買って楽しい、食べてうれしい工場直売!『三祐製菓 工場直売所』
戦前に池袋で創業し2004年に移転した菓子メーカーでは、地元へのサービスで2011年から直売所を開設。大きなオーブンで焼き上げる米粉100%のバウムクーヘン、国産リンゴを使った戦前生まれのリンゴジャムサンドクッキーなどが卸値価格で購入できる。水曜はアウトレットセール、金曜は朝焼きマドレーヌ販売、第2・4水は切り落としデーとお得なイベント目白押し。
DIYでコツコツと完成。魅惑のジャズ空間『ジャズ喫茶ALTEC(アルテック)』
モダンジャズ好きでオーディオ好きな木檜(こぐれ)貞夫さんが念願かなえて2019年に開店。自ら地道に内装を手掛けたというウッディーな店内に鎮座するのは、uesugiとMcIntoshの真空管アンプにつないだALTECのスピーカーシステム「A5」。約4000枚あるLPをダイナミックに響かせてくれる。リクエストも可能。おすすめは?「選べないなぁ。ビブラフォン入りは好きですね」。
愛機と二人三脚で育む至福のコーヒー豆『maruca coffee』
焙煎(ばいせん)への情熱を貫くこと15年、加藤昌江さんが2016年に始めたコーヒー豆店。相棒のフジローヤルの焙煎機を動かし、15種類ほどのスペシャルティーコーヒーを日々焙煎している。「柔らかい飲み口を大切に、もう一杯飲みたくなるコーヒーを目指しています」。店内飲み用に2席あり。ホット480円~。
じっくり探検してグッとくるお宝を発掘!『ロビンアウトドアベース』
2026年で開店4年目になるアウトドア用品専門店。雑多な店内をじっくり探検すればランタンやシェラカップ、トングやイス、バッグや衣類など、普段使いもしたい逸品が次々と。新商品は近所の中村銅器製作所とコラボした銅製箸置きだ。「ここだから見つかる、新しい出合いを提供したい」と店主の山田昇平さん。
場所を変えて守られる56年目の一杯『西新井らーめん 駅前店』
1969年から2026年3月末まで西新井駅ホームで営業していたラーメンスタンド。その味が駅前路地の2号店で、ステーションラーメン620円として守られている。丸鶏で取った出汁に香味野菜を使ったごくシンプルな醤油味。自家製メンマとチャーシュー、保木間の製麺所『享屋』から仕入れる麺も変わらない。「これからは座ってゆっくり味わえます」と店主の岩永岳大(たけひろ)さん。チャーハンも人気だ。
いろんな場面で使いたいブラシあれこれ『ブラシの平野』(平野刷毛製作所)
昭和17年(1942)に西綾瀬でペンキ刷毛の製造から始まったブラシ専門店。取り扱うのは、自社工房の職人が手掛ける手植えの洋服ブラシ、ヘア用、掃除用など多種多彩な国産ブラシを約100種類。中には足指の間を洗うユニークなものも。全国百貨店の催事販売がメインだが、移転した2018年からショールームもオープン。購入金額1万1000円以上でブラシのガチャガチャもできるぞ。
こだわりのベーカリーで、カフェで、グロサリー!?『パンいつぞ』
地元っ子の柳沼沙織さんが2023年から営むパン店。噛(か)めば噛むほど滋味深い20~30種のパンに使われるのは、有機古代小麦もライ麦も全粒粉小麦もオニグルミも新潟県産だ。「結婚して新潟でパン屋になりましたが、東京で新潟の素材をPRしたくて二拠点生活を決めました」。店内には新潟の地酒や米、塩なども並ぶ。飲み物やスイーツもありイートイン可。
いい波も来る、地に足付いた暮らしの街
このエリア、西から攻めようと舎人ライナーの西新井大師西駅で下車。「西」が重なる駅名は声に出すと語呂がよくてクセになる。そんな駅の周辺は平穏な住宅地、と思えば、何やら行列が。『三祐製菓』でこの日はバウムクーヘン切り落としの直売だ。気づいてラッキー!「足立区は製菓業者が多いんです。交通の便がよくて、広い土地と市場などの流通拠点があったから。起業する会社も多くて若い世代も元気。東京土産は結構、足立区で作られているんですよ」と、代表の矢原政和さん。東京の菓子は足立区が支えている!?
また、「西新井はオシャレでないけど、近頃、同世代の人たちが周囲でお店を出しているんです。いい波来てますよ!」と教えてくれたのは『パンいつぞ』の柳沼沙織さん。その波、目が離せません。
荘厳なランドマーク、西新井大師でお参りをしたら参道から環七通りを渡る。西新井大師道では、思いがけず漏れ聴こえてきた4ビート!「ジャズが結びつかない街ですよね。昔ジャズ喫茶巡りした人や一時ジャズから離れた人が来てくれるんです」と『ジャズ喫茶ALTEC』の木檜貞夫さん。店内ではジャズファンたちが目を輝かせて、レコードを手に取り語り合う。
すべてがほどよい、足立区のど真ん中
西新井駅では、西口の東武ストアが閉じ駅ビルの改装工事中。駅前広場も整備予定で、梅島駅方面の梅田8丁目には図書館や子育てサロンが集まる複合施設が2年後(2028年)に開設予定とか。姿を変えるものがあるのは街の常。けれど、『西新井らーめん』のステーションラーメンのように継承され、ささやかに残るものは愛おしい。
梅島の『ブラシの平野』のブラシもそう。髪には猪毛や豚毛、服には馬毛などと用途に適した天然毛を多用し、伝統の製法で作られる。「ブラシは道具。道具は手にしないとよさが伝わらないので対面販売が大事なんです」と3代目の平野聡士さん。そういや、『ロビンアウトドアベース』で山田昇平さんも言っていたっけ。「今では何でもワンクリックで買える時代。でも、昔から、“人、モノ、金”って商売の順番があるように、人と話して店で物を買うことを楽しんでもらいたい」。対面販売を大切にする古きよき商人気質も息づいているのだ。
「ほどよい街ですね。ほどよくコンパクト、がっつり下町ではないほどよい人との距離感。刺激はないけれど、その分街は荒れずに、穏やか。年を重ねるほどに、住みやすいなあってしみじみ思います」。散歩の締めに立ち寄った『marucacoffee』で甘い口当たりの一杯を飲みつつ、加藤昌江さんの言葉にうなずく。
地に足付いたのどかな暮らしの街。目立たなくてもこここそが真の“センター”なのかもしれない。私はこっそりそう思っている。
取材・文=下里康子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年9月号より







