まるでSF映画のような工場夜景 その魅力とは?

夜景といえば、真っ先に思い浮かぶのはキラキラと輝く高層ビルやタワー、観覧車などの街並みではないでしょうか。ところが、2008年頃から突如、一風変わった夜景が観光スポットとして名をあげました。それが全国各地にある夜の工業地帯、いわゆる「工場夜景」です。首都圏では神奈川県川崎市や横浜市の工場夜景クルーズが人気ですが、福岡県北九州市や三重県四日市市、北海道室蘭市なども有名スポットとして知られています。

しかし、工場夜景は今も昔も決して観光地としては整備されてはいません。夜なのに工場でいくつもの明かりが付いているのは、あくまでも安全に操業するためです。精密な機器が無数にある工場では、夜も昼と同じくらいの明るさで十分に点検を行う必要があるのです。

とある秋の宵の時間。私も工場夜景の魅力を知りたいと思い立ち、その発祥の地といわれる川崎市の工業地帯を散歩することにしました。正直なところ、まさか工場を見に出かける日が来るなんて……と若干の不安を抱えていましたが、初めての体験を前に日暮れ前になると胸が高鳴りました。

さて、夜の浜風に吹かれながら歩いていくと、目の前に現れたのは、むき出しの配管が煌々と明るく照らされる、数々の巨大な工場群です。この風景はSF映画の舞台や昔アニメで見たような近未来都市のようで、何だか謎の宇宙人が現れて別世界へ連れていかれそうな感覚になりました。

 

数々の工場で輝く光はシンプルそのもの。これまでに見てきたロマンチックに輝く街の夜景と違って、こちらには1ミリも興味を示さない無骨さが滲み出ているのです。それに、ゴウゴウと休む間もなく聞こえる機械の音も工場夜景だからこそ体験できるものだと実感しました。

この夜景の魅力は、ひたすら己のなすべき仕事に打ち込む職人の美しさに似ているのかもしれません。

寒い季節こそ工場夜景観賞にぴったりなのはなぜ?

寒くなる季節こそ、工場夜景を見るのにおすすめしたいのには気象条件に理由があります。

まず、首都圏など太平洋側の地域では、秋から冬は「西高東低」の気圧配置になりやすいため、晴れて湿度が低い空気の澄んだ日が増えます。

すっきりと晴れた日には、工業地帯で輝く光を遠くまで見渡すことができ、景色にもメリハリが生まれやすくなります。

「西高東低」の気圧配置。秋から冬に現れやすく、太平洋側ではカラリと晴れることが多い。 ※ウェザーマップ提供
「西高東低」の気圧配置。秋から冬に現れやすく、太平洋側ではカラリと晴れることが多い。 ※ウェザーマップ提供

工場夜景の見どころとして、煙突から立ち上る水蒸気は見逃せないポイントですが、これは秋から冬だからこそ存分に楽しめます(モクモクと白く流れる姿は煙のようですが、煙ではなく水蒸気です)。

気温の高い夏よりも、気温が低い秋や冬の方が、水蒸気が冷たい空気の中で冷えて、はっきりと目に見えやすくなるのです。これは空に浮かぶ雲や露天風呂の湯気が生まれるのと同じ仕組みです。寒い時に吐く息が白くなるのもそうです。冷え込みが強まる季節なら、ばっちりと写真映えするでしょう。

日暮れの早い季節ならではのメリットも

また、秋や冬は日が暮れるのが早いため、早い時間帯から夜景を楽しめることもメリットです。工場夜景として親しまれる一帯は観光スポットではないため、バスや電車などは夜遅くまで運行していないこともあります。川崎市など首都圏の工場夜景の場合、早めに楽しんで早めに帰るなら、帰宅の際も公共交通機関を利用できます。ただし、早い時間に訪れる場合でも、イルミネーションなどの観光地とは違って、街灯が少ないため足元を照らすライトは持っていた方がいいでしょう。

必ずルールを守って!安全に工場夜景散歩を楽しもう

工場夜景での散歩を楽しむためには守らないといけないルールがいくつかあります。

当然ながら工場内には入ってはいけませんし「立ち入り禁止区域」とされている場所に近付くのもやめましょう。必ず歩道や橋の上、高台などを歩いて、写真撮影をする場合は工場の門前などでの撮影は控えてください。

また、夜遅くなると人通りが少なく暗いため、なるべく複数人で早めの時間に出かけることをおすすめします。ルールをきちんと守って、工場で働く人や周辺の住民の人にも迷惑を掛けないように、いつもと一味違った散歩を楽しんでみてください。

写真・文=片山美紀

参考:
「ゼロから学ぶ工場夜景写真術 撮影テクニックと全国厳選スポット72」 アスペクト 岩﨑拓哉
「観光不毛の地からの逆転劇-川崎工場夜景のヒミツ」 文芸社 亀山安之
大竹市ウェブサイト 夜の工場が美しい理由