とろーりまろやか、優しい味わいのローストビーフ丼
店内には木目のカウンターテーブルと、ガス灯のような優しい光の照明がまっすぐに広がる。なんだか、大きな木の上に作られた秘密基地みたいだ。
その奥から、この店を一人で切り盛りする西村佳美さんが笑顔で出迎えてくれた。
今回は『SORRISO』の看板メニューの一つ、ローストビーフ丼950円を注文。ランチメニューにはミニデリ(ミニサラダ)がセットになっているのがうれしい。
形のよい赤身部分のみを使った自家製ローストビーフ。都内の焼き肉店にも卸しているという、なじみの肉問屋から仕入れて作る。
脂身がなく薄切りながら、お肉の歯応えがちょうどよく残っている。そこに温泉卵がとろりと絡み、赤ワインと醤油ベースのまろやかなソースも後を追う。後半戦はホースラディッシュ(西洋わさび)で味変するのもおすすめ。
全て優しい味つけなのに、不思議とご飯が進む進む……。低脂質・高タンパクのローストビーフに、シャキシャキのサラダ。食べ応え100%、罪悪感0%なランチだ。
目立たなくても、お客さんは引き寄せられてやってくる
ドリップコーヒーは、「すっきりめ」と「しっかりめ」の2種類。このシンプルな選択肢はありがたい。
「飲み物はマグいっぱいに淹れて提供しています。このたっぷりのコーヒー片手に、1時間ぐらいパソコン仕事に没頭している人を見ると、思わず見守ってしまいますね。頑張ってるなぁ……って」と話す西村さん。
西村さんの実家も飲食店で、自身も当たり前のように飲食の道を志したのだとか。都内のイタリアン料理店で経験を積んだ後に独立。ここは満を持して手に入れた、西村さんのお城だ。
実は、2014年のオープンから6年ほどはイタリアンバルとして運営していた。しかし2020年にコロナ禍と自身の出産を迎え、社会の状況も西村さんの暮らしも一変。それをきっかけに、日中に無理なく運営できるカフェバーに変更したのだとか。しかし、本当は学生時代からカフェを運営したかったという西村さん。偶然がいくつも重なり、一番の夢を叶えてしまったのだ。
「一人で十分運営できるように、こぢんまりとしてあまり目立たない場所を選んだんです。最初は周りに心配されましたね。いくら都内でも、3階の飲食店なんてうまくやっていけるの?って」
しかし心配ご無用。会社やお店が多い門前仲町。12時台にはカウンター9席が満員になり、13時以降も遅めのランチを探し求めたお客さんがやってくる。
「正直私も、お客さんはどうやってここを見つけてくるんだろう?って思います」と笑う西村さん。
お客さんの声から生まれたメニューも。愛し愛される隠れ家カフェ
知る人ぞ知る『SORRISO』。お客さんの目的は、どうやら料理だけではないらしい。
「私、よっちゃんって呼ばれてるんですけど、『今日はよっちゃんの顔見に来てみたよ』なんて言って来てくださる人も多くて」
平日のランチタイムは回転が速く、午後は仕事に静かに打ち込む人が多め。その一方で、土曜の日中などはお客さんとのおしゃべりに花が咲くという。
そんなお客さんへの恩返しか、お客さんの声をもとに生まれたメニューも多い。
はじめはトーストなどの軽食のみ提供していたが、次第に、しっかりお昼を食べたいお客さんが増えてきた。そこから、ローストビーフ丼やカレー、冬季メニューのスープランチを開始。ちなみに夏季メニューのサラダボウルランチは「野菜をいっぱい食べたい」という常連さんの声を聞いて考えついたそう。
「都内の名店になれる自信はないですけど、お家でのご飯よりちょっと特別な気分になれたり、私との何気ない世間話を楽しみに来てくれたり……そんな場所にはなれているのかな、と思うんですよね」
三ツ星レストランになれなくてもいい。「ただいま」と気軽に会いに来られる空間でありたい――。西村さんはそんな思いを語ってくれた。
これは『SORRISO』が隠れ家じゃなくなる前に通わないと……! 自分しか知らない行きつけカフェにしてもよし。大切なあの人にだけこっそり教えて、一緒に行ってみるもよし。さあ、あなたならどうする?
取材・文・撮影=aki