豊四季台団地とともに開業した「カトレア」が起源
JR柏駅東口から徒歩5分のところにある『麺処・餃子処 TESHI』(以下、『TESHI』)は、レンガの外壁のマンションの1階にある町中華。店頭に出ている定食メニューの看板が目に入った。
手書きのメニューからは親しみやすさがにじみ出ている。中華と洋食の定食のほか、一部のメニューはテイクアウトもできるようだ。
ドアを開けて中に入ると、2代目店主の勅使河原豊(てしがわらゆたか)さんと、その息子で3代目の哲(さとし)さんが迎えてくれた。
『TESHI』の前身は、JR柏駅の西へバスで5分ほど行ったところにある。当時、マンモス団地として脚光を浴びた豊四季台団地内にあった「カトレア」だ。豊四季台団地は1964年に入居を開始し、それと同時に「カトレア」もオープンしたのだ。
「団地の中に松坂屋(百貨店)が運営しているショッピングセンターがあって、その中のテナントで私の母が店を始めました。施設側の意向で和、洋、中、喫茶といろんなメニューを取り揃えて欲しいということだったので、なんでもありましたよ」と話すのは、2代目店主の豊さん。
団地で唯一の飲食店だったため、ファミレスのような品揃えを求められたのだ。
そして2017年になると、建物の老朽化に伴い東口にある現在の場所へ移転してきた。「ラーメンのタレとかスープはちょっと変えたりしていますが、ほとんど『カトレア』のメニューです。以前より店舗が狭くなったのでだいぶメニュー減らしたんですよ」と哲さんは話す。
麻婆豆腐に豚肉と玉子と木耳炒め定食、豚肉生姜焼きにカニクリームコロッケ。ラーメンは塩、醤油、味噌各種が揃い、チャーハンや餃子まで。一度だけでは飽き足らず、しばらく通い詰めてしまいそうなラインアップだ。
現在は近くで働く人たちや住民がほとんどだが、わざわざバスに乗って店までやってくる常連客もいるという。移転してなお約60年もの間、柏市民に愛され続ける町中華なのだ。
かん水不使用、たっぷりの卵と豆乳で喉越しよく仕上げる自家製麺
店頭の看板にもあったが、『TESHI』の特徴といえば自家製麺だ。店の一角に製麺所を設け、哲さんが製麺を担当する。麺をつなぎやすくするためのかん水を使わず、そのかわりに卵や豆乳を混ぜ込むことで喉越しの良さを出している。
「かん水のにおいがスープに溶け込むイヤなんですよね」と哲さん。何種類もの小麦粉を試し、小麦の香りが高いパン用の粉にたどり着いた。
さすが、3代目ともなるとこだわりがすごいなと思ったが、実は哲さん、大学卒業後は服飾系メーカーに勤めていたのだとか。20代半ばに脱サラして祖母と父が営む「カトレア」で飲食の経験を積み上げてきた。今は中華料理を担当し、麺だけでなくスープも日々改良を重ねる研究家肌だ。
また、『TESHI』のもうひとつの看板メニュー・餃子の皮もこの製麺室で作られている。
「うちは持ち帰りもやってるんですよ。時間が経ってもおいしく食べられるように厚めの皮を作ったんですが、『薄い方が好き』という声もあって最近は少しずつ薄くなりつつあります」
餃子の皮は大判だ! ここにたっぷり餡が包まれていくのだから、さぞかしおいしいに違いない。これはぜひ食べたい。
ももっちり麺にWスープが絡む! 定番ラーメンとジューシーな餃子
初代から続く人気メニューカトレア麺800円は、八丁味噌が隠し味のあんかけがたっぷりのった、いわゆる広東麺だ。それにしようかとも思ったが、製麺の話を聞いたらぜひラーメン800円と餃子300円が食べたくなった。ランチ時はワンドリンクサービスというのもうれしい。
哲さんがさっそく厨房で準備を始める。
麺を茹で始めると、すぐさまスープを丼に注ぐ。
「スープはゲンコツと鶏ガラの動物系と煮干と昆布などでとった魚介系のWスープ。タレにはさば節を加えています」
皮はもちろん、中の餡まで自家製の餃子。ラーメンの調理と並行して焼きにかかる。
「餡には豚ひき肉と生の玉ねぎ、タケノコを入れて食感よく。場所柄、会社員の人が多くエチケットを気にするかなと思ってニンニク不使用にしたんだけど、『ニンニク入りが食べたい』という声があって今は両方やってます」と哲さん。
筆者もエチケットには気を遣いたい気持ちはあるけど、ニンニクが好物なのでもちろん“あり”をオーダー。食欲が勝ちました。
『TESHI』の看板メニューラーメンと餃子がテーブルに運ばれてきた。熱々のラーメンが、湯気を立てる餃子が食欲をそそる。
スープは動物&魚介のいいバランスで、香りのいい鶏油がなめらかに口の中に広がる。ぱっと見、東京ラーメンのような醤油が効いたスープなのかと思ったが、まろやかでやさしい口当たりだ。
「鶏油もスープに浮き出てきたのを一度作って、ネギと少量の生姜で香り付けをしています」
ストレート麺はもちっとした弾力がありつつ、つるっと喉越しもいい。うんうん、麺を噛むと小麦の芳ばしさが香る。豚肩ロースのチャーシューは、キリッと醤油が効いていて赤身の部分がホロリとほどける柔らかさ。
続いてパリッと焼けた餃子も着手。
さぞ熱かろうと慎重に口元へ運んだが、ラーメンを食べているうちにほどよい温度になっていた。
安心して餃子のタレと自家製ラー油をつけてガブリ!
すると、中から思いがけずアッツアツの肉汁が出てきて、吐き出すわけにも飲み込むわけにもいかず口の中でフリーズした。
いや〜、これはすごい保温力。皮が厚めだから熱も肉汁もすっかり閉じ込めてしまうんだ。
具材がよく混ざったあんはジューシーで、生姜やニンニクが香り、玉ねぎやたけのこのシャクシャクとした食感が楽しい。1個が大きめだから、一緒に来た人とシェアするのもいいなあ。
シンプルながら味わい深いラーメンと餃子に満足。ランチ特典のソフトドリンクはコーヒーを選び、食後の余韻に浸っていた。
厨房では豊さんと哲さんが阿吽の呼吸で料理を作っている。『TESHI』の料理がほっこりとしてやさしい味わいなのは、親子で営んでいる空気感も作用しているように思える。
昨今では後継者不足で人気店が閉店するニュースが相次いでいる。『TESHI』はどうかこのまま柏の老舗となっておいしい料理を提供し続けてほしい。
次は豊さんの作る洋食メニューを食べてみたいな。
取材・文・撮影=パンチ広沢





