八王子の日本遺産「桑都物語」とは?

地域の文化財群を含めその歴史的魅力や特色をストーリーとしてまとめ発信する、文化庁の認定制度である日本遺産。現在、全国で104件が認定されるうち、八王子のストーリーは「霊気満山 高尾山~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」。高尾山、八王子城跡、多摩織、八王子芸妓、桑都の銘酒など、桑都の歴史の中で育まれた30件の有形・無形の文化財で構成される。

より詳しく知るには……『桑都日本遺産センター 八王子博物館』(はちはく)

●JR八王子駅南口から駅直結のサザンスカイタワー3F。
10:00~19:00、無休(臨時休あり)。入館無料。☎042-622-8939

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黒塀の街並みで広がるチャレンジ精神

江戸時代には絹織物を扱う市「紬座」でにぎわい、昭和初期には織物産地の中心地となった八王子。まずは、1980年に国の伝統的工芸品に指定された「多摩織」を学びに『多摩織工芸館』へ。多摩織とは地域で受け継がれた5つの伝統的技法による織物の総称で、八王子織物の長い歴史の集大成。軽くてしわになりにくく、日常使いに重宝されたそう。手織り体験で織れるのは初歩的な平織だけれど、足踏みと糸を通す順番を間違えそうでハラハラ。でもゆっくり続けるうちに慣れて楽しくなってくる。

JR八王子駅北口から続く桑並木通り。街路樹に桑の木が用いられるのは全国でも珍しいという。
JR八王子駅北口から続く桑並木通り。街路樹に桑の木が用いられるのは全国でも珍しいという。

織物業の商談の場として生まれたのが八王子の花街。中町には今も見番、置屋、料亭が健在だ。一見では入るのをためらいそうだが、芸者文化に気軽に触れられる「芸者テラス」なる試みも。昭和の最盛期には200人以上いた芸者衆も「今は13人くらい」と成華さん。八王子芸者は親しみやすさが魅力。お座敷遊びだけでなくこうして歓談できるのはうれしい。

また、黒塀の料亭にはまさかの酒蔵も。「日本一小さい規模ですが、年中、小ロット製造できるのでいろんなチャレンジをしたい」と代表の西仲鎌司さん。そういや『桑都日本遺産センター 八王子博物館』でも、「八王子織物はウールを使ったり新しい織物に挑戦して発展した」と聞いたっけ。桑都の歴史を訪ねれば、八王子人のチャレンジ精神も感じられずにはいられない。

●10:00~19:00、第4水休。

蔵のような『まちなか休憩所 八王子宿』。座席やトイレ完備で、地元産の桑茶ほか飲料も買える。
蔵のような『まちなか休憩所 八王子宿』。座席やトイレ完備で、地元産の桑茶ほか飲料も買える。

多摩織工芸館

伝統工芸士に教わる手織り体験

使うのは木製の足踏み式手織り機。左は伝統工芸士の澤井伸さん。「小学4年生からできるから安心して!」
使うのは木製の足踏み式手織り機。左は伝統工芸士の澤井伸さん。「小学4年生からできるから安心して!」
お召織、風通織、紬(つむぎ)織、綟(もじ)り織、変り綴(つづれ)織と5品種ある多摩織。
お召織、風通織、紬(つむぎ)織、綟(もじ)り織、変り綴(つづれ)織と5品種ある多摩織。
多摩織に多いという、ずらし絣柄。
多摩織に多いという、ずらし絣柄。

「八王子繊維貿易館」に開かれた多摩織の紹介施設。月2回の開館日には手織り体験のワークショップがあり、多摩織の伝統工芸士から指導を受けながら1時間半で長さ約30㎝の絹織物を作ることができる(要予約、2000円)。織機のほか、経糸(たていと)を整経する台や絣(かすり)ずらし機など、織る前に必要な機械や道具なども展示。開館日以外の見学希望は2階の八王子織物工業組合へ。

●9:00~17:00、土・日・祝休。
☎042-624-8800

坂本呉服店

八王子生まれの着物との出合いも

一面ガラス張りで開放的な店内。国産スーツ地を使った着物もある。
一面ガラス張りで開放的な店内。国産スーツ地を使った着物もある。
八王子の作家・中村眞弥子さんの作品をプリントした着物(反物)4万9500円。
八王子の作家・中村眞弥子さんの作品をプリントした着物(反物)4万9500円。
多摩織伝統工芸士・𠮷水壮吉さんの紬織や石塚染工の江戸小紋なども。
多摩織伝統工芸士・𠮷水壮吉さんの紬織や石塚染工の江戸小紋なども。

呉服店とは思えないブティックのような店内には、普段着をメインとしたモダンな織りや染めの着物、帯、小物が並ぶ。2023年で創業90年だが、2018年より老舗茶舗の敷地をリノベーションした複合施設『ajirochaya』に移転した。3代目店主・坂本直美さんの八王子愛も反映されて、八王子在住のアーティストや職人が手がけた品も取り扱う。丸洗いやお直しにも対応。

●10:00~17:00、火・水休。
☎042-649-3748

桑都テラス/芸者テラス

芸者文化がもっと気軽に身近に!

昼の部は彩りよい弁当付きで5500円。「髙尾の天狗」純米吟醸900円(300㎖)も飲める。
昼の部は彩りよい弁当付きで5500円。「髙尾の天狗」純米吟醸900円(300㎖)も飲める。
お座敷遊びの定番「金毘羅船舟」をすずめさんと勝負。
お座敷遊びの定番「金毘羅船舟」をすずめさんと勝負。
成華さんの三味線に合わせて鼓と鐘の演奏に挑戦。
成華さんの三味線に合わせて鼓と鐘の演奏に挑戦。

八王子の伝統文化の発信の場として、置屋や料亭の跡地に2022年11月にオープンした『桑都テラス』。飲食・物販・広場・大広間からなる複合施設では定期的に催しもあり、月1回程度「芸者テラス」を開催(要予約、昼・夜あり)。八王子芸者の舞踊やお座敷遊びを食事付きで体験できる。2023年内は10月24日、11月21日、12月19日の予定。

●施設は10時開店で営業時間は店舗により異なる、月休(祝の場合は翌火休)。
☎042-686-0500

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『八王子美髪店』は、八王子芸妓組合が運営する髪結処。芸者衆の髪を結い続けて55年の美容師・川嶋律子さんが技術の継承を行いながら店に立つ。一般の髪結やカットも可。

●9:00~15:00、日休。
☎042-624-7372

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黒塀に柳が並ぶ風情あふれる中町を歩けば、芸者さんの姿も。写真はお座敷に向かうすずめさん。「八王子花街には他にもたくさん魅力があります」
黒塀に柳が並ぶ風情あふれる中町を歩けば、芸者さんの姿も。写真はお座敷に向かうすずめさん。「八王子花街には他にもたくさん魅力があります」

東京八王子酒造

東京で10番目! 料亭に生まれた前代未聞の酒造

立派な柳に見守られ黒塀に開かれた『東京八王子酒造』。隣は料亭『すゞ香』の入り口。
立派な柳に見守られ黒塀に開かれた『東京八王子酒造』。隣は料亭『すゞ香』の入り口。
麹室にて代表の西仲鎌司さん(右)と杜氏の磯崎邦宏さん。「軽やかで、新しい飲み口の酒を探求しています」
麹室にて代表の西仲鎌司さん(右)と杜氏の磯崎邦宏さん。「軽やかで、新しい飲み口の酒を探求しています」
ショップでは生原酒の量り売りをはじめ、酒粕やわさび漬け、オリジナルTシャツや帽子も販売予定。
ショップでは生原酒の量り売りをはじめ、酒粕やわさび漬け、オリジナルTシャツや帽子も販売予定。
醸造所で櫂入れする磯崎さん。
醸造所で櫂入れする磯崎さん。

「八王子の米で、八王子の酒蔵で」を理念に始動した八王子酒造りプロジェクト「はちぷろ」。長野県の酒蔵「舞姫」を買い取り、八王子産の酒米による清酒「髙尾の天狗」を2015年に生み出した。そして2023年6月、ついにこの地に醸造所が誕生。都内で10番目となる酒蔵は駅から徒歩5分、現役の料亭の中の厨房を改装して併設。2023年秋からショップを開店し、酒も本数限定で販売予定だ。

●X(旧Twitter):tokyo802_shuzo

蔵人舞姫

鮮度抜群! 蔵元直送の地酒をグビリ

日本酒のサーバー。『東京八王子酒造』の生原酒は軽やかでのど越しよし。
日本酒のサーバー。『東京八王子酒造』の生原酒は軽やかでのど越しよし。
信州サーモン刺980円、TOKYO-Xの髙尾の天狗酒粕わさび漬け焼き1350円、東京八王子酒造prototype生原酒1100円。
信州サーモン刺980円、TOKYO-Xの髙尾の天狗酒粕わさび漬け焼き1350円、東京八王子酒造prototype生原酒1100円。

酒蔵「舞姫」直営の飲食店。「髙尾の天狗」、「翠路」、「信州舞姫」の3銘柄、常時12~15種類の日本酒が揃う。鮮度にこだわり生樽サーバーで提供される日本酒も自慢。2023年夏からはすぐそばで醸された『東京八王子酒造』の生原酒も味わえるように! そのお供には信州と八王子の食材を使った料理を。

●17:00~21:30LO、日休。
☎042-649-7942

琥珀双葉堂

待合茶屋の建物を小粋にリノベーション

カウンターに立つ店主の峯岸峻吾さん。グラス棚は建具を活用。「各部屋の違いを楽しんで、好きな席でお過ごしください」
カウンターに立つ店主の峯岸峻吾さん。グラス棚は建具を活用。「各部屋の違いを楽しんで、好きな席でお過ごしください」
メロンクリームソーダ880円、蜂蜜檸檬のチーズケーキ770円。
メロンクリームソーダ880円、蜂蜜檸檬のチーズケーキ770円。
ビーフシチューとバターライス1320円(ランチはスープ、サラダ付き)。
ビーフシチューとバターライス1320円(ランチはスープ、サラダ付き)。

解体の危機にあった1954年築の待合茶屋の建物をリノベーションしたレストラン&バー。玄関で靴を脱げば、壁紙も照明、家具も異なる和洋折衷の5つの部屋が現れる。カフェ利用はもちろん、何時でも食事ができる通し営業は頼もしい。地元精肉店の国産牛を使ったビーフシチューは、赤ワインと野菜の水分だけで煮込む濃厚な一品。

●11:30~24:00(ランチは11:30~15:00LO)、日休。
☎042-649-6555

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【Information】2023年11月4・5日開催!「日本遺産フェスティバル in 桑都・八王子」

八王子駅周辺で日本の文化と伝統を体感

現在、日本遺産に認定されている全国104の「物語(ストーリー)」が、八王子に大集結。『東京たま未来メッセ』をメイン会場に、日本遺産PR・体験ブースの出展やワークショップ、公開講座などを開催します。さらに、JR八王子駅北口に広がる東放射線アイロードでは山車の展示や居囃子、西放射線ユーロード周辺では人力車乗車体験などができる野外イベント「伝承のたまてばこ」も実施。まさに、街一体となって日本遺産を盛り上げる2日間になります。

詳細はHPまで。

●日本遺産「桑都物語」推進協議会 ☎042-620-7434

【同時開催!】駅からハイキング&ウォーキングイベント

マップにはコース内各所で使えるクーポン付き

JR東日本が開催するハイキングイベントを、「日本遺産フェスティバル in 桑都・八王子」に合わせて開催。JR高尾駅をスタートし、いちょう並木や歴史スポットなどを巡りながらJR八王子駅を目指します。途中、フェスティバルの催しにも寄れる一石二鳥のコース設定です。

詳細はHPまで。

〜「日本遺産フェスティバル in桑都・八王子」歴史と文化を辿る秋の八王子散策〜

受付場所:JR高尾駅北口(予約不要)
受付時間:9:00~11:00(ゴールは~16:30)
所要時間:約3時間45分
歩行距離:約9km

JR高尾駅北口(スタート)→①武蔵陵墓地→②真覚寺→③高宰神社→④法蓮寺→⑤本立寺→⑥西放射線横山町公園→⑦桑都テラス→⑧まちなか休憩所 八王子宿→⑨西放射線中町公園→⑩西放射線三崎町公園→⑪子安神社→⑫東京たま未来メッセ→JR八王子駅(ゴール)
*コースはやむを得ない事情により変更となる場合がございます。

【Information】2023年11月18・19日開催!八王子きってのイベント「八王子いちょう祭り」

いちょう並木の続く甲州街道(追分町交差点~小仏関跡)の沿道と陵南公園を中心に、11月18・19日に、「八王子いちょう祭り」が開催される。

鮮やかに美しく光り輝くことを意味する「光輝燦然」をテーマに、各地でイベントが目白押し。

12の関所をめぐる「関所オリエンテーリング」や、移動販売車による「世界の屋台・全国ご当地グルメ屋台村」、市内の専門店・団体による「いちょうマルシェ」など、心ゆくままに楽しむことができる。

なお19日には、ゼロカーボンや交通安全、防犯防災をアピールする「ecoカーパレード」も開催。9:00~16:30(19日は~16:00、関所オリエンテーリングは~15:30)。

●八王子いちょう祭り祭典委員会 ☎042‐668‐8383

取材・文=下里康子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年11月号より