基本は土地にゆかりの動物もなか

動物もなかについては、その地で飼育されている人気の動物をモチーフにしたものが多い。たとえば奈良に行けば、鹿の形のもなかを多く目にすることができる。

奈良の鹿をモチーフにした「はくろく」。(鶴屋徳満/2019年)
奈良の鹿をモチーフにした「はくろく」。(鶴屋徳満/2019年)
奈良の鹿をモチーフにした「神鹿物語」。(多口製菓/2020年)
奈良の鹿をモチーフにした「神鹿物語」。(多口製菓/2020年)

一方、生きている動物ではなく、その地にゆかりの動物がモチーフとなることもある。「池にフクロウがたくさんいたから」というのが地名の由来とも言われている池袋では、あちらこちらにフクロウの像が設置されているが、それと同様に「ふくろう最中」も発見することができる。

池袋の「ふくろう最中」。(丸佐東京園/2018年)
池袋の「ふくろう最中」。(丸佐東京園/2018年)

文芸作品に登場する動物が、もなかとなることもある。在原業平の歌「名にし負はば いざこと問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと」が命名の由来となったとされる言問橋近くの言問団子では、この歌に登場する都鳥をモチーフとした「言問最中」が販売されている。島根県雲南市の天満屋では、この地出身の永井隆博士が描いた画賛(がさん)をモチーフとした豚の最中「しっぽもひと役」が売られている。

都鳥をかたどった「言問最中」。(言問団子/2019年)
都鳥をかたどった「言問最中」。(言問団子/2019年)
ネーミングも永井隆博士による「しっぽもひと役」。(天満屋/2018年)
ネーミングも永井隆博士による「しっぽもひと役」。(天満屋/2018年)

キャラクターはわかるが、関係あるのか?

ご当地のキャラクターとなっている動物のもなかとしては、たとえば熊本の「くまモンおやつもなか」や、長野の「アルクマ栗もなか」などが挙げられるだろう。

くまモンおやつもなか。(菓匠久幸堂/2020年)
くまモンおやつもなか。(菓匠久幸堂/2020年)
アルクマ栗もなか。(栗庵風味堂/2018年)
アルクマ栗もなか。(栗庵風味堂/2018年)

豪徳寺の招き猫は“キャラクター”というには歴史が古いが、この招き猫をモチーフとした「招福もなか」も販売されている。一企業のキャラクターをかたどった動物もなかもあり、その代表格は入り口のライオン像をかたどった三越の「雷音最中」(日本橋三越限定)ではないだろうか。

招福もなか。(亀屋/2015年)
招福もなか。(亀屋/2015年)
雷音最中。(日本橋三越内・菓匠花見/2020年)
雷音最中。(日本橋三越内・菓匠花見/2020年)

しかし街を歩いていると、特にその地に関係のなさそうな動物もなかも見受けられる。六義園近くで発見した「こうさぎ最中」は、ウサギの形が何ともかわいらしいが、六義園とウサギとは何か関係があるのだろうか。

こうさぎ最中。(みずの&こうさぎ/2017年)
こうさぎ最中。(みずの&こうさぎ/2017年)

また、王子では「たぬきもなか」が販売されているが、王子といえばキツネの行列が有名なはずである。なぜタヌキになったのだろう。

たぬきもなか。(狸家/2018年)
たぬきもなか。(狸家/2018年)

さながらタヌキの行列のような箱詰めの「たぬきもなか」を眺めながら、しばし考え込んでしまった。

キツネの行列ならぬタヌキの行列。
キツネの行列ならぬタヌキの行列。

魚介類と植物の場合、ほぼすべて食べ物

ここで一つ気が付いたことがある。同じ生き物をかたどったもなかとは言え、それが魚介類の場合、ほぼ全てが「その土地で獲れる海産物」がモチーフになっているということだ。鳥取の「かにと貝最中」、仙台の「くじらもなか」、築地の「まぐろもなか」、府中の「鮎もなか」……。つまり食べられる前提のものを、更にモチーフとしてもなかにしている訳である。ここに魚介類もなかの複層性を見ることができる。

鳥取の「かにと貝最中」・かにもなか。(倉吉舎/2020年)
鳥取の「かにと貝最中」・かにもなか。(倉吉舎/2020年)
鳥取の「かにと貝最中」・貝もなか。(倉吉舎/2020年)
鳥取の「かにと貝最中」・貝もなか。(倉吉舎/2020年)
くじらもなか。(くじらもなか本舗/2018年)
くじらもなか。(くじらもなか本舗/2018年)
まぐろもなか。(さのきや/2020年)
まぐろもなか。(さのきや/2020年)
鮎もなか。(亀田屋/2016年)
鮎もなか。(亀田屋/2016年)

「その土地で収穫される特産物」をモチーフとするもなかは、植物に顕著である。更に植物の場合、その植物自体を餡の材料としているケースがとても多い。たとえば秋田では枝豆をかたどったもなかにずんだ餡を、千葉では落花生をかたどったもなかにピーナッツの甘煮を、奈良では柿をかたどったもなかに柿餡を……といった具合である。

おおだてえだまめモナカ。(山田桂月堂/2019年)
おおだてえだまめモナカ。(山田桂月堂/2019年)
ぴーなっつ最中。(なごみの米屋/2016年)
ぴーなっつ最中。(なごみの米屋/2016年)
柿もなか。(奈良吉野いしい/2019年)
柿もなか。(奈良吉野いしい/2019年)

不可思議なのは、特にバナナが採れるわけでもない青森や秋田で「バナナ最中」が多く販売されていることである。これは、バナナが高価だった時代に、せめてもなかでバナナを再現しようという試みだったのだろうか。

弘前のパナナ最中。(お菓子のヒロヤ/2020年)
弘前のパナナ最中。(お菓子のヒロヤ/2020年)
秋田の煉屋バナナ。(煉屋菓子舗/2019年)
秋田の煉屋バナナ。(煉屋菓子舗/2019年)

東日本大震災とともに消えた甘酸っぱいもなか

こうした「植物もなか」を語る時、ふと思い出すもなかがある。いわき市のスパリゾートハワイアンズで販売されていた「ハワイアンパイナップル最中」だ。前身である常磐ハワイアンセンター開業時から販売されていたというこのもなかは、輪切りにしたパイナップル形の皮に、パイナップル果汁を練りこんだ餡が挟まっていた。

ありし日のパイナップル最中の包装紙。中身を撮り忘れたのが悔やまれる(2009年)
ありし日のパイナップル最中の包装紙。中身を撮り忘れたのが悔やまれる(2009年)

私は2009年、いわきを訪れた際にこの「パイナップル最中」を購入した。食べると、何とも言えぬ懐かしさと甘酸っぱさが感じられ、次に訪れた際も絶対に買おうと思ったものだ。しかしその2年後、東日本大震災が発生し、パイナップル最中は姿を消してしまった。もうあの味を味わうことはできないのだろうか。

パイナップル最中の復活を願うとともに、各地のもなか達も守っていかねばならないという思いに駆られている。

(つづく)

絵・取材・文=オギリマサホ

 

観光客向けに作られた土産物の菓子には、大きく分けて二種類ある。その地の特産品を利用した菓子と、その地の観光名所や名物をかたどった菓子だ。後者の場合、パッケージに観光名所等の写真や絵が印刷されているのみで、中身は普通のクッキーやまんじゅうであることも多い。しかし、菓子本体が名物の形をしていることもあり、それは大抵「もなか」ではないだろうか。
街を歩いていると、ふと足を止めて見入ってしまうものがある。たとえば浅草にある中華料理店『馬賊』の店先で、ビヨンビヨンと手打ち麺が伸ばされていく様子。川崎大師の参道で『タンタカタンタン』という歯切れのよいリズムに乗せて、飴が切られていく様子(川崎大師の場合、録音された音声に合わせて手だけを動かす飴切りロボットもいて、こちらも興味深いものではある)。結局私たちは、商品ができあがっていく過程を見るのが好きなのだ。高速道路のサービスエリアにある、ドリップコーヒーを注文すると「コーヒールンバ」のメロディに合わせて製造過程をモニターで見せてくれる自動販売機も、こうした心理に応えるために設置されたものだろう。そして目下のところ私がもっとも気になっているのは、八王子で見つけた「都まんじゅう」である。
まんじゅうの表面に焼き印を付ける仕事をしたいと思っていた。真っ白に蒸しあがった薯蕷(じょうよ)まんじゅうの表面にジュ―ッと焼きごてを押し当て、くっきりと印を刻む。その工程がたまらなく魅力的に思えたのだ。言うまでもなく、まんじゅうに焼き印を付けるだけの仕事などどこを探してもなく、また家庭で個人用焼きごてを用意するというのも非現実的であるため、断念して今に至る。 
私には食べたことのないものがあった。「すあま」。関東以外の方には馴染みのない食品であろうが、和菓子の一種である。そもそも私は和菓子が好きだ。それなのに何故すあまに手が伸びなかったかというと、「存在意義がよくわからない」からである。