マグロ副長がすすめる! いつもちょっとした驚きがある“町中華”
浅草の老舗そば屋が放つ絶品町中華!
『辰巳庵』は3代目に当たる大澤良徳さんのおばあさんが創業したそば店だ。そば・うどんだけでもメニュー数は有に30を超える。丼ものやセットメニューも豊富で、おなかを空かせた常連客たちがミニ丼とそばを注文するのは、この店にでよく目にする光景。そばは良徳さんのお父さん、2代目・勇さんがとったかつおだしが味の決め手! 古き良きそば屋の味を踏襲しつつ、お客のニーズにしっかり応えている。そんな純然たるそば店なのにこの店は、中華メニューが驚くほど多い。どう見てもそば屋だが、中に入ってみると「町中華」の趣も楽しめる店なのだ。
栄養士だった3代目が新メニュー開発
その昔は大人がそばを頼み、その横で当時の子供がラーメンやカレーを注文していたそう。自然発生的に誕生した『辰巳庵』の中華は3代目・良徳さんが店に入るようになってから、急速にメニュー数を増やす。彼の前職は栄養士。栄養の知識を生かしながら、お客の声も取り入れて料理を増やした。冷やしラーメン700円は焼うどんを作ったときに、冷やしでもイケるのではという発想から誕生した一品だ。お客さんに試作品を食べてもらうなど試行錯誤を重ね、日本そば用のつゆをベースにした今の形に行き着いた。「一つ一つの料理にいろんなひらめき、いきさつがあります。ボツももいっぱいあるんですよ」と良徳さんは笑顔で教えてくれる。そば屋としてのプライドは持ちながらも、お客の声に応えるこの柔軟さが、ほかにはない独創的な中華を生み出すのだ。
浅草『辰巳庵』店舗紹介
取材・構成=半澤則吉 撮影=山出高士
浅草の国際通りを歩いて、どこか飲食店に入ろうというコラムを書くため、僕は暑い夏の日に銀座線田原町駅をスタート。言問通りを越えたところで、見つけたそば屋に入ることにしました。冷やしたぬきにでもしようかと店のメニューを見ると、なんと中華メニューがかなり充実。見た目はまったくそば屋なのに中華が人気のお店って、けっこうありますよね。例の「冷やし中華始めました」という季節を感じる貼り紙も町中華だけではなく、おそば屋さんに貼ってあることもあります。で、この日、注文したのがメニューの最初にあった「冷やしラーメン」。冷やし中華じゃなくて、冷やしラーメンですよ。冷たいスープに麺、千切りのチャーシューとキュウリがたっぷりのっかっていて美味でありました。その後僕はこの店に通うことになるのです。ある時「五目そばください」とお願いすると、「日本そばですか、それとも中華?」と聞かれ、中華でお願いしました。町中華の典型的な五目そばとは違いましたが、これはこれでありですね。うかがうたびにちょっとした驚きがあるお店です。