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旅の手帖 2026年7月号
旅の手帖 2026年7月号
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大河が育んだ流麗な麺と発酵文化

本竜野駅から歩いて、龍野橋を渡る。眼下には、瀬に白波を立てる揖保川が見えた。

むかしから揖保川下流域は肥沃な農地で、そうめんに必要な小麦の栽培が盛ん。原料となる塩を近くの赤穂(あこう)から入手できたことや龍野藩の奨励などが相まって、たつの市を中心に西播磨地区でつくられる「揖保乃糸」は、手延べそうめんの生産量日本一に!

「兵庫県手延素麺協同組合に加盟する約380軒で生産しているのが『揖保乃糸』。検査指導員が生産者を回り、厳しい検査に合格したものだけが揖保乃糸として認定されます」と『揖保乃糸資料館 そうめんの里』の藤木裕子さん。

揖保乃糸は、24本もの麺帯(生地)をよじっては延ばす工程が繰り返される。そうすることで、しなやかなコシが生まれるのだ。

龍野橋から鶏籠山(けいろうざん)と揖保川を望む。
龍野橋から鶏籠山(けいろうざん)と揖保川を望む。
『揖保乃糸資料館 そうめんの里』の近くに鎮座する大神(おおみわ)神社。愛称は素麺神社で、むかしは例祭でそうめんの掛け巻き競技などが行われていた。
『揖保乃糸資料館 そうめんの里』の近くに鎮座する大神(おおみわ)神社。愛称は素麺神社で、むかしは例祭でそうめんの掛け巻き競技などが行われていた。

城下町の西側にある『すくね茶屋』で茹でたて・締めたての揖保乃糸をすすると、その食感に驚愕。1㎜にも満たない細さなのに、1本1本をしっかり感じられた。

龍野橋から5分ほど歩いた『パスタと気まぐれ料理 いちわ』では、揖保乃糸の手延べパスタを味わえる。店長の藤原良一さんいわく「龍野は古くからの商店と、移住者による新しい店が違和感なく溶け込んでいるのがいいところ!」。

龍野城の隅櫓(すみやぐら)。
龍野城の隅櫓(すみやぐら)。
懐かしい老舗和菓子店などが並ぶ龍野の下川原地区。
懐かしい老舗和菓子店などが並ぶ龍野の下川原地区。
甘酒や醤油のアイスを重ねた『クラテラスたつの』のベリーショコラパフェ990円(写真=上吉川祐一)。
甘酒や醤油のアイスを重ねた『クラテラスたつの』のベリーショコラパフェ990円(写真=上吉川祐一)。

移住者の佐久間祐一さんは、2024年にカレーの店・『温(おん)』を開業。

「義父は、たつのを重伝建にしたいと奔走した人でした。その遺志を継いで、町の人たちがコミュニケーションを取れるような店を作りたかったんです」

築120年以上の銭湯を改装し、日替わりカレーを提供する『温』。この日のジャガイモとチキンのカレー1300円は辛さ控えめで地元産野菜がいっぱい。
築120年以上の銭湯を改装し、日替わりカレーを提供する『温』。この日のジャガイモとチキンのカレー1300円は辛さ控えめで地元産野菜がいっぱい。
『温』の佐久間祐一さん。銭湯を改装したお店なので湯船や木製ロッカーが残っています。
『温』の佐久間祐一さん。銭湯を改装したお店なので湯船や木製ロッカーが残っています。

たつのの発酵文化と、うすくち醤油発祥の地ということを、体験や料理教室を通じて伝えたい。その想いで『発酵LabCoo(ラボクー)』を始めたのが松下裕昭さん・美幸さん夫妻だ。

「揖保川の伏流水は超軟水。これで醤油を仕込むと、色の薄いうすくちに仕上がるんです」

お隣の『井戸糀(こうじ)店』では、4代目の井戸正文さんがお手すきの時、作業場を見学させてくれる。

「糀の熱が高くなったら室(むろ)の扉の隙間を開けたり、糀蓋(こうじぶた)の間隔を空けたり。店を継いで40年、やっと糀と会話できるようなりました」

5代目の継承はないと聞いたが、井戸さんに悲壮感はない。

「お隣の松下さんも、米を仕入れている地元農家さんも糀造りを始めてくれた。この町で糀文化が継承されているのがうれしいんです」

ヒガシマル醤油の元醤油蔵を活用した『うすくち龍野醤油資料館』。
ヒガシマル醤油の元醤油蔵を活用した『うすくち龍野醤油資料館』。
老舗『井戸糀店』の夫婦(右)と、最近糀造りを始めた『発酵LabCoo』の夫婦。両店は隣同士。
老舗『井戸糀店』の夫婦(右)と、最近糀造りを始めた『発酵LabCoo』の夫婦。両店は隣同士。
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『揖保乃糸資料館 そうめんの里』工程や歴史展示で読み解く喉ごしの秘密

2階の展示風景。いまは機械化も進むが、作業内容自体はむかしとほぼ変わらない。
2階の展示風景。いまは機械化も進むが、作業内容自体はむかしとほぼ変わらない。

“はた”という2本の棒にかけられたそうめんを約2mまで手延べする職人技の実演ほか、人形を用いたむかしの製造工程、揖保乃糸の歴史に関する展示などを見学できる。売店では、貴重な等級の揖保乃糸やめんつゆも販売。

☎0791-65-9000
9:00~17:00(展示室は~16:30受付。レストラン庵は11:00~20:00LO)
月(祝日の場合は翌日)休
展示室300円
兵庫県たつの市神岡町奥村56
JR姫新線東觜崎駅から徒歩15分

実演は11:00~15:00の1時間ごとに一日5回(日によって変動)。
実演は11:00~15:00の1時間ごとに一日5回(日によって変動)。
手前から縒(より)つむぎ300円、龍の夢中華麺・太づくり各380円など。
手前から縒(より)つむぎ300円、龍の夢中華麺・太づくり各380円など。

『井戸糀店』糀との会話を大切に100年

創業は大正15年(1926)。
創業は大正15年(1926)。
地元農家の上田農園から仕入れた大豆、サチユタカを蒸す4代目。
地元農家の上田農園から仕入れた大豆、サチユタカを蒸す4代目。
あまざけ500g650円、田舎味噌(粒)450g600円。7月中旬以降の購入は要予約。最近は発酵ブームで若い女性客も多いそう。
あまざけ500g650円、田舎味噌(粒)450g600円。7月中旬以降の購入は要予約。最近は発酵ブームで若い女性客も多いそう。

4代目の井戸正文さんは、創業時から変わらぬ製法で糀を造り続ける。「糀は生きものやから、温度など状況変化を見逃さないようにするのが大切です」。ストレスなく育てた糀で造る甘酒や田舎味噌は、自然な甘みで米の風味が豊か!

☎0791-62-0205
10:00~18:00
不定休
兵庫県たつの市龍野町下川原39-1
JR姫新線本竜野駅から徒歩16分

『発酵LabCoo』うすくち、されど発酵愛は濃いくち

見本で用意された5種類の醤油を参考にオリジナルフレーバーの醤油づくり。醤油の搾りかすを入れた和紙のラベルを貼って完成。
見本で用意された5種類の醤油を参考にオリジナルフレーバーの醤油づくり。醤油の搾りかすを入れた和紙のラベルを貼って完成。
木桶商店だった建物を改修した宿『樽林』は写真の「蔵」など全3室。
木桶商店だった建物を改修した宿『樽林』は写真の「蔵」など全3室。
自家製の味噌や米糀、発酵ドリンクも販売。
自家製の味噌や米糀、発酵ドリンクも販売。

醤油メーカーの元研究員、松下さん夫妻が開業。瓶の中にスパイスや天然出汁を入れてオリジナルの醤油を造るマイ醤油づくりと、播州(ばんしゅう)味噌に乾燥野菜を混ぜるおうちで簡単みそ玉作りという各約1時間の体験で、発酵文化にふれられる。2026年5月からは宿泊業も開始した。

☎090-4292-5917
10:00~17:00
火・水休(体験・料理教室は不定休、前日までに要予約)
マイ醤油づくり2200円ほか
兵庫県たつの市龍野町下川原43-2
JR姫新線本竜野駅から徒歩16分

『すくね茶屋』最高級の極細麺は喉ごし涼やか

店主の大ヶ瀬尚㐂(なおき)さんは秒単位で茹で時間を調整。つゆにもこだわり、たつの醤油のかえしや出汁に真昆布などを使う。
店主の大ヶ瀬尚㐂(なおき)さんは秒単位で茹で時間を調整。つゆにもこだわり、たつの醤油のかえしや出汁に真昆布などを使う。
食べくらべセット2550円。
食べくらべセット2550円。

大正13年(1924)の醤油蔵を移築して営業しており、店内には当時使われていた槽(ふね)も。揖保乃糸の最高級品、太さ0.55~0.6㎜の三神(さんしん)と、もちもち感のある縒つむぎの食べくらべセットで、食感の違いを堪能したい。

☎ 0791-63-0331
11:00~16:00LO
木休
兵庫県たつの市龍野町下霞城22
JR姫新線本竜野駅から車9分

『パスタと気まぐれ料理 いちわ』揖保乃糸のパスタ、その食感とは?

築100年以上の古民家を改装。
築100年以上の古民家を改装。
ひと晩かけて揖保川トマトの甘くさわやかな出汁を抽出する。パスタの食感はツルツルしこしこ。
ひと晩かけて揖保川トマトの甘くさわやかな出汁を抽出する。パスタの食感はツルツルしこしこ。
店長の藤原良一さん。「発酵文化を意識し、寿司は酒粕を熟成発酵させた赤酢を使っています」。
店長の藤原良一さん。「発酵文化を意識し、寿司は酒粕を熟成発酵させた赤酢を使っています」。

デュラム小麦を使った揖保乃糸の手延べパスタが名物。夏は揖保川トマトの出汁スープで味わう、冷製トマトそうめんパスタ2200円が絶品だ。店長は寿司職人でもあり、パスタと寿司の気まぐれセット3000円が一番人気。

☎080-2255-0276
11:00~14:00LO・18:00~21:00LO
木休
兵庫県たつの市龍野町本町166
JR姫新線本竜野駅から徒歩17分

『エデンの東』この町の憩いの場として半世紀

店名はマスター・丸尾功二さん(右)が大好きな名作映画から。
店名はマスター・丸尾功二さん(右)が大好きな名作映画から。
銅マグでいただくアイスコーヒー530円は、中煎りで雑味のない味わい。赤とんぼピザ980円。
銅マグでいただくアイスコーヒー530円は、中煎りで雑味のない味わい。赤とんぼピザ980円。

マスターが自身の生家を改装して営業。もろみをのせて、生地のまわりに醤油を塗った赤とんぼピザと、生クリームに醤油を合わせたお醤油ロールケーキは地元調味料を駆使した名物メニュー。サイフォンで淹れるコーヒーもぜひ。

☎0791-63-1273
8:00~19:00
毎月5・15・25日休
兵庫県たつの市龍野町上川原52
JR姫新線本竜野駅から徒歩19分

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取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年7月号より

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