いくつもの発見が生んだとりかつ専門店
『とりかつ たるたる 金いろ』は、高円寺南4丁目交差点とパル商店街を結ぶ道の角にある。壁は白とグレーで、木製の看板も小さめと外観は控えめな印象だ。
三軒茶屋で間借り営業をしたあと、この場所にオープンしたのは2020年のこと。代表の大越玄也(おおごえげんや)さんは、いつかは自分のお店を持ちたいと20代後半でカフェを運営する企業に入社。十数年間で複数の業態を経験し、店舗運営を学んだ。そんな中、携わった店でチキン南蛮の人気が高いことに注目。
トンカツ店は老舗が多く、牛カツをうたったお店は近年行列ができている。一方で、なぜか鶏肉を使ったカツを看板メニューにしたお店は見当たらない。
「品質のいい国産の鶏肉を押し出した、とりかつの店って、いいんじゃないか」と、とりかつをメインにした定食に狙いを定めた。
メインとなるメニューをとりかつ定食と決めてからは、揚げ物や定食をメインにする4つのお店で掛け持ちアルバイト。オペレーションを学ぶためだった。そのうち1つのアルバイト先で気付いたのが「1つの定食で3種類が食べられるメニューがすごく人気」ということ。そして鶏肉のもも、むね、ささみと部位3種類のとりかつを組み合わせるスタイルを思いつく。
サックサクのとりかつ2種類とカキフライがのった高円寺阿波踊りセット
人気メニューの高円寺阿波踊りセットを注文した。ささみかつ、むねかつに加えて「カキフライが好きな人って多いですよね」とカキフライ1つが付いているのがうれしい。オープンした2020年当時は東京オリンピック応援セットだったが、オリンピック後に「高円寺は阿波踊りが有名だから、地元の人に喜んでもらえるかなと思って」と改名したそうだ。
程なくして、高円寺阿波踊りセットが差し出された。お盆の中央にこんもりと盛り付けられた千切りキャベツの周りにボリュームある3種類の揚げ物の皿を配置。右からカキフライ、正面にささみかつ、左にむねかつ。キャベツの上にはタルタルソースにネギやゴマがかかっている。
カキフライは広島産の2Lサイズを縦長に整えている。レモンを搾ってパクッと頬張ると、粗いパン粉のサクサクした衣とカキらしいふっくらとした食感とのコントラストが楽しめる。タルタルソースをつけてみると、ほんのり甘く、カキの軽い苦味をタルタルの甘さが引き立てる。
そしてささみかつへ。程よい厚みのささみは、あっさりしていてやわらか。次に箸を伸ばしたむねかつも、やわらかいが食べ応えのある弾力。どちらも素直な味わいで飽きない。
鶏肉は国産限定で主に鳥取県の大山どりを使用。肉そのものの味がしっかりしている。南蛮ソースは、甘酸っぱくもエキゾチックな味わいで、「タルタルと一緒にかけて食べてもおいしいですよ」とのこと。とりかつもカキフライも最後のひとくちまでサクサク。タルタルや南蛮ソースでキャベツもガシガシ食べられるが、卓上調味料も用意されているので、味変してもいいだろう。
国産米のご飯にゴマがのっていて、赤だしの味噌汁にたっぷりのネギ、口直しにはゆず風味の浅漬けと梅干しが添えられているのも気が利いている。
「おかわり、いかがですか?」老若男女に刺さる、分け隔てない心遣い
店名の一部にもなっているタルタルソースがほんのり甘い理由は、はちみつが入っているから。毎日お店で作っていて、「子供も食べられるようにしています。苦手な人がいるピクルスは入れていません」と大越さん。味を引き締め、深みを出すため、パセリやタバスコ、ホワイトペッパーなどを隠し味程度に入れている。
大越さんにとってキーワードとなっているのが「老若男女」だ。オープンして間もないころは、食べにくる人の男女比は8対2程度で、圧倒的に男性が多かった。女性にももっと来てほしいと、全体のボリュームを抑えて、野菜のフライを取り入れたセットも用意したところ好評。SNSでも女性や外国人客を見据えた情報発信を行なっている。
さらに、実際にお店に来ると感じられるのが、スタッフさんたちの雰囲気がいいこと。お茶が少なくなっていれば注ぎ足し、最初にごはんの量について尋ねたり、ごはんやキャベツのおかわりをすすめたりと、常に気を配っている。
そういった積み重ねが功を奏し、現在では4割近くが女性客で、週末には親子連れが食事にやってくるようになった。高円寺を訪れる外国人観光客にも人気で、近々2号店を高円寺北口にオープンする計画もある。唐揚げでもチキン南蛮でもない、シンプルなとりかつのおいしさを味わいに高円寺を訪れよう。
取材・文・撮影=野崎さおり






