専業主婦だったオーナーがゼロから始めた、本格マレーシア料理店
2023年6月のオープン以来、ランチタイムは常に多くの人でにぎわっている『The Kopitiam Hongo』。
「ありがたいことに、口コミが口コミを呼んで、最近ではたくさんのお客さんがうちのマレーシア料理を食べに来てくれます。今の狭いキッチンだと料理の提供が間に合わなくなりそうで、近々内装のリニューアル工事をしたいと考えているほど!」
チャーミングな笑顔で語るのは、オーナーのKayさん。
来日半年後からアメリカ系企業のアジアパシフィック部門で勤務した後、しばらくしてから夫の仕事の関係で、中東の砂漠地帯に住んでいたこともあったそう。
「中東時代は娯楽も少なかったけど、当時ホームパーティーで友人にマレーシア料理をふるまうと、皆すっごく喜んでくれて。親しい人達が、自分の料理を“おいしい”って言ってくれるのが、とにかくうれしかったんです」
その後、再び家族で日本に戻り、しばらくの間は専業主婦として日々を過ごした。しかし、ふつふつと湧き上がる自身のある想いに気づいたそうだ。
「“小さなお店でいいから、自分でマレーシア料理店をやってみたい”という夢を抱いていることに気づいたんです。知人だけでなく、もっと色んな人に母国料理のおいしさを知ってもらいたい。でも、私は料理好きなだけで飲食経営の経験はないし、最初はなかなか踏ん切りがつきませんでした」
しかし、レストラン経営のノウハウを持つ友人が後押ししてくれたことが引き金となり、Kayさんは一念発起して『The Kopitiam Hongo』を始めることにした。
「最初はとにかくがむしゃらに勉強しました!本当にたった一人で立ち上げたお店だから、もう想像以上に大変で。でも、サービス業の知見が深い甥っ子を始め、身近な人たちからの手厚いサポートのおかげで、今では少しずつ常連のお客さんも増えてきましたよ」
熱烈なファンも多いというこの店の本格マレーシア料理、一体どんな味わいなのだろうか?
どこか懐かしさを感じる、丹精込めて作られた海南鶏飯
今回注文したのは、マレーシアの定番屋台料理として知られる海南鶏飯1080円。毎日ランチ営業開始早々に完売してしまう、お店の看板メニューだ。
しっとりジューシーな茹で鶏は、やさしい味わいながらも鶏の肉々しさをしっかり感じられる、非常に満足度の高い仕上がり。手間暇かけて作られたであろうことを一口食べただけで実感できる。
自家製チキンスープで炊いたご飯にも、コク深く濃厚な鶏の旨味が凝縮されている。チキンスープについて聞くと、鶏の茹で汁に大量の鶏ガラを入れて、Kayさんが手間暇かけて作っているのだそう。
それぞれの味がしっかり際立ちつつ、チキンとライスを一緒に食べると相乗効果で一気に味に深みが増す。アジアの風を感じるこのランチ、かなり中毒性が高い。
新鮮なサラダと鶏出汁がしっかり効いたスープも、もちろん絶品。エスニックテイストでありながら、どこか懐かしさを感じるから不思議だ。
「食材はできるだけ日本産にこだわっています。お米も日本米なんですよ。日本の皆さんに、安心・安全にお料理を楽しんでもらいたいから、あえてそうしています。日本の食材を、私流にマレーシアの味に整えるのがうちの店のスタイル!」
日本とマレーシアのいいとこ取りをしたKayさんの料理は、ボリューミーながらもあまりのおいしさにぺろりと完食してしまった。
一流の情熱を注いで作る、家庭料理ベースのマレーシアの味
『The Kopitiam Hongo』の味のルーツは、Kayさんの祖母が作る家庭料理にあるそう。
「マレーシアにいる祖母が、昔からとっても料理上手で。祖母が作るマレーシア料理は、ちょっと中華風のエッセンスがプラスされていて、本当においしいんです。だから私が店で出す料理はどれも、祖母の味を自分なりに再現したものばかり」
最近ではアルバイトを雇うようにもなったが、料理については今も全てKayさんの手作り。味がブレることがないよう、Kayさん自身の繊細な感覚を重要視しているんだとか。
「料理を作る時、“大さじ何g”とか、調味料の計量はしないんです。自分で味見して、納得のいく味になるまで微調整を続ける感じ。家庭の味を人に再現してもらうのはどうしても難しいから、今後どんなに忙しくなってもこのスタイルは変えないと思います」
「毎日が怒涛過ぎてたまにめげそうになるけど、お客さんが“おいしい”って言ってくれると、“よし頑張ろう”ってスイッチが入っちゃう(笑)。あとは自分の息子にも、やればできるっていう母の背中を見せたくって」
母国の味にとことんこだわるKayさんのマレーシア料理には、味へのこだわりだけでなく、Kayさん自身のポジティブパワーまでもが反映されているように思う。
抜群においしいマレーシア料理と、チャーミングでパワフルなKayさん。魅力あふれる名店を、ここ本郷三丁目で見つけてしまった。
取材・文・撮影=杉井亜希