金冠堂(キンカン) [創業大正15年(1926)]

キンカン [第2類医薬品]。茶色い瓶と白いキャップでおなじみのロングセラー。2006年にパッケージを今のデザインに。120、55、20㎖の3サイズがある。
キンカン [第2類医薬品]。茶色い瓶と白いキャップでおなじみのロングセラー。2006年にパッケージを今のデザインに。120、55、20㎖の3サイズがある。
営業開発部 加藤拓馬さん(左)と、営業開発部 吉田稜さん(右)。壁には協賛する女子サッカーチーム「スフィーダ世田谷」のユニフォーム。
営業開発部 加藤拓馬さん(左)と、営業開発部 吉田稜さん(右)。壁には協賛する女子サッカーチーム「スフィーダ世田谷」のユニフォーム。

夏の風物詩、虫さされといえばの「キンカン」。実は、出発はやけどの治療薬。第一次世界大戦で衛生兵だった創業者が、親戚の子供をやけどで亡くしたことを機に、やけどに使える万能薬を4年かけ開発。大正15年(1926)に完成させたという。

「果実の金柑が名前の由来? とよく聞かれるのですが、朝鮮半島(現在の韓国)でキンカン開発時、現地で金の王冠が出土したことにあやかって名付けられました。なので、金柑は創薬以来使われていないのです」と、営業開発部の加藤拓馬さん。

昭和初期のキンカンは木箱入りだった(下段中央)。
昭和初期のキンカンは木箱入りだった(下段中央)。

拠点を三軒茶屋にしたのは昭和初期から。工場は三宿にあったが第二次世界大戦の空襲で焼失し、1945年より現在地へ。1986年に埼玉工場に移転するまでキンカンはメイドイン三茶だったのだ。

戦時中に配給されたキンカンは瓶の色が違う。
戦時中に配給されたキンカンは瓶の色が違う。
創業90周年記念に出した『キンカンの本』。
創業90周年記念に出した『キンカンの本』。

テレビCMで知名度は全国的となり、もうすぐ100周年の企業の顔。今願うことは?

「夏だけ使って余らせる方が多いのですが、肩こりや腰痛にもぜひ! と言いたいですね。こった時にすぐ塗るとスーッと気持ちいいです」と同部の吉田稜さん。

「最近はキンカンを知らない世代も増えているので、幅広い世代に向けた商品たちとともに、キンカンを知っていただきたい」と加藤さん。目指すは“家庭の常備薬”再普及!

キンカン ノアール(販売名:キンカン) [第2類医薬品]。2020年に発売した、持ち運びできる使い切りサイズ。キンカンとは思えない黒ずくめのシックな見た目で男性に人気。20㎖。
キンカン ノアール(販売名:キンカン) [第2類医薬品]。2020年に発売した、持ち運びできる使い切りサイズ。キンカンとは思えない黒ずくめのシックな見た目で男性に人気。20㎖。
キンカンハイハイクリーム [第3類医薬品]。しっしん、かぶれ、かゆみなどの皮膚トラブルに生後1カ月ごろから使える塗り薬。ノンステロイドでしみにくい。
キンカンハイハイクリーム [第3類医薬品]。しっしん、かぶれ、かゆみなどの皮膚トラブルに生後1カ月ごろから使える塗り薬。ノンステロイドでしみにくい。
ニキパ!。ニキビ跡など気になる部分に貼る薄さ0.05㎜の透明パッチ。保護と保湿をしてくれる。貼ったままメイクもできる!
ニキパ!。ニキビ跡など気になる部分に貼る薄さ0.05㎜の透明パッチ。保護と保湿をしてくれる。貼ったままメイクもできる!

金冠堂

東急電鉄田園都市線・世田谷線三軒茶屋駅から徒歩5分。
東京都世田谷区三軒茶屋1-34-14
☎03-3421-6171

山元オブラート [創業大正3年(1914)]

代表取締役 片平三郎さん。
代表取締役 片平三郎さん。

服薬に、菓子包装に使われるオブラートを手掛けて110年。その創業は、十五大財閥の一つ、浅野財閥が関わり、実業家の山下太郎が日本鋼管社長の白石元三郎の後援で設立。社名は両者の名から命名された。

「創業時は柔らかいキャラメルなどを包むのに作ったと聞いています。この会社に勤めていた私の父が戦前に機械化をして、戦後の財閥解体時に会社を買い取ったんです」と代表の片平三郎さん(以下同)。

過去には「ボンタンアメ」やキャラメル、現在は長野県上田銘菓の「みすゞ飴」などに同社のオブラートが使われる。
過去には「ボンタンアメ」やキャラメル、現在は長野県上田銘菓の「みすゞ飴」などに同社のオブラートが使われる。

オブラートの主原料は昔から北海道産じゃがいもと水。糊化したでんぷんをローラーで延ばして乾燥させる。三宿の本社に工場があった70年代末までは高さ100mの煙突があり、10台ほどの機械が終日フル稼働した。現在の製造拠点は北海道だ。

オブラートの薄さはわずか20ミクロン(0.02㎜)〜50ミクロン。服薬用は薄く、ゼリー用は厚く、キャラメルなど水分の少ない菓子はその中間で作り分ける。が、近年需要が多いのは粉状に加工した粉末オブラートとか。

「やっぱりお菓子用が多いのですが、養殖ウナギの餌という変わった使われ方も。餌が沈むと魚は食べないし水も汚れる。そこで、餌に混ぜ込めば長く浮くと提案したんです」

ただ包むだけじゃないオブラート。この名脇役の可能性から今後も目が離せない。

デラックス200。服薬用のオブラートといえばやっぱりこの丸形! 直径93㎜のシートが200枚入る。少し小さめの90㎜サイズもあり。
デラックス200。服薬用のオブラートといえばやっぱりこの丸形! 直径93㎜のシートが200枚入る。少し小さめの90㎜サイズもあり。
フクロオブラート。こちらも服薬用。四角形のオブラートの1辺を接着して袋状にしたタイプ。粉薬などを中に入れやすく、こぼれにくい。50枚入り。
フクロオブラート。こちらも服薬用。四角形のオブラートの1辺を接着して袋状にしたタイプ。粉薬などを中に入れやすく、こぼれにくい。50枚入り。
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オブラートを使った簡単な薬の飲み方。サプリやカプセルにもぜひ!

コップよりも小さめのぐい飲みなどの器に飲み水を注ぐ。

薬を包んでこぼれないよう口を閉じたオブラートを水の中へ。

10秒ほど浸したら一気に飲む。とろみでスルッとのどを通る。

山元オブラート

東急電鉄田園都市線・世田谷線三軒茶屋駅から徒歩14分
東京都世田谷区三宿1-8-10 山元ビル
☎ 03-3411-8331

取材・文=下里康子 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2025年1月号より

都心へのアクセスが良く、街を行き交う若者たちもイマドキな雰囲気。一方で、商店街には活気があふれ、昭和の色香漂う盛り場も健在だ。さまざまな二面性が混在する街の素顔をのぞきに行ってみた。
猫絵の車両も走る世田谷線沿いの「世界猫の日」に生まれた本屋は、縁あって迎えた保護猫たちが働く。猫につられて来た人が猫を介して本と出合い、猫に貢献できる仕組みがある。人と猫と本がつながって、いのちが輝く場所なのだ。
世田谷通りと玉川通りに挟まれ、その形状から付いた愛称は「三角地帯」。細い路地が入り組み、3坪程度の小さな酒場が密集するのんべえのラビリンスで、常連の推し店を数珠つなぎ——。