埼玉の日本酒は食事が進む味『埼玉の地酒処 うりんぼう』
埼玉県の日本酒を飲むなら、まず名前があがるのが『うりんぼう』。20年前に浦和でオープンして以来、ずっと変わらず日本酒推しだ。“のりさん”と親しまれる店主の佐藤紀子さんは「埼玉の日本酒って地味だけど、料理に合うんです。どんな温度帯でも飲めるから、一本のお酒でいろいろ表情を変えられて、合う料理の幅も広がる。酒の味は語れないけれど、料理との相性にはうるさいんです」と笑う。「酒の味は分からない」と言いつつも、酒蔵からは頼りにされている。特に付き合いの深い「菊泉」「釜屋」「直実」「寒梅」の4蔵は、お酒を直接卸すだけでなく、感想が聞きたいと新作を持ち込んだり、お客さんとして飲みに来たりもするそうだ。
“発酵料理研究家”という肩書も持つのりさんの料理は、文字どおり発酵づくし。調味料もすべて手作りだ。「発酵食は置くほどおいしくなる。日本酒と似てるから、相性がいいのかも」。発酵アテの三種盛りには「寒梅」の新酒を冷やで。無濾過生原酒の本醸造なので、線の細すぎない味と、軽やかなキレが野菜に合う。
野菜は自分の畑で採れたものや、知り合いから譲ってもらう。冬はダイコンが豊作なので、加須の「香り豚」と合わせた塩麹煮込みなんかがおすすめだ。ベーコン代わりにと発明したぬか豚は、ぬかの香りと柔らかい酸味が新鮮。
滋味深い旨味にはぬる燗がベストということで、「釜屋」の「力士純米」をふんわり温めて出してくれた。低精米・低アミノ酸・低温発酵の三低製法という新手法に挑戦した銘柄で「今年で3年目かな?これからが楽しみな一本。杜氏のデザインセンスもいいんだよね」と、蔵元を知るのりさんの話を聞きながら飲むとより楽しい。そういえばお品書きにも、蔵元の人柄を紹介する文章が。「この人が造っているならいい酒なんだろうなって思うから、結局“人”で選んでいるかもしれないね」。
発酵料理のせいか、いい人が造った酒のせいか。心がぽかぽかと温まる酒場だった。
『埼玉の地酒処 うりんぼう』店舗詳細
いい食材もいい酒も手の届く範囲に『デリカ』
『デリカ』は大宮駅からちょっと離れた、氷川神社のそばにある。14時開店、18時半LOという営業時間も珍しいが“埼玉県の素材を使った小さな飲食店です”という看板が一番気になる。「埼玉は自分の手の届く範囲にある食材で店ができる。それってすごく大事なこと」と話すのは、店主の山﨑暢(とおる)さん。食材は山﨑さんが自分の足で調達。道の駅や牧場、直接野菜を譲ってもらう農家もいる。
「いい野菜を見つけたら、農家さんに畑を見せてもらう。道の駅に納品しに来るのを、入り待ちすることもありますよ」
埼玉の食材に、埼玉のお酒が合うのは「水だと思うんです。野菜も肉もお酒も、近い水系の水を使っているからシンクロするんじゃないかな」。タップビールは小川町『麦雑穀工房』。この日つながっていたブラウンセゾンはキャラメルのようなコクで、もろみ味噌風の調味料“おなめ”で和えた大麦のサラダにとても合う。
『秩父ワイナリー』の初期、2015年ビンテージのワインが「異常にうまい」と大量ストック。個性ある香りは、濃厚な冷製レバニラと好相性。「このニラは『弓削田醤油』と『南陽醸造』のみりん、ごま油でマリネしています」。埼玉にはいい醤油や味噌の蔵が多いので、料理にも頻繁に登場するのだ。
山﨑さんのなかでいま一番ホットなのが、「イチローズモルト」に自家焙煎した大麦の麦茶を合わせた麦茶割り! 「すごいんです。麦茶より麦を感じますよ」。添えるのは、皆野町のアズキで作った水ようかん。おっしゃるとおり、これは魔法級においしい。麦茶とウイスキーの中に潜む大麦の香ばしさが何倍にもふくらんで、水ようかんの甘みが厚みを与える。麦茶割りはメニューにないので、ぜひリクエストしてほしい。
「いま皆野町でラムを造っている人がいて、それが楽しみ。秩父のブドウでラムレーズンにしたら、最高ですよね」。素材は山﨑さんのインスピレーション。次回はどんな埼玉が食べられるだろうか。
『デリカ』店舗詳細
取材・文=井上麻子 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年2月号より







