手塚理美
てづかさとみ/東京出身の俳優。小学生のころからジュニアモデルとして活躍し、映画、舞台、ドラマと幅広く活動。趣味は散歩。Instagram:tezuka_satomi
穏やかな4月の木曜13時、JR中央線高円寺駅の改札で待ち合わせ。
—— こんにちは。いつもより遅いスタートになってしまってすみません。手塚さんのガチロケハンの掟、「おにぎりでスタートしてビールで締める」というやつですが、私にとってはもはや呪縛に近いです(涙)。とにかく、手塚さんが狙っているおにぎり屋さんのおにぎりが、売り切れていないか心配で。
手塚 なければないで、良き良きです。
—— さっそく、純情商店街へ参りましょう。ところで、手塚さんは高円寺にいらしたことはあるんですか?
手塚 新宿から西側、中央線沿線にはあまりご縁がないんです。私が小学校1年生の頃……幼稚園だったかもしれないけど、おばが高円寺に住んでいて、阿波踊りに来たことがあって。人がいっぱいいて、わーっ、混んでるーっていう記憶があるくらい。でも事前にリサーチしてみたら、行ってみたい場所をたくさん見つけてしまいました。
駅から北に延びるのが高円寺純情商店街。ねじめ正一の小説が名前の由来とされる、庶民派の商店街だ。『山形県飯豊町アンテナショップ IIDE』で、「紀州南高梅」のおにぎりを最後の1個で買うことができた。その先、庚申通り商店街にある『onigiri momofuku』にはイートインスペースがあったので、その場で握りたて、ほかほかの「うめ」をいただくことに。
手塚 わー、大きい! 梅も酸っぱくて私好みです。
momofuku あの〜、手塚さん、ですよね? Instagramもフォローしていただいて、ありがとうございます。
手塚 気になっていたので、実際に来られてよかったです。おにぎり、おいしいです。
—— 手塚さん、こちらのおにぎりを握る道具、そしてこの形状、何かお気づきになりませんか?
手塚 もしかして、『ぼんご』さん?
—— 正解です。momofukuさんは、大塚の有名店『ぼんご』で修業をされたそうです。
手塚 やっぱり。最初に見たときから、なんとなく分かっていました。
—— 本当ですか? おにぎり偏差値、確実に上がってきていますね。
馬橋公園まで歩く。馬橋公園は、大日本帝国陸軍の陸軍気象部、後の気象研究所の跡地につくられた防災空地で、グラウンドや錦鯉のいる池もある大きな公園だ。『IIDE』のおにぎりをいただくには、ぴったりの場所だった。
毎日店内で精米し炊き上げているという高級ブランド米「つや姫」のおにぎりに舌鼓を打ったあとは、和菓子店『すずくら』で追いおにぎり(梅は売り切れで、しゃけ)を買ったり、路地を出たり入ったりしながら日本唯一の気象神社へ。気象神社は、昭和19年(1944)に陸軍気象部の構内に造営された神社。戦後の神道指令で撤去されるはずだったが、調査漏れにより残存し、高円寺氷川神社に遷座した。
手塚 気象神社さんの絵馬は下駄なのね。かわいい。
—— 「明日天気になーれ」って蹴るやつですかね。
手塚 懐かしいわね。私も運動靴をポーンって蹴っていました。6月1日は気象記念日ですって。初めて知りました。
—— えっと、時間はまだ16時です。庚申通り商店街にある『バクダン』さんが開くのが16時30分なので、もう少し歩いてみましょうか。
手塚 雑貨屋さんに古本屋さん、古着屋さんもたくさん。高円寺は歩きがいがありますね。駅まわりには八百屋さんがあって、お肉屋さんがあって。ほかの街ではなくなりつつあるようなお店が、まだまだ元気。しかもどこもお安いし、お客さまもいっぱい。家が近ければ、買って帰りたい。
—— 手塚さんのガチロケハンには毎回、飲み屋さんが開くのを待つ空き時間がありますよね。完全にあてもなく、エリアをぐるぐる周回するだけという。
手塚 ほんと、どの街でも飲み屋さんはもう少し早く開けてほしいと思っているの(笑)。でも、この空き時間がいいじゃない。気になるお店に出合うこともできちゃうし。さっそくだけど、そこの『貝せん』さん、貝の専門店ですって。私の勘では、いいお店な気がします。どうする~?
—— でも、まだ開いていません。
手塚 あとでまた来てみましょうよ。
—— そうですね。過去のガチロケハンでも、入っておけばよかったなーと後悔しているお店がたくさんあります。ビビッと来たお店は、なるべく入っておきますか。
手塚 リサーチだけでなく、歩いて自分の目で見てみないと分からないのよね。感覚って大事じゃない。当日の自分の気分もあるし。
大衆酒場『バクダン』では、つまみは春野菜の浅漬けとポテトサラダ。長居したくなる居心地のいいお店だが、早めに店を出て、同じく貝専門店でリサーチしてリストにあげていた『焼貝あぶさん』へ。こちらでは帆立の磯辺焼と長いもの天ぷら。
—— 手塚さん、もう外は真っ暗ですよ。
手塚 さあ、いよいよ! どの飲み屋さんも開いているわよ!
—— その前に、すみません。私、お手洗いに行きたいです。『焼貝あぶさん』は路地の奥の共同トイレだったので、入りそびれてしまって。さっきの『貝せん』にはお手洗い、ありますかね? おいしい貝をいただくついでに……すみません、2名なんですが入れますか? 予約はしていません。え、次は20時までいっぱい?……て、手塚さん! 『貝せん』さんは満席で入店できませんでした!!
手塚 えー! めっちゃ悔しい。さっき予約しちゃえばよかった。
—— はい、次はガード下の「高円寺マシタ」に行きましょう。肌寒くなってきたし、私にはあまり時間が残されていないので、急ぎたいです。
「高円寺マシタ」は、高架下にある旧「高円寺ストリート2番街」の跡地を再開発し、2023年に開業した複合商業施設だ。かつては夜にしか営業しない店が中心だったため昼間はシャッター街のような状態だったが、朝から営業するカフェやベーカリーを誘致し、昼間にも人が流れるようにした。
手塚 ここが「高円寺マシタ」でいいのかしら。
—— 角のケンタッキーフライドチキンは前からありますよね。この辺りは再開発されているのに、再開発っぽくないというか、高円寺という街になじんでいるように見えますね。それはともかく、トイレ、トイレと……。
構成=H岩美香(『散歩の達人』編集部)
『散歩の達人』2026年7月号より







