっそく撮影アシスタントのHさんを伴って昭和記念公園に出かける。しかし時は11月のよく晴れた日曜日。公園はたくさんの家族連れでごった返している。龍のオブジェがある「ドラゴンの砂山」付近にも子どもたちが群がり、その中でヘルメットにサングラス、革ジャン姿の私はどこから見ても不審者である。Hさんと「これは撮影ですよ、お仕事なんですよ」という風を装い、急いでドラゴンの背によじ上って写真を撮ってもらうが、どうしても子どもたちがフレームインしてしまう。それでも意地になって撮り続けているうちに、子どもたちも異様な空気を察して避けたのか、誰も写り込まない一枚が撮れた。

昭和記念公園の撮影風景(2011年)
昭和記念公園の撮影風景(2011年)

その奇跡の一枚をもとに、生まれて初めて印刷屋さんに年賀状を発注した。これほどまで年賀状を出すのにワクワクした年はなかった。年が明けて皆と顔を合わせた時、何と言ってくれるだろうか。

2012年の年賀状
2012年の年賀状

ところが年始に返ってきた反応は「イラストの年賀状が来ると思った、こんな年賀状は期待していなかった」という厳しいもので、私は現実が自らの思い通りにいかないことを思い知ったのである。以降「十二支ライダー」はWeb上で発表するのみとなり、また年賀状デザインに頭を悩ませる生活に逆戻りした。

2013年/ヘビはとぐろを巻いてないほうが良い

翌年は巳年(みどし)。よこはま動物園ズーラシアにヘビの遊具があると聞き、Hさんを伴って出かけた。確かに園内には、とぐろを巻いたリアルなヘビの置物があった。極度のヘビ嫌いのHさんが顔を背けながら撮影してくれた一枚は、「ライダー」というよりまるで「ヘビに締め上げられたカエル」。

ズーラシアにて(2012年撮影)
ズーラシアにて(2012年撮影)

これでは趣旨に反する。どこかにまたがれるヘビ遊具はいないものか、しかもかわいいのが。

その希望に合致するヘビ遊具はすぐに見つかった。板橋・蓮根川緑道の通称「ヘビ公園」には、とぼけた顔をしたヘビが二匹、向かい合って寝そべっている。巳年の年賀状にぜひお勧めしたいスポットであるが、遊具自体が大きいため、構図には気を付けた方が良いかも知れない。

2013年版
2013年版

2014年/根岸で馬の遊具に小躍りする

午年(うまどし)にはさして悩むこともなかった。馬の遊具は各地に豊富にあるからだ。その中で私は、横浜の根岸競馬記念公苑を選んだ。ここは日本初の洋式競馬場の跡地であり、園内にはさまざまな種類の馬の遊具がある。私は小躍りしながら各馬にまたがり、写真を撮った。3年目にして私は初めて「十二支ライダーを撮ってきて良かった」と思った。私は一体何と戦っているのだろうか。

2014年版
2014年版

未年(ひつじどし)を前にしても、私は楽観視していた。かわいいヒツジの遊具には心当たりがあったからだ。ところがここで思いもよらない出来事が発生する。その翌年の申年(さるどし)も合わせ、十二支ライダー撮影にこれほどの苦難が待ち受けていようとは、2014年の私には想像もつかなかったのである。(つづく)

絵・取材・文=オギリマサホ

おまけ

ちなみにこちらは2021年頭にオギリマさんがFBに上げた「カウライダー」です。
ちなみにこちらは2021年頭にオギリマさんがFBに上げた「カウライダー」です。
「十二支ライダー」年賀状シリーズもいよいよ佳境。2016年の干支(えと)であるサルの撮影中、筆者は大変なピンチに遭遇することとなった。つまり、ライダー危機一髪!
2011年から始まったオギリマサホの「十二支ライダー」年賀状シリーズ。辰(たつ)巳(へび)午(うま)と最初の3年は順調に乗りこなしてきたが、未(ひつじ)、申(さる)の年、ライダーの前に大きな困難が立ちはだかったのだった……。 
平成年間において大きく変わったことの一つに、街を歩く子ども達への対応が挙げられる。大人は見知らぬ子に対してみだりに声をかけることをしなくなり、子ども達自身も防犯ブザーを常に携帯して「知らない人から声をかけられても応対しない」ことが徹底されるようになった。これを世知辛いと嘆く向きもあるが、子ども達の安全を守るためには仕方のないことかも知れない。こうした時世の変化に伴い、街のあちこちで見られるようになったのが「子ども110番の家」というステッカーである。なんとなく理解していたつもりの「子ども110番の家」だが、一体どのような活動なのだろう。
街を歩いていると、「消火栓」とか「防火水槽」などと書かれた赤い円形の標識を目にする。しかし「消防水利」と「防火水槽」と「消火栓」はそもそもどう違うのだろう? そしてあの赤色はどのように経年変化していくのだろう? などの疑問をきっかけに防災について興味を持ってもらうというのはどうだろう?
私には食べたことのないものがあった。「すあま」。関東以外の方には馴染みのない食品であろうが、和菓子の一種である。そもそも私は和菓子が好きだ。それなのに何故すあまに手が伸びなかったかというと、「存在意義がよくわからない」からである。