もなか。もち米粉からできた薄い皮に餡を挟んだこの菓子は、コンビニやスーパーでも手軽に買うことのできる和菓子の代表格だ。皮(もなか種)の部分の形を変えることにより、中身の餡は同じでもイメージはがらりと変わる。もなか種製造を専門とする業者に依頼すれば、オリジナルの形をしたもなかを作ることができる。もなかとは、まさに変幻自在な菓子なのだ。
というわけで、街を歩いていると、さまざまな形をしたもなかを発見することができる。これをいくつかの種類に分類して考察してみたい。
城あるところに「もなか」あり!
まず歴史的な名所を模したもの。その代表格は城である。全国の城あるところにもなかあり、と言っても過言ではなく、中には八王子のように、城が現存していなくても城もなかを販売しているところもある(御菓子司千松園「八王子城もなか」)。
姫路城近くでは、「五層もなか」(なかの株式会社)が販売されており、その造形は5層7階の大天守が忠実に再現されている。
特に県立姫路商業高校とのコラボで期間限定発売されている「城白モナカ」は、真っ白いモナカ皮と白餡でできており、「白鷺城」と呼ばれる姫路城のイメージそのままである。
「城もなか」には餡と愛が詰まっている
姫路城と同じく天守が国宝指定されている彦根城でも、付近で「彦根城もなか」(木村菓子舗)が販売されている。こちらも破風の造形や屋根の鯱など、彦根城天守の特徴をとらえた造形である。
日本一の高さを誇る石垣を擁し、「石垣の名城」とも言われる丸亀城近くで販売される「丸亀お城もなか」(寳月堂)は、やはり石垣が強調されたデザインとなっている。
ただ単に「城の形をしている」のではなく、それぞれの城の特徴を強調しているところに、地元の人々の城に対する愛を見てとることができるのだ。また城もなかは、面積が広いデザインのため、中に餡が詰めやすいといった菓子的な利点もある。近年では日本各地の城が「日本100名城」として注目されているが、ついでに「日本100名城もなか」も選出してみたいところだ。
痛いところを食べるのも大変な「地蔵もなか」
次に、仏像を模したもなかを見てみたい。とげぬき地蔵の参詣客で賑わう巣鴨・高岩寺の門前にある松月堂では、茶(つぶし餡)・ピンク(胡麻餡)・緑(抹茶餡)の三色の「地蔵最中」が販売されている。高岩寺の本尊である地蔵菩薩は秘仏であるため拝観することができないのだが、もなかであればいつでもお目にかかれるというわけだ。「地蔵最中」には「お体の痛いところからお召し上がり下さい」という説明が付けられているが、痛い部位によっては食べるのが大変そうでもある。
人間や動物を象った菓子でよく言われるのが、「どこから食べてよいのか迷う」「食べるのがかわいそうな気がする」といったことだ。「悪い部分を食べて治す、それが菩薩の慈悲である」という仏もなかは、ある意味発想の大転換でもある。
こうした効能を謳っているもなかの一つに、高崎・観音屋の「観音もなか」がある。慈眼院の「高崎白衣大観音」にちなんで作られた茶(小豆餡)・白(ゴマ餡)二種類の観音もなかは、「自分の治したいところから食べ、観音様からご慈悲をいただく」と説明されている。高さ41.8mの大観音に似ず、こけしのようなかわいらしい造形であるが、そういわれると御利益がありそうな気もする。
立たせて出したい「大船観音もなか」
一方、実際の仏像に似せたもなかもある。半身像で知られる大船観音を模した「大船観音最中」(龍月)は、実物とよく似た造形の半身像であり、立たせることもできる。お客様にお茶菓子として出す折には、ぜひ立たせた状態で供したいものだ。
もなかという菓子自体が歴史のある和菓子のため(現在のような形で食されるようになったのは江戸時代とも言われる)、歴史的建造物や仏像とは相性が良いように思われる。しかし、もなかの可能性はそれだけにとどまらない。次回は斬新なモチーフのもなかについて見ていきたい。(つづく)
絵・取材・文=オギリマサホ