簡単には説明できない「サブカル」という概念

かつて、エンターテインメントの主流はテレビで、大衆に好まれるメインカルチャーに対し、枠組みからこぼれたマイノリティーはサブカルチャーと呼ばれた。その中にはアメリカやイギリスを発端とするヒッピーカルチャーやパンク・ロックをはじめとするカウンターカルチャー、そして80年代以降の日本で花開いたマンガやアニメを中心としたオタクカルチャーなど、さまざまなジャンルが入れられた。

あらゆるマイナー文化を力技で一括りにしたため、「サブカルチャー」と一口に言っても異なる考えが混在する。そこからよりフランクに使われるようになった「サブカル」という概念は、なおさら説明が難しい。

だから誰かに聞いてみたい。向かったのは、『中野ブロードウェイ』に代表される中野と、古着店やライブハウスが密集し、乱立するコミュニティーがカオスな魅力を生んでいる高円寺だ。各街で独自の立ち位置を築く2軒に話を伺った。

「突然ですが、サブカルってなんだと思いますか?」

「サブカル」ってものの見方だと思うんです(中野・中野ロープウェイ)

イトウさん:『中野ロープウェイ』の店主。『週刊少年ジャンプ』が全盛期だった小学生時代、「好きな作品ほど3巻以内で打ち切られることが多かった」。
イトウさん:『中野ロープウェイ』の店主。『週刊少年ジャンプ』が全盛期だった小学生時代、「好きな作品ほど3巻以内で打ち切られることが多かった」。

「サブカルってジャンルだと思われがちだけど、僕はものの見方だとだと思うんです」

そう語るのは、『中野ブロードウェイ』の地下1階にある雑貨店『中野ロープウェイ』のイトウさん。メインカルチャーに括られるようなテレビによく出る有名人でも、例えば「EXILEも斜めから見ることができたら、それはもうサブカル」だという。「要は、味わい方」と、そんなイトウさんが店に並べるのはスイーツをモチーフにした小物や、人気キャラクター風のグッズなどいろいろ。

商品の大部分は東南アジアで買い付けたもの。
商品の大部分は東南アジアで買い付けたもの。

「コピー品は面白くないけど、ぱちもんは好き。ぱちもんには本物への憧れがあって、コピーは騙す行為だから」

価値基準をどこに置くか、大事ですよね(高円寺・ネグラ)

大澤思朗(しろう)さん(右)・麻衣子さん(左):2017年から夫婦2人で『ネグラ』を切り盛り。「音楽と個人商店のバザール」と銘打ち、『チリチリ酒場』として妄想庶民料理の出張販売も行う。休日には「録画したドラマを家で観るのがルーティン」。
大澤思朗(しろう)さん(右)・麻衣子さん(左):2017年から夫婦2人で『ネグラ』を切り盛り。「音楽と個人商店のバザール」と銘打ち、『チリチリ酒場』として妄想庶民料理の出張販売も行う。休日には「録画したドラマを家で観るのがルーティン」。

「憧れ」というキーワードは、高円寺『ネグラ』の大澤思朗さんからも聞いた。野球が好きで「つい目で追うのは守備職人。でもやっぱり、花形への憧れは拭えません」。その言葉に思わず強く頷いたのは、相反する気持ちを抱える葛藤もまたサブカルの醍醐味な気がしたから。その点で、まさに「ものの見方」なのだ。思朗さんは「プレイを見るより、選手のバックボーンに興味がある」とも言っていて、イトウさんの「斜め」なものの見方と相通ずる。「価値基準をどこに置くか、大事ですよね」と妻の麻衣子さんが補足する。

「うちのカレーって、言ってしまえば創作料理。でも、その曖昧なものを食べに来てくれるお客さんがいる。自分たちとスタッフ、お客さんの価値基準がすべて重なって今の『ネグラ』があります」

物が多く雑多だが、なぜか居心地がいい店内。
物が多く雑多だが、なぜか居心地がいい店内。

SNSが普及し文化圏が細分化した令和に、もはやメインもサブもなく、サブカルは消滅したという言説もある。と同時に、価値基準が多様化した今だからこそ、自由でニッチな「ものの見方」も有効だと言える。見る対象はなんでもいいし、どんな醍醐味を見つけるかもその人次第。今回は、多種多様な価値基準を「それもアリ」とする世界が垣間見えた。

当然、相手によって違う答えが返ってくることもあるだろう。意見が食い違い、摩擦が起きるかもしれない。けれども、そのぶつかり合いすら、サブカルの無限にある醍醐味の一つ。いつか別の街でも同じ質問をしてみたい。

『中野ロープウェイ』【中野】

オリジナルキャラクターの看板犬がお出迎え。
オリジナルキャラクターの看板犬がお出迎え。

『中野ブロードウェイ』地下1階にある雑貨店。陳列棚を占めるのは、可愛さと怪しさがないまぜになった「奇妙な雑貨」だ。常連客にはアイドル(主にライブアイドル)もいて、一部では聖地として知られる。2010年に開店。

「実は、ステッカーの貼り方にもこだわっています」
「実は、ステッカーの貼り方にもこだわっています」

『中野ロープウェイ』店舗詳細

住所:東京都中野区中野5-52-15 中野ブロードウェイB1/営業時間:14:00~21:00ごろ/定休日:不定/アクセス:JR中央線・地下鉄東西線中野駅から徒歩6分

『ネグラ(妄想インドカレーと越境庶民料理店)』【高円寺】

夏は冷やしミールスの季節。味や具材は日替わり。1700円。
夏は冷やしミールスの季節。味や具材は日替わり。1700円。

提供するのは、行ったことのないインドを妄想して作るカレー。食材の選び方や組み合わの妙により、見た目からは想像のつかない滋味を生む。いわば「ネグラ式ミールス」。店内の一角で自主制作のCD や冊子の販売も。

壁画を手掛けたのはアーティストの苦虫ツヨシ氏。
壁画を手掛けたのはアーティストの苦虫ツヨシ氏。

『ネグラ(妄想インドカレーと越境庶民料理店)』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南3-48-3/営業時間:12:00~21:00/定休日:火~金/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩6分

取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2026年8月号より