締めくくりは現状のまま保存されたホッパーと数々の貨車たち
時間はすっかり夕方になってしまいました。直線の道を進むと、徐々に広い空間となり、左斜面にコンクリート構造物が埋まっています。何かの工場の基礎か? といぶかしんでいると、前方に突如として現れるホッパーと貨車の保存車!
いきなりの登場に、少々驚いてしまいます。終点旧太子(おおし)駅の遺構です。
太子駅は廃止後に解体され、線路の車止めとホッパーの基礎が残されました。ホッパーは半分埋もれていましたが、中之条町が産業遺産の保全と継承のため整備し、2018年に駅舎を復元。
遺構の保存とともに、大井川鐵道、静岡鉄道などから貨車を譲り受けて、旧太子駅を再現した鉄道公園となっています。
何やってんだという話なのですが、鉄道公園は復元駅舎の資料館も兼ねた有料施設で、16時に閉まってしまいます。訪れたときはすでに閉館後。
ああ……無計画。道中で萌え萌えしすぎたのがいけなかったか。
とはいえ、柵の外側から眺めることはできます。再現されたホームと線路には、これまでもかと貨車が保存され、トラック荷台のような無蓋車がランダムに並んでいます。そして背後には朽ちかけた姿で保存されているホッパー。一部のコンクリートは剥がれて、鉄筋が剥き出しになっていますが、綺麗に整えずそのままの姿で保存されているのに好感が持てます。
遺構のまま保存するのは難しいことですが、ホッパー内部を立入禁止しながら、現状の姿を見せることで、この場所で鉄鉱石の積み出しが行われてきた歴史を伝えています。
資料室や貨車に触れ合うことは叶いませんでしたが、ときおり雨が降るなか、剥き出しの鉄筋をあらわに、しっとりとした姿を見せるホッパーに見惚れていました。
等間隔に並ぶコンクリートの柱が、神殿の回廊に見えてくる……。
最後に、高台にある駐車場へ移動します。
旧太子駅の周囲は山あいの地域ですが、この駐車場周辺は広い平地となっていて、もともとはホッパーへ直結する積み出し施設があったのではと思われます。柵越しにホッパーの上部も観察でき、鉄鉱石を貨車へ流し込んでいた穴も開いたままでした。
いつしか雨も止み、山間には雲が流れていきます。水墨画を思い起こさせる光景にたたずむホッパーの姿。しっとりとした深い味わいの空気が流れていました。
長野原草津口駅の先から断続的に続く遺構は、一部立入禁止のところもありますが、おおむね終点の太子駅跡まで巡ることができます。
自転車やハイキングでもちょうど良い距離なので、涼を求めて訪れてみてはいかがでしょうか。
<おまけ>駐車場にも保存貨車がある
JR四国多度津工場で保存されていたワラ1形有蓋貨車のトップナンバーが、太子駅跡へ移設保存されている。
取材・文・撮影=吉永陽一