リュウアンベ Ryu Ambe
1989年生まれ。生後間もなく母方の実家浅草から茅ケ崎へ。2015年に絵本『あらかんくん』の発刊を機に、画家として本格始動。さまざまなアパレルブランドや音楽フェスとコラボレーション。茅ケ崎のウォールアートは代表作の一つ。
「描きたい意欲だけで自分からノックした」
—— 駅から、お店の外壁や雑草の奥にリュウさんの絵を見つけるたびワウ! と心の中で叫びながら来ました。
リュウ あ、うれしい。街で何かを発見すると、心境に小さな変化が起こりますよね。壁画の力ですよね。
—— 壁画を描き始めたきっかけは?
リュウ 海外でいろんな壁画を見てから、茅ケ崎にも壁画を残したい、自分の絵をたくさんの人に見てもらいたいと思うようになって。7年ほど前、バイトをしながら創作活動をしていた頃、「Bowl Market Juice & Deli」(現在の『CHIGASAKI JUICE』)に通い、絵を描いていたんです。店の方が僕の絵に興味を持ってくれ、これはチャンスかもと、「壁に描いてもよいですか」「いいよ、面白そう」と。
—— おお〜、ご自分から?
リュウ そうです。描きたい意欲だけで自分からノックし、場所を提供してもらううち、雄三通り商店会の会長が、僕の絵に気づき、オフィシャルで描かせてもらえることになったんです。「自由に描いて〜」という人がいる一方、歴史あるスーパーの社長さんは、「ずっと白い壁だったのに大丈夫かな」と心配されて。会長が頼み、「描いてダメだったら白く塗ろう」と。完成した絵を見た社長さんは、「こんな絵だったんだ!」と喜んでくれ、ホッと。
—— 朝ドラみたいですね(笑)。茅ケ崎のどんなところが好きですか?
リュウ 自然そのものがシンボルで、潮で錆(さ)びた自転車がある景色とか、海の空の淡いブルーとか街がのんびりしてるところ。あと、自分なりの「楽しい」を知ってる人が多い気がします。
少し前まで、茅ケ崎を象徴するような「マーヴィスタガーデン」というお店があったんです。家具屋さんなんだけどキース・ヘリングのポスターが飾ってあったり、ピアノが置いてあったり。家出中のシンガーソングライターや、いろんなものづくりを目指す面白い人たちと会えた場所で、僕が最初に個展を開いたのもそこなんです。
—— 家出中でも通いたい秘密サロン。ワクワクします。絵は独学とか?
リュウ そうなんです。美大に進学するのは難しかったので、全部自分なりに模索しながら描いてきました。
子供の頃、「カートゥーン ネットワーク」を観て、「なにこのタッチ!?」と衝撃を受け、ミッキーや「トムとジェリー」の絵を描き始めたのが、最初です。「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」はみんなが描く。でも、人と違っても、自分が一番楽しい方を選んでいいという大人に囲まれて育ったせいかな、そこが原点な気がします。
父が20代の頃も、茅ケ崎のお屋敷にガレージを利用したカフェがあり、南佳孝さんやユーミンさんが来ていたんですって。すごい空間ですよね。父はそこに通ううちに、「ブレッド&バター」のマネージメントを始め、今は音楽の権利関係の仕事をしてるんです。
自由人が集まると、ナニカが起こる?
—— 1970年代、街の中で音楽や文化が生まれ、それを支える人も登場!?
リュウ 自由人が集うと、なにか起きるんでしょうね。すると、しっかり者も現れる。僕、サーフィンをするんですが、海の世界も自由な分だけ、厳しい。いつか、「夢を追って絵を描いているんです」と言ったら、先輩方は、「甘いよ、無理だよ」と。でも反面、「すごいじゃねえか。絵、見たぞ!」と、実は応援もしてくれる。今も、「謙虚でいろよ。こうべをたれろよ」と、人間的な哲学を海で教わります。
—— のどかだけど、ロックな茅ケ崎。
リュウ ホントに。「あざーす、先輩!」みたいな。そんな濃い出会いを通しキャラクターが生まれるのかも。
—— いつか、「茅ケ崎は、格好いいローカル」とおっしゃってましたね。
リュウ そんなこと言ってました!?
言ったかな、言ったかも。きっと、自分がそうなりたいんだ(笑)。
リュウアンべさんのショップ&ギャラリー『akaneya gallery』でお話をお聞きしました
取材・文=くればやしよしえ 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2025年7月号より





