訪れる人の目も変わる、街は素材の宝庫
浅草橋駅近くのビルの一室で、しめ縄リース作りを体験した。畳表をほぐし、束ねて、ねじり編み、畳のヘリやリボンを組み合わせる。初めは不慣れな手先に辟易したが、気づけば無心になれた爽快感とそれなりの出来に満足できた。「この街はハンドメイド材料が揃う問屋街。歩くだけでもインスピレーションが湧く街です」と、『ハンドメイドワークショップみちくさアートラボ』のシイナさんも言うように、どんなぶきっちょでも手作り欲をムズムズさせる。これが浅草橋マジックか。
カレー目当てに入った『葉もれ日』では、店内の隅にいくつも欄間が立てかかっている。「廃業した親族の在庫品を引き取り売っているのですが、作家さんが作品に使ったり、バーのテーブルに使われたりと、用途が面白くて」と山口斗夢さん。街は素材の宝庫。訪れる人の見方も違う。なんともハンドメイドの街らしい。
プロ相手の問屋が集まるからか、人形、玩具、文具の分野が強いからか、はたまた秋葉原の隣だからか、街のマニアックな匂いもたまらない。『ステッチリーフ』はルーズリーフの専門店で、大人も使いやすいA5サイズが豊富。好きな色の表紙やステッチを選べるオリジナルのバインダー、作ってみようかな。
『東京タロット美術館』は玩具問屋で創業した会社が開くミュージアム。タロットは占いの道具としか思わなかったけど、アートとしてこんなに楽しめる多彩さがあったとは!
同じカードでも『うそのたばこ店』はトランプだ。タバコと見せかけてトランプを売る……だけでなく、併設する喫茶メニューも風変りで、なんとハンドドリップコーヒーは無料と有料(450円)が選べる。「でも不本意ながら9割方は払ってくれるんですけどね。お客さんは若い人が多くて、トランプやマジックに興味を持つ小学生も来るんです。そんな子にお金を出してもらうのも申し訳なくて」と大川原脩平さん。指触りよく素人でもきれいに広がる見本のカードをいじっていると、マジックの一つでも覚えてみようかなという気になってくるから不思議だ。
路地裏の『ティランジア・ガーデン』では、築60年の建物内に広がるエアプランツの“庭”に目を見張る。土を必要とせず生きる神秘さと、よく見れば異なる個性に興味津々。愛しい子を見つけてお持ち帰りと相成った。
知らない世界にも踏み込まずにはいられない。この沸き立つ好奇心が浅草橋マジックのなせる業なのかも。
タバコが並んでいるかと思いきや……。『うそのたばこ店』
常時150種ほどのトランプを取り揃える販売店兼カフェ。水曜はマジシャンの客が練習に来ることが多いので、運がよければカードマジックを目にできるかも! 現金不可。土・日のイベント時は料金体制に変動あり。
・13:00~18:00(金は~22:00)、月・火休
・☎03-5829-6442
古きよき建具の趣とご一緒に。『葉もれ日』
築80年の酒屋だった建物をリノベーションしたカフェ。建具などが大切に残された店内では、和風出汁でさらさらのスパイシーチキンカレー800円やインドの豆を輸入した自家焙煎コーヒー600円が味わえる。欄間や組子の小物も販売。
・11:00~18:00、月休
・☎03-6339-9139
何気ない街風景が絵はがきに。「望月印刷」
創業明治38年(1905)の印刷会社に絵はがきの無人販売あり。2023年に生まれた「うさもの台東さんぽ」シリーズは、なんと総務社員が作画。会社のキャラクターと共に描かれるのはおかず横丁に柳橋、忍岡高校などの風景だ。1枚100円。
・9:00~17:00、土・日・祝休
・☎03-3851-9281
思い立ったら気軽に『ハンドメイドワークショップ みちくさアートラボ』で手作り体験!
紙袋を使ったバッグ、ネクタイで作る雑貨などがハンドメイドできるアトリエ。講師のシイナさんが指導する講座は月に20種類ほどで、1回2時間で完結。材料も完備なので手ぶらで気軽に参加を。要予約。
・10:00~12:00・14:00~16:00、不定休
・詳細はmichikusaartlab.com
散歩のお供にも“ちょうどいい”! 『Pretty Good』
生地から店で手作りするドーナツ店。注文を受けてから揚げるシンプルなあげたてドーナツ330円をはじめ、ラインナップは常時約10種類。香川直送のイチゴを使ったストロベリーフラッフィー650円は冬のおすすめだ。アイスラテ500円。
・9:00~18:00、無休
・☎03-5829-6470
『東京タロット美術館』は国内唯一の専門ミュージアム
50年以上タロットの輸入に携わる会社が2021年に開館。絶版品から最新カードまで約500種を展示・販売。お茶のサービスでゆっくりと鑑賞を。入館800円。
・10:00~19:00(土は9:00~18:00。最終入館は1時間30分前)、日・祝休
・www.tokyo-tarotmuseum.artで要予約
しゃれた雑貨屋のような野菜屋さん。『ベジラボ柳橋』
千葉や奈良、長野、沖縄など日本各地の農家から安心で新鮮な野菜・果物が直送される。卵や調味料のほか、信州のテンペの唐揚げとモリモリ野菜のベジラボサラダ1078円などの自家製総菜も。2024年1月には蔵前にも支店がオープン。
・10:00~19:30、日・祝休
・☎03-4361-8736
今日はどんなパンと会えるかな? 『HARU*BOUZ』
増田晴弘さん、由紀さん夫妻が20年営む小さなパン店。毎日100種近く焼き上げるが「一度に作れないし置けないから」と、時間帯で並ぶ“顔”が違う。お目当てがあれば取り置きを頼もう。雪だるま180円、アスパラとベーコン300円。
・8:00~18:00、土・日・祝休(第2土は営業、8:00~15:00ごろ)
・☎03-3851-8266
もっと自由なルーズリーフ! 『ステッチリーフ』
ルーズリーフのアレンジを提案したい、と文具メーカー出身の桃井淳さん夫妻が開くルーズリーフ専門店。自分だけのバインダーが作れ、オリジナルのルーズリーフやインデックスも豊富に揃う。妻・まやこさん作の見本も必見!
・11:00~18:00、水・不定休
・☎03-6877-0853
愛しくなるエアプランツ。『ティランジア・ガーデン』
原種だけで1000種あるパイナップルの仲間・ティランジアの専門店。愛好歴20年の橋本洸生さんが大切に育てる中には1つ500円~で、ガルドネリー・ルピコラ9万円などの希少種も。ペットのヒョウモントカゲモドキもいるぞ。
・12:00~18:00(日は~17:00)、金・土・日営業
・☎なし
瓶詰めしたてを買えるかも? 「ベクターブルーイング」
新宿で始めたマイクロブルワリーが2018年に構えたビール工場。日本酒酵母を使った冬限定の武者ねこぱんちなど、味もラベルもユニークなエールビールを月8000ℓ製造。直売は1本500円、4本買えば1本無料だ。
・10:00~18:00、日・祝休
・☎03-5809-1821
街の人の憩いの場として半世紀。『喫茶 有楽』
装飾や家具に昭和を感じる1973年創業の純喫茶。2代目が加わった2011年からランチが充実し、昼は働きマンの胃袋を満たす。ナポリタンはスープと飲み物が付くランチセットで820円。
・7:00~18:00(第1・4・5土は11:00~16:00)、第2・3土・日・祝休
・☎03-3861-9570
取材・文=下里康子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2024年2月号より