和菓子の伝統とオリジナリティを兼ね備えた地元に愛される味
お参りを終え、豪徳寺商店街に向かう途中で通りがかった『まほろ堂 蒼月』。白を貴重とした外観が清々しく、街の景色まで明るく見える。店の前には、ガタンゴトンと東急世田谷線の電車が走り、ローカルな雰囲気も。のどかな空気に包まれ、もうちょっとここでのんびりしていきたいと思った。
店に入り、ショーケースを見て一気に心が華やいだ。大福、餅などの朝生菓子や、色とりどりの上生菓子がずらりと並んでいる。カフェスペースもあり、抹茶と一緒にお菓子を味わえるようだ。「休日こそ豪徳寺さんや、世田谷八幡宮さんにお参りに来たという方が増えますが、基本的には地元のお客さんが多いです」と、店主の山岸史門さん。
名物のまねき猫どらは、豪徳寺の招き猫をモチーフにしたもの。どらやきの皮に招き猫の焼き印が押されていて、その姿につい口元がほころぶ。「青豆の塩味が絶妙」だという青豆大福も人気。
「地元のお客さんはそれぞれお気に入りのお菓子があるようで、芋ようかん、わらび餅なんかもリピートしてくださる方がいらっしゃいます」
ちなみに道明寺といえば、よく知られるのはピンク色のさくら餅。
「でも、せっかく通年で出すなら時季に合わせてテーマを考えたいと思いました」と、山岸さんは月ごとに装いを変える。訪れたのは6月だったので、テーマはあじさい。ショーケースをのぞくと、あじさい餅が淡い色合いの花を咲かせていた。
和菓子らしさの中に、突き詰められたオリジナリティがほどよく垣間見える。「奇をてらう方向には行かない」ようにしているそうで、しっかり伝統を感じられる。それでいて、独自の工夫や遊び心も見え隠れし、親しみがじんわり。「若い人たちや、幅広いお客さんにもっと和菓子のよさを知ってもらいたいです」と言い、にっこり微笑む。
まねき猫どらで開運招福! バター香るきつね色の皮と滋味深い潰しあんにほっこり
まねき猫どらを手に取ると、小ぶりなわりにしっかりと重みがある。パッケージから出すと焼き印が現れ、食べるのがもったいないような気持ちに。右手を耳より低い高さに上げる仕草は、身近な日常の幸福を招くとされている。頬張ると、きつね色に焼けた皮からほんのりバターが香り、ホッと幸せに包まれる。
あんこは、あえて粒の輪郭を残した潰しあん。北海道産のエリモショウズを使い、口溶けがよくなるようしっとり炊き上げている。頬張ると、あっさりとした甘さと素朴な滋味が漂う。食べやすくもあり、老若男女に喜ばれる味わいだ。
お菓子を手土産にする場合、いくつか選んで箱に入れてもらうのがいい。まねき猫どらや最中、芋ようかんが定番らしい。贈り物の相手を思い浮かべながら、ショーケースとにらめっこするひととき。包装紙のイラストがかわいいので、いっそ自分用に見繕って詰めてもらうのはどうだろう。
竹皮で包んだわらび餅も人気の手土産。少量のパック入りは自分用にちょうどいい。食べる直前に冷蔵庫に入れ、ちょっとだけ冷やして食べたい。暑い夏に、冷たいお茶と一緒に味えば涼しい気分になれるはず。
和菓子とお抹茶を店内で味わい、幸せも倍増
店内で食べていく場合、お菓子はうつわに乗せて提供してくれる。席に座って到着を待つ間もわくわくが止まらない。持ち帰ってから食べるより、作りたてに近い状態で味わえるのもうれしい。お抹茶は注文後に京都「小山園」のお抹茶を使用し、一杯ずつていねいに入れてくれる。
わらび餅は柔らかく、なおかつ跳ね返すような弾力が食べ応えを感じさせてくれる。コクのある甘みが特徴の沖縄県産黒糖が使われ、まるで黒蜜を閉じ込めたような存在感。わらび餅とひと口に言っても店によっていろいろで、口溶けを重視して繊細さを前面に出す店もあれば、「すぐ溶けて消えてしまうのはさみしい。餅って言うくらいだから、コシが欲しいなと思いました」と山岸さん。表面を覆う京都の焦がしきなこが香ばしく、後から大豆のうまみが舞う。
作りたてに近い状態の上生菓子は、よりキメが細かく舌触りも滑らか。白あんをベースにした練り切りには求肥がつなぎとして使われ、口に入れた時のふっくらした食感が心地いい。題材として花鳥風月や年中行事、古典文学の一節を取り上げ、美しく季節を表現。例えば「宵蛍」というのは夏の季語らしく、日が暮れて間もない宵の口にポッと小さく光る蛍を指しているのだとか。
窓の外をゆっくりと電車が通り過ぎていく。
「池尻や世田谷線の沿線で場所を探して、ここに店を出すことになりました。自分は世田谷出身で、高校時代はこの辺りが通学路でした」
抹茶のお椀を持ち上げ最後のひと口を飲み干すと、キレのいい甘みが口の中に広がる。後味としてかすかに残る苦味が、心を落ち着かせてくれた。
健やかな気持ちで店を出ると、気持ちいい風が吹いていた。このあとは、たくさんの人でにぎわう豪徳寺商店街を歩いてみる予定だ。手提げ袋に入っている手土産用のわらび餅が見えるたび、舌があの味を思い出してにやけてしまう。甘いお菓子の効果はお参りの御利益に匹敵するか、もしくはそれを上回る。
取材・文・撮影=信藤舞子






