納豆が好きな人にも苦手な人にも、世界に通用するものを届ける
健康食や腸活ブームを経てもなお、納豆の消費量が少ない西日本エリア。今回の特集に快く協力してくれた『天草納豆』の代表・阪本仁さんは、生まれも育ちも京都で「発酵食品と言えば漬物。納豆は食べられなくはないけれど、好んで食べることはなかった」と予想通りの返答だった。
ではなぜ納豆屋なのか。阪本さんの経歴は希有(けう)だ。バンドマンから不動産の営業職へ。次第に小売業に興味を持ち、出合ったのが『天草納豆』だった。実際に食べてみないことには……と、口にした納豆に衝撃を受けたと当時を振り返る。
「納豆の苦手意識は、匂いと粘りからきていると思うんです。そのどちらも抑えている納豆……商品としての可能性を感じましたね」と直感に従って買収したのが2019年のこと。納豆をほぼ食べなかった、京都出身の阪本さんが製造・販売する上でずっと大切にしている思いがある。それは納豆嫌いの人が抵抗なくおいしく食べられるもの、地元の三鷹で愛されるもの。そのためなら手間も労力も厭いとわない。
「コスパ」や「タイパ」が謳(うたわ)れる昨今であれ、阪本さんは時代に逆光するように古典的かつ独自性を重視し攻め続けている。
まず、各種納豆に使われる国産大豆は遺伝子の組み換えがないもので、なおかつ厳選した最も品質がいいものに。納豆を包むアカマツ材の経木は、栃木県那須塩原産に限定。納豆特有の匂いを抑える効果が、ほかの経木に比べて高いという。大豆の洗浄から包装まで、何工程もある作業は機械を使わずに基本一人ですべてこなす。店頭での販売、通販の運営、発送作業なども阪本さんが行っていた。
さらには、毎月第2土曜に久我山のバー『SOU』で納豆料理イベントも開催。「自分がそうだったように、食べてもらうのが一番」と笑う。月に一度のイベントで提供されるメニューを見ると、卵かけごはんや丼、カレー、パスタ、うどんといった食事系から、サラダやおつまみなどの一品料理まで20種類近くが用意されていた。もっと知ってもらいたい。阪本さんの熱い思いは年々増している。
天草納豆×BAR SOU/納豆食堂&710BAR[久我山]
京王電鉄井の頭線久我山駅から徒歩2分
12:00~22:00(営業は毎月第2土)
東京都杉並区久我山4-1-3 1F
☎0422-77-6111
「ドライ納豆」の存在が世界中に名を轟(とどろ)かす!
オンリーワンの手作り納豆に尽力する一方、海外展開を図るために打ち出された商品が「ドライ納豆」だ。取材時はチョコ味が完売していたが全部で6種類。プラス、常連さんの要望で生まれたわんちゃん用まである。
2026年は、他社と協力してアメリカやフィリピンなどでの販売が始まるイチオシ商品について、「国内はもちろん海外でも注目されている納豆。けれど手作りは生産量も販売数も限界がある。ドライであれば常温で長期保存ができ、納豆特有の匂いと粘り気もまったくない。国内外問わず、たくさんの人に納豆のおいしさを知ってもらうきっかけになれば」と期待を込める。
阪本さんの挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。
取材・文=新居鮎美 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年3月号より






