神田錦町で50年続く喫茶店
オフィスビルが多く建ち並び、比較的閑静な一帯が広がる神田錦町。その一画に、『喫茶プぺ』はある。すぐ隣には、パンダの遊具がポツンと一つだけ設置されている様子がSNSやテレビ番組で話題を呼んだキンキン広場。
店の外観と内装は、昔ながらの喫茶店を感じさせる風情が漂い、思わずノスタルジックな気持ちになる。聞けば、1階は創業当時から変わらないテーブルとイスを使用しているとのこと。
ランチタイムのピークを過ぎた店内には、テレビから流れるワイドショーの音声をBGM替わりに遅めのランチを一人もくもくと食べている男性や、仕事の話をしているビジネスマンの姿があった。「場所柄、この店を訪れるお客さんは近隣で働く方が多いんですよ」と、店長の原直樹さんは話す。「限られた時間を利用して来てくださるお客様が多いので、素早いサービスを意識したスタイルになっちゃってますね」。
ゆっくり時間をかけてコーヒーを淹れることはなかなかできないと話す原さんだが、豆にはしっかりこだわっている。「目黒のコーヒー屋さんに、この店専用のブレンドを作ってもらっています。最近は、浅煎りのコーヒーを出す店が増えていますけど、うちは昔ながらのやや深めにローストした豆を使っていて、冷めても美味しいのが特長です」。やや苦みを感じながらもコクがある珈琲は、食後の一杯にもぴったりだ。
また、この店は2021年4月現在も店内での喫煙が可能となっている。1階は時間帯分煙となるが、2階は時間帯問わず喫煙が可能。
働く人々の胃袋を支える喫茶店
この店が創業したのは1970年のこと。それ以前は、パンやアイスクリームを販売する商店として営業していたが、原さんの伯母が当時の喫茶店ブームにあやかり、改装を提案したのがはじまりだった。その頃、周辺にはコーヒーを飲める店が少なかったことから、創業後すぐに繁盛店となった。
当時のメニューは、今も変わらず提供を続けている。中でもフードメニューは、ホテル仕込みの特製カレーをはじめ、オムライスやナポリタンなど洋食店に負けないクオリティで、人気が高い。
ホテルのシェフからレシピを譲り受けた特製カレーは、特注のラードと小麦粉をじっくり炒めたルーがベースになっている。そこに、玉ねぎや大量のリンゴとにんじんのピューレを加え、半日かけて煮込んでいく。でき上がるまでに3日かかるという手間を惜しまない製法を、今も創業当時から変わらずに守り続けているのだ。
実際にいただいてみると、じっくり煮込まれた牛肉はスプーンを入れただけで、ホロッとくずれる。ご飯と一緒に頬張れば、ルーのフルーティーさとスパイシーさ、そしてコクと香ばしさが同時に広がる。この奥深い味のハーモニーは、手間暇かけて作られたからこそ出せるものなのだろう。
この特製カレーは、神田カレーグランプリの決勝戦に3年連続で出場したのを機に『喫茶プペ』の名物となり、カレー目当てに足を運ぶお客さんが増えたそうだ。そんな特製カレーは、開店時間の7時から提供しているというので、“朝カレー”を食べたい方にもおすすめだ。
初代から続くレシピを大切に受け継ぎ、今も変わらない味を提供する2代目店長の原さん。今日も丹念な手仕事で、この街に住む人、働く人々の胃袋を支えている。
『喫茶プペ』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英