桜並木の中心なのに停車場がない。駅の設置を願い続けた村の人々
水と植物が息づく国の史跡、玉川上水。春には両岸に桜が咲き誇り花見散歩が楽しめる。が、昔は今よりもっと大勢の花見客が押し寄せた。
小金井橋を中心に玉川上水の両岸6㎞の間にヤマザクラが植えられたのは、元文2年(1737)。江戸幕府の指示で代官・川崎平右衛門定孝が、奈良県の吉野山と茨城県桜川から取り寄せて植樹したと伝わる。地元農民たちに見守られ、成長していった。
明治22年(1889)、新宿から立川間に甲武鉄道(JR中央線の前身)が開通すると、東京から花見客が押し寄せた。客が利用したのは当時設置されていた「境停車場」と「国分寺停車場」。当然、駅がある武蔵野村と国分寺村には、花見バブルがあっただろう。この様子をうらやましく見ていたのは小金井村の人々だ。桜並木の中心なのに停車場がないのはあまりにも口惜しく、設置を望む声が高まっていった。
最初に「仮停車場設置願」を提出したのは、明治43年(1910)。すぐに却下され、涙。その後も願い続けるが、流れを変えたのは大正11年(1922)の陳情書だ。翌年完成する多摩霊園を訪ねる人にも必要な旨を盛り込んだ。小金井橋から真っすぐ南に想定した駅候補地の地主、磯村貞吉(新潟出身、東京三田育種場主)が土地を提供し、建設費用を寄付したことも実現に拍車をかけた。大正13年(1924)4月11日、まずは、花見時だけの仮駅として開業。仮駅ながら満開の日曜には乗降客が延べ5万5000人を超える繁盛ぶりで、12月には小金井桜が国の名勝に。
さらに村の人々は電車駅として永続してほしいと声を上げ続け、2年後の大正15年(1926)1月15日、誰もが夢みた「通年営業」がかなった。
今、市内あちこちで桜色の旗が旗めき、小金井=桜の印象は揺るぎない。他の植物と共存し桜並木復活を目指す活動も頼もしい。さらに100年後の未来も、この駅から桜さんぽを。
武蔵小金井駅周辺を巡る「駅からハイキング」開催!
2025年3月20日から4月13日まで「『名勝小金井(サクラ)』名勝指定100周年記念 桜のまち小金井を巡るのんびり散歩」と題した「駅からハイキング」が開催される。上で紹介した『小金井市文化財センター』のほか『江戸東京たてもの園』などを巡る、小金井の桜が堪能できるコースだ。受け付けは9時30分から11時に『わくわく都民農園小金井』にて。毎週月曜日は開催なし。事前予約不要。
桜さんぽと合わせて行きたい名店3選
のびのび育つ幻の赤身牛を気軽に味わう肉の店『あいたい屋』
お手頃価格のステーキで知られるが、店主・益田智史さんが今最も推すのは、豊かな自然の中で健康的に育つ「いわて山形村短角牛」。しなやかに引き締まったヘルシーで滋味深い赤身が特徴だ。益田さんはこの牛にほれ込み、「産地とつながって畜産の活性化を考えたい」と、ついに牛を所有。飼った牛の名が、なんと「さくら」!
色も味わいも自然のまんま。地元農産物でつくる冷菓『和風ジェラートおかじTOKYO』
小金井産の果物や野菜を使った季節感のあるラインアップに心躍る。香料や着色料、卵を使わず、果物のジェラートは牛乳も不使用なので素材をダイレクトに感じる。冬のおすすめは、「小金井焼き芋」。市内の畑から掘ったサツマイモを遠赤外線で焼き上げた焼き芋のほっこり感に、ほっ。春には季節限定の「さくらジェラート」が登場する。
まちの魅力を和菓子で表現。名勝ゆかりの銘菓誕生『亀屋本店』
1949年創業の地元が誇る和菓子店。お茶のお供におだんごを、手みやげに銘菓の詰め合わせと、日常に欠かせない大切な存在だ。新しい商品の開発に積極的に取り組む代表の斉藤浩さん。「100周年おめでとうの気持ちを込めて、記念に小金井みやげを考案しました」。満開の桜が描かれた歌川広重の錦絵をまとった包装でお目見え。
取材・文=松井一恵 撮影=加藤熊三 写真提供(武蔵小金井駅駅舎)=JR東日本三鷹営業統括センター イラスト=杉崎アチャ 協力=JR東日本三鷹営業統括センター
『散歩の達人』2025年2月号より