やさしさに包まれる味わいのパンとドーナツ

『チガヤ蔵前店』パン販売エリア。
『チガヤ蔵前店』パン販売エリア。

木のドアを入ると、目の前においしそうなパンやドーナツがずらりと並ぶ。ワクワクしながらトングを持って、目移りしながらトレーにパンを載せる。レジでチャイを注文すると、温めなおしてカットしてから持ってきてくれるとのこと。細やかな気配りがうれしい。

『チガヤ蔵前店』店内。
『チガヤ蔵前店』店内。

うきうきと店内や窓の外を眺めることしばし。温められたパンとドーナツがチャイと共に運ばれてきた。

メープルクリーム450円、カレーピザ450円、プレーンドーナツ250円、チャイ713円。
メープルクリーム450円、カレーピザ450円、プレーンドーナツ250円、チャイ713円。

カレーピザ450円は、辛すぎず軽い食感。7種のスパイスを使用した自家製カレーの風味とチーズがよくマッチする。サクサクとして、噛むほどにカレーの香りが立ってくる。

メープルクリーム450円は『チガヤ蔵前店』で人気No.1のパン。もっちりとしたパンと自家製メープルクリームチーズが相性抜群だ。イチジクの酸味が甘いメープルクリームチーズとパンの味を引き立てて、香ばしく歯触りのいいクルミがアクセントに。リピーターが多いのも納得だ。

プレーンドーナツ250円はシンプルでひたすらにやわらかく、とにかく優しい甘味のふんわり食感。ふっくらとした生地にお砂糖のざらつきがうれしい。シンプルでどこにでもありそうだけど、実はなかなかないタイプだ。

カップの色合いもかわいらしい。
カップの色合いもかわいらしい。

ライトグリーンのポップなカップに入ったチャイはポットとともに運ばれてくる。蔵前にあるインド食材のお店で仕入れたスパイスを煮詰めて一から作られたチャイは、複雑な味のハーモニーを奏でているが、それでいて主張は強くなく、寄り添うテイストだ。ポットの分もあっという間に飲んでしまう。

「かわいい」のきっかけはオランダのカフェ

『チガヤ蔵前店』レジ前ショーケース。
『チガヤ蔵前店』レジ前ショーケース。

壁に並んだ小物、ランプシェード、タイル、裸電球、チェスト、手書きの文字、店内のどこを見渡しても「かわいい」という声がこぼれでる。

「少し照れくさいけど、純粋にかわいいと思えるお店を作りたいと思いました」

と語る仲山さんは元々スタイリストとして海外での生活も長く、色々な国を回ってきた。そのなかでオランダで出合ったカフェに衝撃を受けたという。

「女性オーナーのお店で、全てが柄物だし、壁にはバービーがいて、とにかくおもちゃ箱みたいなカフェでした。好きなものだらけで突き抜けてる印象なんです」

そのときの衝撃から、自分がかわいいと思う雰囲気をとことん追求したカフェを作ることにした仲山さんのこだわりは細部にまで至る。内装も全て自分で決めたそうだ。

「真新しい感じは少し苦手なので、床はダメージがあるような色合いにしました。壁も2回ほど塗りなおしてもらいましたけど、イメージ通りにはいかなくて、結局自分でやりました。使い込んだような、時が経ったような少しデコボコとざらついた感じにしました」

『チガヤ蔵前店』内装。
『チガヤ蔵前店』内装。

パンは全部ここで焼いていて、飲み物もここで一から作っている。

「パンを選ぶとき、大人は大きいものとかいっぱい入っていそうなものを手に取る傾向があるんですけど、子どもは変なものやおもしろそうなものを選んだりします。私も少しいびつな感じが好きなので、子どもが選びそうな少しいびつでおもしろいものを作りたいですね。全て均一にするのなら工場で生産すればいいですし」

手書きの値段が書かれたショーケース。
手書きの値段が書かれたショーケース。

飲み物にもこだわりがある。『チガヤ蔵前店』はあくまでベーカリーで、メインはパン。だから飲み物もパンを邪魔せずパンに合うようにしているという。

本日いただいたチャイもスパイスの味はしっかりと感じられたけど、パンの味を邪魔するようなことはなかった。

「コーヒーを淹れるときもシングルにはせずブレンドですね。中煎りで主張しない味にします。流行りの浅煎りは果実味など味の主張が強めの傾向があるし、あまりパンには合わないと思うのでやりません。あと、飲み物といえば、海外の人はラテのフォームにパンやドーナツを浸して食べたりするんですけど、日本ではあまりやりませんね。おいしいのでお勧めなんですけど。スコーンなんかはむしろ浸さないと硬いですし」

『チガヤ蔵前店』でパンとラテを注文した時はぜひパンをディップしていただこう。

かわいさにどっぷり浸れる『チガヤ蔵前店』

入り口。
入り口。

足を踏み入れた瞬間からかわいさに包まれる『チガヤ蔵前店』。

「帰るときにいい気分でお店を出られる、そんな場所にしたいです」と仲山さんは微笑む。この店ではパンを選ぶときも、運ばれて来るのを待つときもわくわくをくれる。ちょっといびつでおもしろいパンを、ラテに浸して食べればそれだけでうきうきした気分になれるだろう。

「かわいい」に囲まれて、お店を出るときはもっと元気になれる『チガヤ蔵前店』はそんなお店だ。

住所:東京都台東区鳥越2-8-11/営業時間:8:00~18:00LO
/定休日:無/アクセス:地下鉄蔵前駅から徒歩8分

取材・文・撮影=かつの こゆき