秋山郷
独特な生活様式や文化が息づく秘境
平家の落人伝説が残る秋山郷は、信濃川の支流である中津川上流に点在する新潟県津南町7集落と長野県栄村5集落の総称。「日本の秘境100 選」の一つで、苗場山(なえばさん)と鳥甲山(とりかぶとやま)に挟まれた山間(やまあい)にある。交通の便が悪い豪雪地帯で独特の生活習慣が育まれた。厳しい自然とともに生きてきた人々の暮らしの知恵と豊かな人情、温泉が大きな魅力。新潟側の観光は結東(けっとう)集落が中心で、片道1~2時間の手軽なトレッキングコースが4つある。
秋山郷結東温泉かたくりの宿
学び舎を改築した郷愁の秘境宿
津南の廃校は小・中学校計30校ほど。多くが忘れられていくなか、1992年に108年の歴史を閉じた翌年、宿として再生した結東小学校は幸せ者。教室は7つの和室に、校長室は浴室に活用されている。新潟秋山郷で中心的な集落にあり秋山郷歩きのベースに最適。大地の芸術祭(次回は2021 年)では拠点の一つになる。プール跡に立つ「Melting Wall」(本間純作)は2003 年の芸術祭参加作品。
山の展望台(前倉トド展望台)
標高1000mから眺める名山と秋山郷の家々
かつて秋山郷と町場の人々が物々交換をした場所に2015年にできた展望台。鯨の背のような山容の苗場山とⅤ字形の深い中津川渓谷、そこに抱かれる集落が一望でき、晴れていれば遠く八海山もみることができる。自家用車でしか行けず、しかも通行止め区間があり(2019年8 月上旬現在)前倉地区から直接アクセスできないため時間がかかる。
●見学自由。前倉
小松原湿原
尾瀬もかくや、の池塘トレッキング
標高1350 ~ 1600 mの間で3 段に分かれた地形に、たくさんの池塘(ちとう)が点在する。この湿原の成長過程は、高層湿原に分類されるという。ワタスゲなど高山湿原植物の宝庫で、木道が設置され秋はベニサラサドウダンの花が咲く。苗場山にアプローチするマイナーコースの中間点でもある。
●大田新田ルート所要約3 時間40 分、見倉ルート約5 時間
苗場山麓ジオパーク
火山と川がつくった自然と文化を体感
日本有数の河岸段丘や柱状節理など台地の躍動を体感できるジオパーク。津南町・長野県栄村全域にジオサイトが点在する。ジオパークの拠点の一つが『農と縄文の体験実習館 なじょもん』。縄文遺跡が多い津南町ならではの施設で、豊かな湧水や動植物の恩恵を受け段丘に暮らしてきた縄文時代の人々の生活が体感できる。
石落し
東京タワーとほぼ同じ高さの柱状節理の岩壁
中津川左岸を覆う柱状節理の発達した岩屏風。約30 万年前に噴出した苗場山の溶岩で、中津川に浸食されて現在の峡谷になった。雪どけの頃、雪崩とともに岩が音を立てて落ちるため「石落し」の名があるとか。「日本のグランドキャニオン」ともいわれる絶景は、ジオパーク認定にあわせて5年前にできた対岸の公園から一望できる。
●見学自由。津南見玉公園
雪国‼
秋山郷が秘郷なのも豪雪地帯だからこそ
苗場山麓ジオパークを特徴づける要因の一つが、日本有数の豪雪地帯であること。無雪期の観光でもそれは実感できる。道路の消雪パイプや道端のポール、ヒレ付き電線。家をみれば二重扉の玄関、保温材を巻いた水道管、スノーダンプやスコップ。関東人には想像のつかない雪国の苦労を垣間見る。ちなみにJR の日本最高積雪地点は隣の栄村にある。
川の展望台(河岸段丘と信濃川の展望台)
数十万年かけてつくられた日本最大級の河岸段丘
ジオパークを観察できる4つの展望台の一つ。新旧9 〜12段の河岸段丘が一望でき階段状の地形がよくわかる。河岸段丘は地球規模の気候変動を背景に、大地の隆起と中津川や信濃川のはたらきでつくられた。段丘面には、河原の砂や礫(れき)の層と、その上に飛来した火山灰が降り積もっている。ここでいちばん古い段丘は40 数万年前の形成とされ、この年代の段丘が今も残っているのは日本では貴重とか。
●見学自由。上郷上田
山伏山の風穴
冷気が噴き出す釣鐘状の山
約220 万年前から150 万年前の火山活動で造られた山伏山は、柱状節理が見られる安山岩の山。裾野に風穴(ふうけつ)が点在し、かつて冷気を利用した養蚕卵保管所が設けられた。その遺構の石組みの隙間からは今も冷気が噴き出している。風穴近くまで車で行けるが、麓のキャンプ場から歩いても標高903 mの山頂まで30 分たらず。
●見学自由。大字上郷寺石
今井城跡
状態良好!河岸段丘を活用したジオな城
中津川左岸、信濃川を一望する標高450 mの段丘面の突端に築かれた立派な山城の跡。平安末期、木曽義仲に仕えた今井四郎兼平が最初に築いたといわれるが定かではない。現在見られる遺構は戦国末期、16 世紀中頃のもので、堀、本丸(主郭)、二の丸(副郭)の跡がはっきり残る。よく視認できないが畝形阻塞(そさい)も特徴的。
●見学自由。大字上郷大井平字城
とんかつ つまり
「妻有ポーク」のサクサクとんかつ
地元の有名ブランド豚「妻有ポーク」や新鮮な野菜、魚沼産コシヒカリなど地の食材にこだわる。厚めの衣はサクサクで、しっとりときめの細かい食感。ロースを120g使うとんかつ定食は、熟成肉のおいしさを引き出した絶品。
龍ケ窪
水面の透明度に驚く「日本名水百選」
中津川左岸の段丘面「沖ノ原台地」と、その上に広がる苗場山の溶岩からなる台地の境に湧水が点在している。龍ケ窪は湧水量が毎分18 ~ 30tと豊富で、水年代は約40 年。生活用水や信仰の対象として大切にされてきた。ブナやスギに覆われた佇まいは神秘的で龍神伝説が残る。近くには縄文遺跡が多く、湧水とムラの関係も興味深い。
津南の菓子処 好月
ジオサイトにちなんだご当地スイーツ
昭和10年(1935)創業の老舗がつくる津南ならではのスイーツ。黄身あんとチョコレートを包んで焼きあげジオパークのロゴを焼印した「ジオこがし」、柱状節理をイメージしたソフトなバームクーヘン「柱状節理」、「段丘もなか」の3種類。半世紀以上の歴史がある登録銘菓「苗場」95円もある。
見玉不動尊
平清盛の家臣が開いたという古刹
金玉山正宝院(きんぎょくさんしょうほういん)という、読みに注意したい天台寺院。秋山郷の入り口らしく、平家の守護神である不動明王を本尊に祀り、眼病に霊験あらたかな「見玉不動尊」の名で知られる。清涼感たっぷりの清流は、ファミマのミネラルウォーターの採水元でもある。門前にはメグスリノキなど特産が買えるみやげ物店も。
越後田中温泉 しなの荘
県境を越えて千曲川が信濃川に名前を変えて最初の河畔の宿。館内すべてが畳敷きで、12 の客室のなかにはヒノキ風呂付きの特別室や自炊できるコンドミニアムもある。泉質は「美肌の湯」といわれる弱アルカリ性単純泉。ぬるめで体の芯から温まる。
たからや食堂
半世紀変わらぬロングセラーかつ丼
名物大名かつ丼。さあ食べようと蓋を開けると漬物とパイナップルが現れる。意表を突かれつつ副菜の中蓋を外す。件のかつ丼は、焼き鳥のタレのような甘じょっぱい濃いめダレが衣に染みて柔らか。これにシャキシャキ感を残すタマネギがアクセントを添える。トロッと卵でとじないのは、ふっくらな魚沼産コシヒカリを楽しめるようにとの心配り。
足滝駅
JR飯山線で新潟県内最西のプチ秘境駅
津南町は信濃川や中津川など豊富な水資源を生かした水力発電地帯。足滝駅の前身は飯山鉄道足滝臨時停車場。かつて東洋一とうたわれた「東京電燈信濃川発電所」の建設工事にともない昭和2 年(1927)に開業、飯山線が国有化された際に廃止されたが地元の要望で1960 年に復活した。集落は近いが駅前通りは急坂の歩道2 本のみ。
森林セラピー基地「樽田の森」
秘境のブナ林で心と身体に休息を
隣の十日町市松之山にある有名な美人林(びじんばやし)をはじめ、ブナの美林が多いエリア。津南では「樽田の森」が森林セラピーで注目を集めている。じょんのびコース、旧道~尾根コース、周遊コースがあり所要30 ~ 45 分。さまざまな体験メニューやセラピーガイドツアーが用意されている。
●入園自由。上郷上田 ☎ 025・765・3115(町地域振興課)
見倉のオオトチ
巨木林にあってひときわ存在感を放つトチノキ
「森の巨人たち百選」に全国の巨木のなかから選ばれた新潟県最大級のトチノキ。見倉トンネル北側の駐車場から小松原湿原の登山道に入り、20分ちょっと歩くと出合える。幹周り8.5m、直径2.7 m、樹高25 m、推定樹齢500~800 年もの堂々とした巨木。金城山、小松原湿原を経て苗場山に通じる道は荒れているので注意のこと。
●見学自由。秋成字見倉
農家民宿もりあおがえる
オーナーの人柄に触れゆったり自然と共生体験
気兼ねなく過ごせる田舎の親戚の家といった体の古民家風の宿。よい雰囲気のオーナー夫妻と一緒に吹き抜けの共用スペースでとる食事は、自家製の野菜や山菜など地の食材ばかりを使った手料理。風呂は家庭用のほか、モリアオガエルが棲む庭の池端には五右衛門風呂もある。四季折々の山村風景、温かみある団欒、ヤギや鶏との戯れと、豊かな田舎暮らしを体験。
ぽぱい
がっつり大盛り系家族経営35年の店
カツ煮ラーメンは、ラーメンにカツを入れてほしいという声を具体化したメニュー。味の染み込んだ卵とじのカツ煮は「妻有ポーク」を使用。これに味噌スープがよく合う。普通盛りでも器が大きく量が多めだが、麺を完食してご飯を追加する人もいるとか。ランチタイムは食事を注文すればセルフで味噌汁やコーヒーなどが自由に飲める。焼き肉や白身魚が味わえる定番のぽぱい重900円。
大割野熊野三社秋季祭礼
夏の終わりを彩る粋でいなせな女神輿
町役場がある津南町の中心、大割野(おおわりの)の地区と陣場下地区の祭り。毎年8 月26・27日の2日間開催され、26 日は子供神輿・男神輿、27 日は女神輿が集落内を練り歩き花を添える。男神輿では、地区の人たちが神輿に水をかけ、男衆をあおる。出店でにぎわい、夜には花火も打ち上がる。
●見学自由。女神輿は例年8月27 日14 :30 ~ 18 :30 ☎ 025・765・5585(津南町観光協会)
取材・文・撮影=飯田則夫
『散歩の達人』2019年9月号より