自由に羽ばたきたかった、隣り合う二つの街で——

品川浦舟溜まりから品川高層ビル群を眺める。
品川浦舟溜まりから品川高層ビル群を眺める。

港町の面影を残す北品川。「いつか、運河の向こうの大都会へ行ってみたい」。少女リナは、品川浦の舟溜まりから、品川のビル群を憧れのまなざしで眺めていた。17歳になったある日、リナは思い切って、地元を飛び出した。

向かうは品川、じゃなくて、天王洲? 「ブルックリンみたいにおしゃれな街だっていうから」。リナは瞳を輝かせ、東へと走り出す。

たどりついたのは『日本茶専門店 粋.sui』。「本日のおすすめは、静岡のおくゆたか。同じ茶葉で3煎お楽しみください」と、オーナーのMICHIRUさん。1煎目は、少量のお湯を使い、香りとうまみをワイングラスで。2煎目は湯呑み、そして3煎目は、華やかにティーカップで。「本当に同じ茶葉?」とリナはお茶の奥深さに感動。飲み進めると心も穏やかに。

お茶のいい香り。
お茶のいい香り。

ゆっくり読書でもしようと『The Library Lounge』へ。「ホテルラウンジで読書なんて素敵」。お目当ての本を見つけて手を伸ばすと、大きな手が重なり……。見つめ合い、固まる二人。「……名前は?」「トニーさ」。たちまち、恋に落ちた。

誰だろう……。
誰だろう……。
あっ……。
あっ……。
『The Library Lounge』には、旅行関連本が充実。旅の計画も楽しい。
『The Library Lounge』には、旅行関連本が充実。旅の計画も楽しい。

でも、トニーは天王洲出身らしい。「自分とは生まれが違う。彼との恋を選ぶなら、もう北品川に戻れないかも……」。品川コンテナふ頭を彷徨(さまよ)いながら、一人悩むリナ。気がついたら、天王洲運河水辺広場にたたずんでいた。いつの間にか、雨。

カラフルなコンテナが積み重なる品川ふ頭。
カラフルなコンテナが積み重なる品川ふ頭。
天王洲周辺は東京モノレールが走る。
天王洲周辺は東京モノレールが走る。
雨に濡れる天王洲アイル第二水辺広場とふれあい橋。
雨に濡れる天王洲アイル第二水辺広場とふれあい橋。

「この恋は、終わりにしよう」。そう決めたら、西へ向かって歩いていた。運河を渡り、見慣れた風景が戻ってきた頃、青空が。

「こんなところにカフェ」。メルボルンスタイルのコーヒーショップ『NOG COFFEE ROASTERS』でハウスブレンドを一杯。華やかな風味のコーヒーに、少し元気をもらう。そうしたら、懐かしい味が恋しくなった。

築100年の古民家を改装した、地元の人気イタリアン『居残り 連』へ。ホタルイカのカルボナーラなど、和のテイストを感じる創作イタリアンと、店主・植島誠さんの自宅で栽培した北品川産ブドウで醸造したワインを楽しむ。あれ? リナ、17歳じゃ……。

近隣の『SHINAGAWA1930』も、築90年以上の古民家群をリノベーションした複合施設。この一角は、第二次世界大戦の空襲に見舞われながら奇跡的に残ったそう。現在は、カフェや酒店などが入っている。

さて、ソーシャルカフェ『PORT』へ。店長は日替わりで、火曜日は『ARIGATO』の安齋さおりさん。いただいたのは、春キャベツ&ベーコンのパスタ。「旬のおいしさを感じてほしいからあえて薄味に」と安齋さん。お母さんみたいな笑顔と優しい味に癒やされる。

そして、お隣の『いにしえ酒店』へ。試飲もできるらしい。「すみません!20歳未満の方は飲酒お断りです」と店主・滝本さん。「いえ、実は……。17歳なんて設定やーめた!」と、古酒を3種飲み比べ。おでん缶も頼んで角打ちだ!「古酒って、コクがあってほんのり甘い」とリナ、ほろ酔い。

「地元最高!」。すっかり元気になったリナはふと思う。一つになれない街の、あっちにもこっちにも、自分の居場所があっていいのでは!? もし、またトニーに会えるなら、勇気を持って踏み出してみよう。

きっと会える。だって、二つの街は隣り合っていて、気軽に行き来できるのだから。

五感で楽しむ日本茶体験『日本茶専門店 粋.sui』

1煎目は、ワイングラスで提供。
1煎目は、ワイングラスで提供。
抹茶のガトーショコラ880円。
抹茶のガトーショコラ880円。

最高水準の特級煎茶のみオンリスト。「産地の個性、そして“誰がつくるか”を何より大切にしています」と、ワインソムリエでもあるオーナーのMICHIRUさん。卓越したお茶を生み出す生産者によるシングルオリジンの茶葉を3〜4煎、淹(い)れ方を変えて提供する。1煎目で輪郭を、2煎目で奥行きを、3煎目でその本質を。ここにあるのは日本茶の概念が変わる体験。

11:00〜18:00、不定休。
☎03-4400-4938

 

ホテルラウンジで優雅に読書『The Library Lounge』

平日11~14時まで、どのプランでもカレー2種やフードがフリー。
平日11~14時まで、どのプランでもカレー2種やフードがフリー。

ANAホリデイ・イン東京ベイにあるブックラウンジ。開放感ある吹き抜け空間には、書籍からコミック、洋書まで蔵書は2万5000冊以上。リラックスして読書をしたいときはソファ席、仕事に集中したいときはカウンター席、家族や友達と過ごしたいときは半個室席などお好きな席を。ソフトドリンクプラン1650円(60分)~、アルコールプラン2750円(60分)~。

10:00〜21:00最終入場、無休。
☎03-6701-8856

ふらっと立ち寄りたい地元カフェ『NOG COFFEE ROASTERS』

モンブラン850円、あんバターサンド600円。
モンブラン850円、あんバターサンド600円。

メルボルンでバリスタ修業をしたオーナー・野口航太さんが立ち上げた焙煎所の直営店。コーヒーは、浅煎りから深煎りまで、デカフェも含め常時8種類。冷たいエスプレッソに生クリームを重ねオレンジとナツメグをプラスしたモンブランなどバリスタ考案のドリンクや、ワッフルで挟んだあんバターサンドなどスイーツも人気。カフェスペースも本がたくさんで落ち着く。

10:00〜17:00、無休。
☎050-6862-7277

古民家で楽しむ創作イタリアン『居残り 連』

ホタルイカのカルボナーラ1430円、生水蛸のアヒージョ1540円。
ホタルイカのカルボナーラ1430円、生水蛸のアヒージョ1540円。

江戸落語「居残り佐平次」に登場するうなぎの名店・荒井家を引き継いだ古民家で和テイストの創作イタリアンを。「ホタルイカのカルボナーラは、卵と和風出汁を使い、クリームは使っていません」と、店主・植島誠さん。お酒は日本ワインが中心。5月には、自宅ベランダで栽培したブドウを山梨のワイナリーで醸造したワインも提供。

11:30〜13:30、17:00〜22:00LO(土は〜21:00LO)、日休。
☎03-3450-5660

歴史をつなぐ、新たなコミュニティー拠点『SHINAGAWA1930』

宿場町だった頃にタイムスリップしたみたい!
宿場町だった頃にタイムスリップしたみたい!

『PORTO』

「おいしいものでリラックスタイムを提供したい」と『ARIGATO』の安齋さん。
「おいしいものでリラックスタイムを提供したい」と『ARIGATO』の安齋さん。

『いにしえ酒店』

いにしえ酒店店主・滝本さんが、全国の酒蔵を訪ね歩いて厳選した日本酒100種類以上が揃う。
いにしえ酒店店主・滝本さんが、全国の酒蔵を訪ね歩いて厳選した日本酒100種類以上が揃う。

歴史と地域、人々をつなぐ活動拠点として再生した5棟の古民家群。この建物が建築されたとされる昭和5年(1930)が名前の由来。熟成酒・古酒を揃えた日本酒店『いにしえ酒店』、日替わり営業のソーシャルカフェ『PORTO』、キッズフレンドリーなカフェ&レストラン『FORELSKET』などが入居し、ただ単に買う、食べるだけでなく、地域交流の場となっている。

営業時間・休業日は店舗により異なる。

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主演:少女リナ 取材・文=瀬戸口ゆうこ 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2026年5月号より