丁寧な接客を心がけることがファンを増やすためのたった一つの道
『atelier de café table』は、コーヒー関連の会社で働いていたマスターの木村さんが2018年に脱サラして始めたお店だ。
「仕事辞めて暇だったから始めたんよ」と冗談めかして笑う木村さんだが、カフェを始めて最初の1年は苦労が絶えなかったという。大通りから少し離れているため、あまり人が来なかったのだ。
だからこそ「丁寧な接客」を徹底した。
「いらっしゃいませ」と声をかける時、お客様の顔を見る。お客様がカフェにいる間何を考えているか、何をしてほしいと思っているか、邪魔にならないよう観察し、その思いに沿って動く。お客様が帰る時、必ず出口まで見送る。
木村さんは「当たり前のことなんやけどね」と笑う。
何万もするような高級店ならまだしも、筆者だって喫茶店でここまで丁重なもてなしを受けたことはない。どれほど忙しいときも、丁寧な接客を徹底する姿勢こそが、こぢんまりとして清潔感のあるこの喫茶店を、5年間支え続けている秘訣だろう。
「お客さんには常連さんが多いんだよね」と木村さんは語る。
愛ある接客と、こだわりの詰まった手頃な値段の料理のファンがたくさんいるのだ。
ある80代の常連さんに「君はえらいよ、君の接客は本物だ」と言われた話。コロナ禍でも「せめてお弁当くらいは買わせて」と並んでくれた常連さんに支えられた、という話。
地元の方からの愛に溢れた話を聞くうちに、思わず目がうるむのを感じた。常連さんが支えたい、と思うほど愛されているこの喫茶店の、ファンになっていく自分がいる。
手頃な値段で本物の味を楽しんでほしい
喫茶店のチーズケーキが大好きな筆者は、チーズケーキを頼んだ。
クラシックな王道のどっしりとしたチーズケーキ600円。しっかりとした焦げ目、酸味と甘みのバランスが絶妙な、重すぎず、それでいて濃厚なとろけるベイクドチーズケーキだ。
一口食べるごとに口の中でほろほろととろけ、口いっぱいにチーズの香りがふわあと広がる。甘くて優しくて、コーヒーにも合う一品。チーズケーキのこだわりを聞くと、「いくつもの種類のクリームチーズを使うこと」「パルメザンパウダーを使うこと」と教えてくれた。複数のチーズの複雑な味わいが、ケーキの要となっている。
苦手な人にもうれしい、親しみやすいコーヒー
「本日のコーヒーをください」そう頼むと、木村さんから「コーヒーよく飲むの?」と聞かれた。「実はあまり飲まなくて……」と言うと「じゃあ、これやな」とブラジルという種類のコーヒーを持ってきてくれた。
ふわりとちょっぴり甘いチョコレートのような香りがする。一口含むと酸味と甘味と苦味がぴったり同じバランスで口の中に溶け込んできた。全ての味が丸みを帯びている。コーヒーの味があまり得意ではない筆者なのに、気がつけばごくごくと飲み干してしまっていた。
今までこんなことなかったのに!と驚くと、木村さんは「うちのコーヒーはね、コーヒー嫌いの人でも飲めるんだよ」とイタズラっぽく笑った。
生豆から仕入れ、木村さんが丁寧に焙煎をすることで全体的に柔らかく飲みやすい仕上がりになるとのこと。コーヒーの奥深さを知る機会になった。
本物の素材を丁寧に扱い、こだわりの一品を完成させる。それでも手頃な値段でみんなに食べてもらいたい。その一心で一つひとつ作られた品々に、「smile on the table」というこのカフェのコンセプトが表れている。筆者も、帰る頃には木村さんの軽妙なおしゃべりとチーズケーキのおいしさに、いつの間にか笑顔になっていた。
まだまだ他にも、一から木村さんが仕込んでいるローストビーフ丼、マスターイチオシのタコライス、麺の太いナポリタンや今人気急上昇中のカフェオレフロートなど、気になる料理はたくさん。写真とコメントが掲載されているメニューは眺めるだけでも楽しい。
お店の看板メニューのまぼろしのチキンカレーは、その名の通り、筆者が行った時にはすでに売り切れてしまっていたほどの大人気メニュー。スパイスを配合し、チキンもいちから仕込み、高級バターである「カルピスバター」を使用した一品は、まさに木村さんのこだわりの品だ。
値段はお手頃なのにこだわりの詰まったコーヒーやスイーツ、フードを味わいに『atelier de café table』に一度足を運んでみてはいかがだろうか。たちまちあなたも、このお店の虜になってしまうだろう。
取材・文・撮影=HOKU